【参加終了】無くした記憶と宝探しの旅
重い扉が閉まり、また次の廊下が現れる。
今回の廊下は、少し長めだ。
圧死するにしてももう少し時間があると思うので、壁に寄りかかりながら地面にずるずると着地する。
疲れた。
義人「残してきてよかったのかな…」
珍しく弱音を吐く義人に、ハンカチを渡す。
彼はハンカチを受け取ったが、涙で赤くなった目元を拭うことなく、それをまじまじと見た。
誠「…なんかついてる?」
義人「…いや…このハンカチ、どこかで見たような気がして…」
凪「僕も、なんかこのデザインどっかで見たような…」
不思議そうに首を傾げる2人には悪いが、それは貰い物だ。
自分も販売元を知らない。
誠「これ、貰い物なんだよね〜…確か、誕生日祝い、かな。」
どこでもらったんだっけ。
何歳の時の誕生日だったっけ。
誰に、もらったんだっけ。
やめよう。
これ以上深掘りしても、頭痛を起こして倒れるだけだ。
義人「これ、刺繍手縫いだよね?ハンカチ自体は市販のやつだと思うけど…」
凪「わかんないな…これも記憶に関係してる…のかな…?」
誠「う〜ん、とりあえず休憩しよう。あたし、さっき全力疾走しすぎて足ガックガクなんだよね…」
生まれたての子鹿のようにプルプル震える足を見ていると、情けなくなる。
日頃の運動不足が仇となったか…。
凪「誠くんにも、羽がついてればいいのに…」
誠「あっても落ちる自信しかない。」
義人「ちょっと寝るか?」
誠「そうするわ…」
膝を胸に近づけ、そのくぼみで頭を安定させる。
案外すぐ、意識が真っ暗になった。
[水平線]
*義人side
義人「っと…案外すぐ眠っちまったな…」
凪「……疲れたんでしょ、僕も寝ようかな…」
足を投げだし、腕を組んだ凪。
義人「もう少し控えめに寝ろよ…てか、聞きたいことあるんだけど…」
凪「なに?」
義人「凪君ってさ、まこちゃんのこと好き?」
凪「ひゃがっ!?!?」
彼にとって予想外の質問だったのか、変な声を出して壁に後頭部を打つ。
へぇ…照君といい、さっきからなかなか甘酸っぱいな…
凪「う〜〜〜〜…正直言って、わからん…」
ゆでダコのようになってしまった凪をしばらく微笑ましく見つめていたが、猛烈なジト目で睨まれた。意外と怖い。
義人「なるほど…てかお前いくつだっけ?」
凪「150歳」
拗ねたような表情で答える凪は、中学生くらいの少年に見えた。
義人「…まぁ、悪魔だし仕方ないか…でも、時間無いぞ。次…無傷で済むとは限らない。」
凪「……わかってるよ…」
そのまま俯いてしまった凪を放っておきながら、自分のことについて考える。
恋愛小説を読んだだけの焼け付き刃の知識で、偉そうなことは言えない。
ただ、初めて好きになった人に、気持ちを伝えられず後悔している自分のようになってほしく無いだけだ。
ふと、灯火の生存が絶望的なことを思い出した。
誠が大切に握っている簪を少しお借りして、光に透かす。
灯火の瞳のような朱色は、松明をきらりと反射していた。
そこでやっと、気がついた。
灯火は、僕がここにくる前に好きになった子にとても似ている。