―――――川に飛び込んだ上司の後を追いながら、空を見上げた。
眩しい程に輝く夕焼けに目を細めながら、小さく溜息をつく。そしてまた足を進めた。


川にて自殺をしていた青年を助けた[漢字]中島敦[/漢字][ふりがな]なかじまあつし[/ふりがな]は、青年の態度に戸惑っていた。其処に＿＿＿＿＿＿
『あ、やっと見つけた』
声が聞こえた。敦と青年がそちらを向くと其処には少女がいた。
背中まで伸びた黒髪に、青く輝く瞳。整った顔立ちはまさに美少女だ。
少女は青年に駆け寄ると、その瞳に憂いと安堵を宿しながら、
『心配しましたよ、急に飛び込むんですから』
「あはは、すまないねェ。君が居るということは国木田君も居るのかい？」
『国木田さんは、別の処を探しています。どうします、先に依頼の方を』
「それだけど、少しいいかい？」
青年はそこで会話を終わらせると、困惑している敦の方を向いて笑った。
「彼に少し迷惑をかけてしまってね、何かお詫びをしようとね」
『そういうことですか、なら…』
「こんな処に居ったか、この唐変木！」
男だ。川の向こうから男が此方に話しかけている。長く伸ばした髪を一つに束ね、スーツを纏った男は青年を睨むと、
「お前はどれだけ俺の計画を乱せば―――」
「そうだ君、良いことを思いついた。彼は私の同僚なのだ。彼に奢ってもらおう」
青年は男を無視しながら話を進める。敦は青年に聞かれたことに答えながら、先程から無言を貫いている少女を見た。長い睫毛を伏せたその姿は、一目見るだけで惚れてしまうような、その位の美しさがあった。
そんな敦に青年は声をかける。川の向こう側に居た男は叫んだ。
「俺の金で勝手に太っ腹になるな！太宰！」
「太宰？」
青年は敦の声に振り返り、怪しげに笑った。
「太宰、[漢字]太宰治[/漢字][ふりがな]だざいおさむ[/ふりがな]だ」