全部上書きして【Lier's world】
1月10日。
この日ほど緊迫した金曜日は未だかつて存在しなかっただろう。
神々廻「............」
八尋「............」
少し右の手前、彼女は確かにそこにいる。
だけど右手に握られたシャープペンシルは動かないまま、ノートに何の忘備録も残さない。
6時間目の社会科の時間で、何ひとつとしてメモを残さない。
端から見れば余裕しゃくしゃく、
僕から見れば生きる意味を全て失っただけの、ただの生きる屍のようだ。
[斜体][中央寄せ]キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン[/中央寄せ][/斜体]
「______はい、今日の授業はここまで〜。」
「気をつけ〜、礼。」
[太字]「「ありがとうございましたー」」[/太字]
6時間目が終わった。目配せをするだけで彼らは真剣な眼差しに切り替わる。
その目線の先には、彼女がいる。
彼女は真っ先に廊下へ姿をくらます。
神々廻「............?」
近くの降り階段には上履きが乱雑に脱ぎ捨てられていた。
上履きは色によって学年の見分けがつくようになっているから、
それが「赤い」というだけですぐに僕たちと同じ2年生だと分かる。
ただその上履きが、グリム童話のシンデレラが脱ぎ捨てたガラスの靴に似てしまっているようで不気味だった。
______刹那、
[太字][斜体][大文字]バリンッ!![/大文字][/斜体][/太字]
という、辺りの空気を一瞬にして切り裂いてしまいそうなほどの音がした途端に、
窓から見える全ての景色が一変する。
神々廻「...............」
不遊「ッおい神々廻!」
神々廻「分かってる.........」
不遊「ッ、.........こりゃ相当やってくれてんなァ........」
それまで辺りに広がっていた空が、雲が、太陽が______
一瞬で鮮血を浴びたかのような色に染まり、
臓物を握りつぶしたらああなるんだろうと思えるような色ほどに赤黒くなり、
その光ですらも、赤黒い世界に覆われ失われていた。
夕凪「あぁもう、『先生』として愚痴吐かれるより100倍も迷惑な事に巻き込むんじゃねぇよ.........!」
春喰「.........行こう。先生も対応に動き出してる」
神々廻「............ねぇ、最後に確認だけ......」
春喰「、?」
神々廻「[太字].........本当に行くの?[/太字]」
不遊「..........はァ何今更、セーブデータ消すの止めてくる警告表示みたいな事言ってんじゃねーよ」
不遊「[太字]もう俺は覚悟決めてんの、このまま大人しく指くわえて見てろなんてごめんだよ[/太字]」
春喰「[太字]............僕も[/太字]」
春喰「[太字]僕も、.........僕も、そんなの黙って見てろだなんて、そんな約束なんて守れない悪い子だからさ[/太字]」
神々廻「......正気なの?」
春喰「うーん、まぁ正気じゃないかもね。」
春喰「[太字]でもそのくらいバカにならないと生きて帰れないと思うよ。[/太字]」
神々廻「.........それ貶してる?」
春喰「さあ。」
春喰「............もう言い訳なんかしてないで行くよ。立ち止まったってお相手サマは待ってくれないんだから」
あの時近くを通ってはトンネルに止まったパトカーを思い出させるほどの赤い光が強くきらめく、校庭の真ん中へと走り出した。