真正面に映るダミアンの顔に、心なしか心臓の音が早くなる。

「痛っ。」

足のほうに、痛みが走る。
さっき、転びそうになった時にひねってしまったようだ。

「よっとっ。」

すっと、手に触れていた地面から遠ざかりダミアンの腕の中で宙に浮かぶ。

「ちょちょっ、じなん。アーニャ自分で歩ける。」
「いいから。というか、パンチしようとして、自分がケガするなんて、大馬鹿のおおばかだな。」
「そんなバカバカ連呼するな。じなんがからかうのが悪い。」
「…なんだとー。」

ベッキーは思った。

「あの二人、あれで付き合っていないなんて不思議よねー。」

いつも文句ばっかり言っているダミアンの取り巻きまで、うんうんとうなずいていた。


～教室～

「おや、フォージャーとデズモンドはどうした？」

ヘンダーソン先生が不思議そうに教室を眺める。

「アーニャちゃんがケガしたので、保健室にダミアンが送ってまーす。」

ベッキーが言うと、何やら廊下で口げんかのような声が聞こえてきた。

「アーニャ、ぶすじゃないもん。可愛いもん。」
「けっ可愛い奴は、自分のことかわいいとか言わないぞ。」
「ダミアンの嘘つきー。」

廊下にいたのは、型押しに包帯を巻いたアーニャとダミアンだった。

「こら、何騒がしくしとる。けがの手当てができたのなら、席に座りなさい。」

そういわれ、二人ともおとなしく自席へ戻った。

「オホン、今日は、来週末に行う舞踏会のことについて。」

アーニャは、目が点になる。

「ぶどう会って何？美味しい食べ物？」
「違うわよ。アーニャちゃん。ぶどう会じゃなくて舞踏会。お城で踊ったりするのよ。」
「おーアーニャ、お姫様になれる？」
「そうよー。どうせなら、王子様も欲しいわよね。」
　
そう言って、ベッキーは、後ろの席にいるダミアンに向かってウインクした。
（なんでベッキー。次男にウインクした？）