全部上書きして【Lier's world】
[太字]『 早く " 皆のため " になってちょうだいね 』[/太字]
______今思えば、私の夢に、あなたを土足で踏み入れさせたのがダメでした。
[水平線]
「 お父さんお母さん! 僕ね、大きくなったら皆の役に立ちたい! 」
勇敢で世のため人のため、身体を張って悪から助けてくれる。
そんな警察官であった父に憧れていた。
『 そうかそうか、大きくなったらお前も皆の役に立ちたいかぁ 』
「 うん! 僕、お父さんみたいになりたい! 」
『 素敵ね蓮翔、じゃあ皆の役に立てるお仕事とか、今度一緒に本で見てみよっか 』
「 .........! うん! 」
母は高学歴のキャリアウーマンでした。
カリスマ性と言うべきか、スター性と言うべきか。
母は数の暴力などに負けないくらいの統制力のある人でした。
私は幸せでした。
[太字]______私のもとに、弟が生まれる前までは。[/太字]
[水平線]
オギャァァァ、オギャァァァ......!!
『 ............ 』
私のもとに弟が生まれた。
いわゆる『 お兄ちゃん 』になった。
彼の名前は『柊翔』になったらしい。
.........[漢字]自分の名前[/漢字][ふりがな]『蓮翔』[/ふりがな]よりかっこいい気がする。
そして目の前、生きていることを何回も確かめるように泣いている弟。
ただその泣き声を耳障りだと感じないのか、父も母も泣いている弟を愛しい目で見つめている。
私の耳にはキンと耳をつんざくようなハウリングの音のように聞こえた。
[太字]______自分の中の何かが、崩れていってしまうような不安感を覚えた。[/太字]
それが3歳の1月、寒くて雪も降り始めるような頃でした。
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外で無邪気に遊ぶ4歳の弟。
風になびく網と共に近くの公園に行っては虫採りをして、部屋に大切そうに飾る。
それを、小学生になったばかりの私は見ているだけだった。
ミンミンゼミ、アブラゼミ、カブトムシにクワガタ。
鳴き声を聞くだけでも怖がっていたほどに虫を嫌う私にとってその鳴き声の四重奏は地獄で、あの日聞いた弟の産声と同じくらい卑しい気分になった。
[太字]そしてこの時点でもう、毒されていた。[/太字]
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『 みんなの役に立ちたい、誰かのためになりたい 』
その想いはいつしか知らぬ間に神様に届き私に届く。
当時のクリスマスに来たものでしたから、私も弟もサンタさんが届けてくれたものだと勘違いしましたよ。
飛び跳ねながら[漢字]両親[/漢字][ふりがな]フタリ[/ふりがな]に自慢しましたよ。
「 お父さんお母さん! 僕ね僕ね、えっと! 」
『 ん、どうした蓮翔? 』
『 サンタさんがお兄ちゃんにプレゼントあげてくれたの! 』
『 あら、サンタさんは良い子の2人が寝てる時にしか来ないわよ? 』
「 うん、そうなんだけどね!サンタさんもう僕にくれたんだよ! 」
『 お兄ちゃんいいな! 僕もほしい! 』
「 そうだよね、先に僕にくれたなら柊翔にもあげればいいのに! 」
そこから、治癒能力をもらってから、転んでも大丈夫と言う安心を覚えて、弟と一緒に、外に少しは出向くようになった記憶がある。
ただ、どうやら治癒能力の対象に『 自分 』はいなかったようで。
転んで治らないのを見て泣きじゃくっていた私がいたのが、ぼんやりと残っている。
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「 ...............。」
『 蓮翔、今日も頑張ってね。私たちのために、" 皆のために " 』
いつからこうなったんでしょうか。
私はあなた達のためのお金製造機じゃないんです。
父のような、皆のために手を差し伸べられるような人になりたかったんです。
[太字]『 医者になりたい 』
そんなの、一言も言っていないのに。[/太字]
「 ............... 」
『 治癒能力も持っているんだ、蓮翔ならきっとなれる 』
「 ............うん 」
父からの期待もされ、逃げるコマンドの打てない世界で一人闘っていた。
______今日も弟は今日も外に出て虫採りばっかりしている。
将来の夢は『 昆虫博士になること 』なんて、この前言っていた。
[太字]______そう言えば私の夢、両親は聞いてくれてたんですかね。[/太字]
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『 ねぇどうして!! どうして蓮翔は "こんな事" もできないの!! 柊翔はできるのに!! 』
「.........ごめんなさい、ごめんなさいお母さん......ッ!!」
『 あなたそれでも " 皆のために " なんて言えるの!? 』
『 "皆のために" 自分の身を捧げられる人はそんなんじゃないわ!! 』
中学生になれば医者になること以外もはや認められず、ずっと勉強勉強だった。
気づけば『 皆のため 』という夢のための言葉は私を縛り付けるためだけの足枷になっていたし、柊翔は比較される材料と化していた。
あの人はそんな光景見ておきながら知らんふりをしていて、いつもの公園で虫取り網を持っている姿が見える。
『 外見てないで! 』
「 ッはい...... 」
もう純粋だったようなあの頃には戻れなくなっているはずなのに、無邪気にトンボを追いかけ回して笑っている。
あの人はいつまでも、どこまで行っても子どものようにしか映らない。
笑っている。
その笑顔の目先がこちらを向いた気がしてすぐ目を逸らした。
[水平線]
『 あなた本当に " 皆のため " になる気あるの? 』
『 柊翔はもう夢を叶える寸前まで来ているのよ? 』
怒鳴られた。もう何回目だろう。
数え切れないのはとにかく分かった。
「 ......... 」
もう、ただの金の成る木としか見られていなくなっていた。
そう気づいてしまったらもう、何が "皆のため" なのか分からなくなっていた。
『 こっちは本気でなる気あるのかって聞いてるのよ、返事しなさい!! 』
自分より背丈ももう随分と下に見えるようになってしまい、私のことを下界から見上げるような母親の姿。
「 お母さん 私ね もう何が "皆のため" なのか分からないんですよ 」
「 だから誰かのために生きるなんてことは もうできません 」
その日初めてその姿を『醜い』と感じた。
『 私はあなたを出来損ないに育てた覚えはないのに!! 自分で勝手に諦めて成れの果てがこれよ!! 』
[大文字][太字]『 あなたなんか産まなきゃよかった!! 』[/太字][/大文字]
「 .........私もです 」
[太字]「 私も あなたなんかの下に産まれてこなきゃよかったです 」[/太字]
無知であることも沈黙であることも、どちらも、どこかの誰かは罪だと謳っていた。
あの日私はできるような領域のものではない勉強をさせられていたのに、見て見ぬふりをしたあなたがいなければ。
ずっと夢を食い潰されていることを知らず私の目の前で幸せ自慢してばっかりのあなたがいなければ。
[太字]それが私の苦しみであるとも知らないのに私の前で無邪気に笑うあなたが、いなければ。[/太字]
______私は、どれだけ幸せに過ごせたでしょうか。