赤葦京治は違ったらしい。
#1
赤葦と先輩彼女がすれ違う話。(ハピエン)
わたしの後輩である京治くんと付き合って11か月目を迎えようとしてるころ。
わたしたちはどうやら“倦怠期”というものらしい。といっても、私はまだ全然好きなのだけど。
うすうす気づき始めたのは丁度一カ月前辺りから。
前までは毎日LINEをして、返信も割と早くて、デートだってしていたのに、LINEは段々少なくなるし、返信も遅い。デートなんてもってのほか。
それでも前まではめげずにLINEを送っていたけど、三日もあくようになってからは辛くて辞めてしまった。
そんな時期、帰ろうと一人で校門を目指していた時に見かけない制服の女の子が立っていた。
「どうしたの?誰か呼んでこようか?」
そう声をかける。
見たところ、わたしの一つ下、京治と同じ年くらいの可愛らしい子で、ここから若干離れた女子高の子だった。
そして、その子の発した言葉に、私の思考は真っ白になった。
「京治を待ってて。赤葦京治ってわかりますか?今日、鍵忘れちゃって。丁度お父さんもお母さんもいないから泊めてもらいたくいて来たんですけど…」
呼び捨て。泊まる。そんな言葉のピースがピタっ、とハマる。
そっか、わたしたち、もう別れたことになっていたのか。気付かなかった。
「赤葦くんと、仲、いいんだね?」
こわくて、意味もないのにそう聞いてしまう。
「?はい、土曜日の部活お休みの日に一緒にお買い物行こうって約束してるんです!」
土曜日、休みだったんだね。わたしには、あるって言ってたのに。
「そっ、か。仲良くね!た、ぶん、もうすぐ練習終わると思うから」
それだけ言って足早にその場を離れる。
悔しさとか、悲しさとか、負の感情ばかりがごったになって押し寄せる。
その日はもう、ご飯も食べずに泣き疲れて眠りに落ちた。
「…はよ」
朝起きてもやっぱり辛くて、わたしはマイナスの感情を漂わせて学校へと向かった。
「はよ。…ってどうした⁉」
わたしの親友ともいえる木葉は驚いてわたしを見あげる。
「木葉今日お昼一緒ね。カラオケも付き合って。」
「は、それ大丈夫なヤツ????」
間男にはなりたくねぇぞ、と訝しげに見てくる木葉。
「絶対大丈夫。いいから付き合ってってば」
相手を慮る余裕なんてなくて強引に約束させる。
「いいけどよ。じゃあ昼と放課後な。了解」
「ありがと」
いつもなら授業もちゃんと聞くけど、そんな気にもなれなくて、うつぶせになって目を閉じる。
いつもちゃんと受けてる甲斐あって、調子が悪いだけと判断した先生たちはほっておいてくれた。
お昼、屋上へと向かう階段で隣り合わせで木葉とご飯を食べるけど、食欲もなくて結局木葉が食べてるのを眺めている。
「で、何あったんだよ」
木葉が焼きそばパンを食べ終わってから聞いてくる。
「…赤葦くんはね、別の彼女、もういたっぽいの。」
「は?赤葦に?赤葦だろ?」
信じられない、という風に聞いてくる木葉。
「でもね、LINEとかデートとか、教室にも来なくなったのはもう話したでしょ?」
「おう」
「昨日ね、“京治”って呼んでてね、赤葦くんのおうちに泊まる女子高の女の子に会ったの。土曜日、一緒にお買い物行くんだって。わたしには、部活あるって言ったのに」
は、と小さく零す木葉。まあそういう反応にもなるだろう。わたしだって彼がそんなことをするような人だとは思ってなかったんだから。
「まじ…?」
「まじ。」
「赤葦に確認は?」
「LINE送ったけど夜になっても既読つかなくてやめた」
そういうと木葉はマジか…という顔をする。
「…それは…アウトだな…クロだろ…」
「だからカラオケ付き合って」
「…なんなりと。今日部活なくてよかったわ…。俺、どんな顔して合えばいいかわかんねーもん」
わたしと同じくらい落ち込んでいる木葉。頼りにしていた後輩なだけあってショックも大きいのだろう。
「取り敢えず放課後カラオケ直行な」
チャイムが鳴ったのをきっかけにわたしたちは一旦解散した。
放課後。わたしたちは約束通りカラオケに来た。
そして、飲み物を取りに行ったはずの木葉がありえない人を連れてきた。
「先輩の中では、彼氏じゃない男性と一緒にカラオケに行くのは浮気に入らないんでしょうか?」
そう、一方的に何も言わないまま別の彼女を作った男、赤葦京治を連れてきたのだ。
「は?え?どういうこと?木葉?」
状況がわからず木葉を見ると、俺もわからないけどごめん、とでも言いたげに首を振られる。
「質問に答えてください。先輩の中では、彼氏じゃない男性と一緒にカラオケに行くのは浮気に入らないんでしょうか?」
再度同じ質問を繰り返す赤葦をわたしは睨みつける。
「それ、ほんとにあんたが言ってんの?」
今まで見せたこともない口の悪さに、驚いた顔をする赤葦。
「いや、赤葦、今回はほんとに、俺から見てもありえねーぞ」
その木葉のフォローに、益々“わからない”と、顔を顰める。
「取り敢えず座れ。ちゃんと話そうぜ」
そういった木葉は、近くにいた店員さんに「もう一人追加で」と声をかける。
そうして1対2の形で座ったわたしたち。
「…すみません、さっきの“俺が言ってるのか”というのはどういう意味でしょうか」
座って少し落ち着いたのか、いつもの口調で聞いてくる赤葦。
「どういうこともなにも、赤葦くんが彼女作ったんでしょ。同い年の、お家にも泊められるくらい仲が良くて、デートにも行く彼女を。きっとLINEだって仲良くやってんだろうね。」
そんな風に嫌味を込めて吐き捨てると、はっとしたような顔をする赤葦くん。
「あいつは違くて…!」
「別に弁明なんかしなくていいよ。もうわたしたち別れてるんだから。どうでもいい」
「…っ、ほんとに違うんです、あいつは従妹で!土曜日は先輩に渡すプレゼントを買いに行くのを手伝ってもらおうと思って…!」
「…でもお前、LINEも碌に返してなかったし教室にも来なくなったじゃん」
わたしが思ったことを代弁してくれる木葉。
「それ、は、バイトをぎちぎちに入れてて、余裕がなくなってました。すみません。一年記念に、できるだけいいものを渡したくて」
でも、それでこんなことになってちゃしょうもないですね。と滅多に顔に出さない赤葦が死ぬほど辛そうな顔をする。
「…わかった。わかったけどさ、わたしはそれをどうやって信じればいい?口では何とでもいえるよ、赤葦くん。」
「…今度、いえ、明日にでも従妹は連れてきます。それ以外は、一生をかけて証明します。先輩が嫌になっても、離しませんから」
そんなプロポーズみたいなことを言ってくるものだから、私の視界がにじむ。
「…ばかじゃないの。嫌になるわけないじゃんか…!」
あふれ出す涙を、近くに来た赤葦が拭いて、抱きしめてくれる。
「別に、け、京治がそばにいてくれたら特別なものなんて要らないの!だから、離れないでよ!不安にさせないで!」
そう泣きじゃくる私を抱きしめる赤葦。
「名前、呼んでくれてうれしいです。先輩が呼んでくれないから、めちゃくちゃ焦りました。木葉さんも、疑ってすみませんでした。」
「ほんとだよ。巻き込むな、俺を」
そういう木葉だけど、優しいから相談したらまた聞いてくれるのを、わたしは知っている。
「ありがとう、木葉」
素直に感謝を伝えれば、「別に、お前らが幸せそうなら俺はいいんですよ」とそっぽを向く木葉。
きっとこれからも、京治とともに迷惑はかけてしまうけれど、これからも仲良くしてくれると嬉しいな、なんて。
「なぁ、なんでここに居んのわかったの?」
ふと疑問に思ったのか、木葉が京治に尋ねる。
「朝、具合が悪そうだったので昼に声をかけに行こうとしたらいなかったので帰りに探したらここに入っていくのが見えて。急遽バイトを断ってきました」
そう淡々と答える京治。
そんな京治の回答に顔を見合わせた木葉とわたしの思ったことは言うまでもないだろう。
「「いや、バイト…」」
わたしたちはどうやら“倦怠期”というものらしい。といっても、私はまだ全然好きなのだけど。
うすうす気づき始めたのは丁度一カ月前辺りから。
前までは毎日LINEをして、返信も割と早くて、デートだってしていたのに、LINEは段々少なくなるし、返信も遅い。デートなんてもってのほか。
それでも前まではめげずにLINEを送っていたけど、三日もあくようになってからは辛くて辞めてしまった。
そんな時期、帰ろうと一人で校門を目指していた時に見かけない制服の女の子が立っていた。
「どうしたの?誰か呼んでこようか?」
そう声をかける。
見たところ、わたしの一つ下、京治と同じ年くらいの可愛らしい子で、ここから若干離れた女子高の子だった。
そして、その子の発した言葉に、私の思考は真っ白になった。
「京治を待ってて。赤葦京治ってわかりますか?今日、鍵忘れちゃって。丁度お父さんもお母さんもいないから泊めてもらいたくいて来たんですけど…」
呼び捨て。泊まる。そんな言葉のピースがピタっ、とハマる。
そっか、わたしたち、もう別れたことになっていたのか。気付かなかった。
「赤葦くんと、仲、いいんだね?」
こわくて、意味もないのにそう聞いてしまう。
「?はい、土曜日の部活お休みの日に一緒にお買い物行こうって約束してるんです!」
土曜日、休みだったんだね。わたしには、あるって言ってたのに。
「そっ、か。仲良くね!た、ぶん、もうすぐ練習終わると思うから」
それだけ言って足早にその場を離れる。
悔しさとか、悲しさとか、負の感情ばかりがごったになって押し寄せる。
その日はもう、ご飯も食べずに泣き疲れて眠りに落ちた。
「…はよ」
朝起きてもやっぱり辛くて、わたしはマイナスの感情を漂わせて学校へと向かった。
「はよ。…ってどうした⁉」
わたしの親友ともいえる木葉は驚いてわたしを見あげる。
「木葉今日お昼一緒ね。カラオケも付き合って。」
「は、それ大丈夫なヤツ????」
間男にはなりたくねぇぞ、と訝しげに見てくる木葉。
「絶対大丈夫。いいから付き合ってってば」
相手を慮る余裕なんてなくて強引に約束させる。
「いいけどよ。じゃあ昼と放課後な。了解」
「ありがと」
いつもなら授業もちゃんと聞くけど、そんな気にもなれなくて、うつぶせになって目を閉じる。
いつもちゃんと受けてる甲斐あって、調子が悪いだけと判断した先生たちはほっておいてくれた。
お昼、屋上へと向かう階段で隣り合わせで木葉とご飯を食べるけど、食欲もなくて結局木葉が食べてるのを眺めている。
「で、何あったんだよ」
木葉が焼きそばパンを食べ終わってから聞いてくる。
「…赤葦くんはね、別の彼女、もういたっぽいの。」
「は?赤葦に?赤葦だろ?」
信じられない、という風に聞いてくる木葉。
「でもね、LINEとかデートとか、教室にも来なくなったのはもう話したでしょ?」
「おう」
「昨日ね、“京治”って呼んでてね、赤葦くんのおうちに泊まる女子高の女の子に会ったの。土曜日、一緒にお買い物行くんだって。わたしには、部活あるって言ったのに」
は、と小さく零す木葉。まあそういう反応にもなるだろう。わたしだって彼がそんなことをするような人だとは思ってなかったんだから。
「まじ…?」
「まじ。」
「赤葦に確認は?」
「LINE送ったけど夜になっても既読つかなくてやめた」
そういうと木葉はマジか…という顔をする。
「…それは…アウトだな…クロだろ…」
「だからカラオケ付き合って」
「…なんなりと。今日部活なくてよかったわ…。俺、どんな顔して合えばいいかわかんねーもん」
わたしと同じくらい落ち込んでいる木葉。頼りにしていた後輩なだけあってショックも大きいのだろう。
「取り敢えず放課後カラオケ直行な」
チャイムが鳴ったのをきっかけにわたしたちは一旦解散した。
放課後。わたしたちは約束通りカラオケに来た。
そして、飲み物を取りに行ったはずの木葉がありえない人を連れてきた。
「先輩の中では、彼氏じゃない男性と一緒にカラオケに行くのは浮気に入らないんでしょうか?」
そう、一方的に何も言わないまま別の彼女を作った男、赤葦京治を連れてきたのだ。
「は?え?どういうこと?木葉?」
状況がわからず木葉を見ると、俺もわからないけどごめん、とでも言いたげに首を振られる。
「質問に答えてください。先輩の中では、彼氏じゃない男性と一緒にカラオケに行くのは浮気に入らないんでしょうか?」
再度同じ質問を繰り返す赤葦をわたしは睨みつける。
「それ、ほんとにあんたが言ってんの?」
今まで見せたこともない口の悪さに、驚いた顔をする赤葦。
「いや、赤葦、今回はほんとに、俺から見てもありえねーぞ」
その木葉のフォローに、益々“わからない”と、顔を顰める。
「取り敢えず座れ。ちゃんと話そうぜ」
そういった木葉は、近くにいた店員さんに「もう一人追加で」と声をかける。
そうして1対2の形で座ったわたしたち。
「…すみません、さっきの“俺が言ってるのか”というのはどういう意味でしょうか」
座って少し落ち着いたのか、いつもの口調で聞いてくる赤葦。
「どういうこともなにも、赤葦くんが彼女作ったんでしょ。同い年の、お家にも泊められるくらい仲が良くて、デートにも行く彼女を。きっとLINEだって仲良くやってんだろうね。」
そんな風に嫌味を込めて吐き捨てると、はっとしたような顔をする赤葦くん。
「あいつは違くて…!」
「別に弁明なんかしなくていいよ。もうわたしたち別れてるんだから。どうでもいい」
「…っ、ほんとに違うんです、あいつは従妹で!土曜日は先輩に渡すプレゼントを買いに行くのを手伝ってもらおうと思って…!」
「…でもお前、LINEも碌に返してなかったし教室にも来なくなったじゃん」
わたしが思ったことを代弁してくれる木葉。
「それ、は、バイトをぎちぎちに入れてて、余裕がなくなってました。すみません。一年記念に、できるだけいいものを渡したくて」
でも、それでこんなことになってちゃしょうもないですね。と滅多に顔に出さない赤葦が死ぬほど辛そうな顔をする。
「…わかった。わかったけどさ、わたしはそれをどうやって信じればいい?口では何とでもいえるよ、赤葦くん。」
「…今度、いえ、明日にでも従妹は連れてきます。それ以外は、一生をかけて証明します。先輩が嫌になっても、離しませんから」
そんなプロポーズみたいなことを言ってくるものだから、私の視界がにじむ。
「…ばかじゃないの。嫌になるわけないじゃんか…!」
あふれ出す涙を、近くに来た赤葦が拭いて、抱きしめてくれる。
「別に、け、京治がそばにいてくれたら特別なものなんて要らないの!だから、離れないでよ!不安にさせないで!」
そう泣きじゃくる私を抱きしめる赤葦。
「名前、呼んでくれてうれしいです。先輩が呼んでくれないから、めちゃくちゃ焦りました。木葉さんも、疑ってすみませんでした。」
「ほんとだよ。巻き込むな、俺を」
そういう木葉だけど、優しいから相談したらまた聞いてくれるのを、わたしは知っている。
「ありがとう、木葉」
素直に感謝を伝えれば、「別に、お前らが幸せそうなら俺はいいんですよ」とそっぽを向く木葉。
きっとこれからも、京治とともに迷惑はかけてしまうけれど、これからも仲良くしてくれると嬉しいな、なんて。
「なぁ、なんでここに居んのわかったの?」
ふと疑問に思ったのか、木葉が京治に尋ねる。
「朝、具合が悪そうだったので昼に声をかけに行こうとしたらいなかったので帰りに探したらここに入っていくのが見えて。急遽バイトを断ってきました」
そう淡々と答える京治。
そんな京治の回答に顔を見合わせた木葉とわたしの思ったことは言うまでもないだろう。
「「いや、バイト…」」
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