全部上書きして【Lier's world】
「当たり前、なぁ.........。」
独り言。それはどうも虚しく部屋に広がるだけの空気の揺れ。
ただ、言わないと自分の身体やらが爆発しそうだった。
それは二人分の独り言だから。
『それ』は火薬を喉元から吐き出すだけの作業であり。
虚しい事に、変わりはなかった。
それにしても。
『当たり前』などアイツが喋るにしては、それは珍しい言葉だった。
曖昧な返事で返してばかりの彼に、そんな自信がどこから湧いて出ているのか不思議で仕方がなかった。
いつもであれば、のらりくらりな返事だけして逃げるような悪ガキみたいなアイツが。
............でも、どうせアイツの事なんだ。
[太字]『 友情 』だからって、笑うんだろうな。
.........きっと俺の言ってたような、本物に限りなく近かったあの友情の事じゃない。
確証を持ってそう言える。そう思える。
何でかって?
答えは簡単だし、単純で明快。
______俺はそいつの言いたい事、全部分かるから。[/太字]
[水平線]
わさび「......にゃぁ」
夕凪「ん、ただいま」
『寂しかった』と言わんばかりに頬を足元に擦り込んでくるわさび。
その頭を優しく撫でて、深いため息をつく。
言わずもがな、疲れていた。
一番疲れてるのはもはや棒のようになった足.........と言いたいところだが。
回りすぎた自分の頭の方が疲れていると自分でも分かっていた。
そりゃ一度にあんな情報量入ってきたら、頭パンクしたっておかしくはないわ。
そこに前世やら今世やらがあって、
能力なんてもんが世界に[漢字]蔓延[/漢字][ふりがな]はびこ[/ふりがな]ってて。
んで[漢字]一生のお願い[/漢字][ふりがな]能力[/ふりがな]を俺らのモノにしてくれんのは『 神様 』で?
............何だよこの世界。
改めて文字起こししても、それしか出てくる言葉もない。
わさび「にゃあ」
夕凪「ん......どうした、ご飯か」
今日はご飯置いてきたとは言え朝から一人だったもんな、まぁそうなるわ。
キッチンシンクの上の戸棚、ちゅ〜るを1本取り出して義手の方で差し出す。
ちゅ〜るはまぐろ味。
それと戸棚はいつも頭が当たりそうになって怖いんだよな、とか思いながら無心で戸棚を見ている。
[太字]______ふと戸棚の中、パステルカラーの綺麗なマカロンが目に映った。[/太字]
[小文字]夕凪「.........マカロン、?」[/小文字]
わさび「にゃぁ?」
夕凪「ん、[小文字]......あぁ、水飲みに行ったのか[/小文字]」
微妙に余ったちゅ〜るを放ったらかし、戸棚のマカロンを手に取る。
.........それは可愛らしい猫型のマカロンであり、とても器用に作られている。
俺も、一度作ろうとしてみて見事に失敗した。
.........そして次にそれを作ったのがうちの生徒、
赤いふんわりとした髪がキャッチーな、俺の事『せんせー』なんて呼んでいる[太字]神威[/太字]だった事、
そしてその次、それをもらったのがバレンタインである事を思い出した。
何だか食べるのももったいないのと、それが申し訳ない気持ちで揺らいだまま手を出していなかった......はず。
...............気持ちはもらっとかないと、迷惑かな。
今はその考えだけ頭に浮かんでいて、パステルピンクの、猫型のマカロンを手に取って、
______そうやって口に運んだピンク色のマカロンは無論、甘かった。
優しさを感じるくらいに甘くて、少しだけ涙の味のする、そんなマカロンだった。
[水平線]
______彼の墓の佇む墓地には、季節外れに彼岸花が咲いていた。
どこを見ても、赤の彼岸花。
その中で一つ、彼の墓場には白の彼岸花が置かれていた。
白く光ったようにも見える彼岸花。
[太字]______貴方は何を想うだろうか。[/太字]
『 孤高、それは美しい 』と考える人もいれば
『 一つだけ真っ白など変わり者 』やら
『 独り善がりなモノだ 』なんて思うような人もいて
はたまた、周りが血濡れた色でも『 汚れている 』なんて、もしかしたら君は言うかもしれない。
______そばに置かれた手紙は、こう語る。
[太字]『 貴方が私の事を忘れていたとしても、私は貴方を想い続ける 』と。[/太字]