もう一度逢いたい。
「何が変なの?」
「……は?」
驚いた。思わず声を上げてしまった。
気づかないうちに、隣に人がいた。しかも知らない人。
誰?
僕の頭は、今その疑問でいっぱいいっぱいだ。
見てる感じ、同い年ぐらいだろうか。髪は少しくせっ毛で、瞳は今にも吸い込まれそうなほどの漆黒だ。
そこに日光が反射し、きれいなハイライトができている。
よく見ると、すごく整った顔立ちだ。これがまさに世が言う「イケメン」というやつなのではないか。
以外と悪いもんじゃないな。
「どした?俺の顔に何か付いてる?」
その言葉を聞いてハッとする。知らない人に見惚れてしまっていた自分が不甲斐なくて、恥ずかしい。
「い、いえ。特に何も……」
「そう?ならいいけ……」
「グゥ~」
しまった!!相手が話しているというのに(しかもイケメンが)それを腹の音で遮ってしまうなんて!!
世の中の、ありとあらゆる女子たちに殺されてしまうのではないか!?
「ふっ、ふふっ、あはははははっ!!!!」
「そ、そんなに笑わなくても……」
恥ずかしい。ただただ恥ずかしい。さっきまで考えていたことまで恥ずかしい。
「あはっ!!ごめっ、ふふっ」
「っ〜〜!!」
もう嫌だ。今すぐここから逃げ出したい。何処か遠くに行きたい。穴があったら入りたい。
しばらく経って、どうやら笑いが収まったらしい彼がこちらを向いて、口を開ける。
「あ、そうだ。これやるよ!」
そう言いながら、ほいっと僕におにぎりを投げてきた。
「鮭むすび。それ、マジで美味いから食ってみ!!」
「えっ、そんなの悪いよ。だってこれ、君のなんでしょ?」
「いいから、いいから。俺、もう一つあるしさー!」
「ほ、本当にいいの?」
「だからいいって。俺が食べてほしいの!!だから食べろよ?」
「わかった……」
僕はそう言って、ラップを剥く。出てきたのは、米粒一つ一つ、粒が立っていて美味しそうなおにぎり。
とりあえず、かぶりついてみた。
「美味い!!」
「だろ?やっぱりそうだよな!?」
「うん!!」
本当に美味しかった。僕はその後も夢中でおにぎりにかぶりついていて、それを見てた彼がまた笑っていた。
なぜだかその状況が面白くて、僕も気づいたら食べ終わって、笑い転げていた。
あぁ、いつぶりだろう。こんなに大笑いしたのは。
父さんが亡くなって、母さんが毎日、枕をぬらすようになった頃にはすでに、僕の中から『笑顔』の存在は消え失せていた。それが今、蘇ったんだ。たった一瞬にして、見知らぬ人によって。
「名前、聞いてなかったよな?なんて言うんだ?」
彼が名前を聞いてきた。知らない人に名前を教えるのはどうかと思うが、目の前にいるのは少なくとも悪い人ではなさそうだ。思い切って、名乗ってみよう。
「あ、えっと……千尋。中野千尋って言います!」
「へ〜。千尋ね。OK!俺の名前は西口響です!!よろしくね!!」
「よ、よろしく(?)」
僕は、差し出された手を、勢いに身を任せ、握り返した。
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