【参加終了】無くした記憶と宝探しの旅
甲高い声に耳を塞ぐと、煙が現れる。
『…こんなところで負けるわけにはいかないんだ…!私はもっと強くなれるっ!』
そういった彼女はもはや別人だった。
憔悴しきった綺麗な顔は老婆に代わり、手には爆弾を持っている。
『もういいっ!このまま…消してやるっ!!!!』
凪「…っマズいっ!!!!!爆発するっ!!!!!」
誠「…え!?」
羽を大きくした凪はあたしを抱え、照のいる方に飛んでいく。
それより先にはられが美莉愛の元に向かうのが分かった。
美莉愛ほはぼ回復していて、何やらこそこそと話し合っている。
はられと美莉愛がこくりと頷くと、あたし達をこちらへ手招きした。
凪「はられちゃん!爆発…」
はられ「分かっています。後ろへ。」
誘導されるがままに後ろへ下がると義人と黒鵜も合流し、美莉愛とはられが手を前に構えた。
照は最後まで後ろに行くことを躊躇していたが、はられの決死の表情に覚悟を決めたようだ。
敵が爆弾を投げると同時に、月の使い達の力強い声が響く。
はられ「ヒースヒェンバリア・ムーン!」
美莉愛「セレネ・ドーム!真空!」
桃色のバリアが目の前に広がり、黄金のドームがあたし達を囲う。
照「…ノワール・エ・ブラン」
ひっそりと呪文を唱えた照の声は、心配と愛情に包まれているように聞こえた。
一瞬でものすごい地響きと轟音に包まれ、全員がそれに負けない悲鳴をあげる。
灯火は無事だろうか。
この神が創ったような建築物が頑丈なことを祈り、耳を塞いで目をギュッと瞑る。
何も見たくない。
思わず目から涙が溢れる。
それでも、近くに知っている温もりがあるのはとてもありがたかった。
轟音と地響きが止む。
義人「お…終わったのか…」
そう尋ねる義人の声は、今までにないほど震えていた。
美莉愛「いてて…」
はられ「耳が…」
2人の耳からは血が流れている。
凪「…ヒーレイズワープ」
凪の体から黒っぽい光が出たかと思うと、はられと美莉愛の血が止まる。
その代わり、あたしの耳に少し痛みが走った。
凪「…ごめん。痛いよね。僕は…悪魔だから…痛みを全員に分割させることしかできないんだ…」
悲しげに呟く凪の横顔は、いつもよりも近かった。
その瞬間、ポケットに何かが入っているのに気がついた。
出してみると、それは折れた灯火の簪だった。
この簪には、持ち主の魂が宿っていると彼女から聞いた。
灯火の生存は、絶望的だ。
黒鵜「いえ、構いません。ただ、照さんの具合が悪そうなのです。」
照「うっ…」
いつもよりさらに青くなった顔で、必死に吐き気を抑えている。
凪「魔力の使いすぎだ…!禁断症状が出てる…このままじゃ死ぬ!」
はられ「とりあえず落ち着かせましょう。」
照「…っ…みんな、先行って…お願い…」
義人「それは無理だ。これ以上仲間が減ったら…!」
照「僕は、みんなの記憶を取り戻すのを邪魔したくない。だから…」
はられ「わかりました。私が残ります。美莉愛、誠達をお守りして!」
美莉愛「…いくらはられ様の命令とはいえ、それはできません。美莉愛は、最後まではられ様のお供をいたします。」
真面目な顔つきで言った美莉愛は、いつもの無邪気な彼女とは違う、強い表情だった。
はられ「…そうですか。後悔はしないですね?」
美莉愛「はい。…みんなは先へ。早く行って。」
誠「…灯火だって…いないのに…」
折れた簪を握り締め、呟く。
はられ「本人が邪魔をしたくないって言ってる!!!!!だから早く行って!」
大人びて見えたはられが初めて敬語を外し、こちらに刀の先を向けた。
美莉愛も弓を構え、攻撃体制に入っている。
誠「はられ…美莉愛ちゃん…なんで…」
美莉愛「…ごめん。でも行って。美莉愛達を仲間殺しにしないで!お願い!」
義人「まこちゃん、ごめん。」
そう言って義人はあたしを抱え、扉に向けて走り出した。
みんなも飛ぶなどしてついてくる。
ジタバタ暴れるが、大人の力に叶うはずがないというのはわかりきっていた。
照や凪が開けた扉に義人は飛び込み、扉の隙間から見えた彼女らは、照に声をかけながら泣いていた。
灯火の生存が絶望的な中、照までもが死んでしまうかもしれない。
そんな中、冷静でなんていられるもんか。
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[明朝体][漢字]楠木 輝[/漢字][ふりがな]くすのき てる[/ふりがな]
男性
当時 9歳 C市立 三咲小学校 3年生
2019年 8月 6日失踪
[漢字]一条 [/漢字][ふりがな]いちじょう[/ふりがな]はられ
女性
当時 8歳 C市立 三咲小学校 3年生
2019年 8月 6日失踪
[漢字]卯月 実梨亜[/漢字][ふりがな]うづき みりあ[/ふりがな]
女性
当時 8歳 C市立 三咲小学校 3年生
2019年 8月 6日失踪[/明朝体]