地味でおとなしめのモブキャラの私が、大好きなゲームの悪役令嬢に転生して双子のイケメン王子に愛される
朱莉「ついにね…」
威阿と留久とのお別れパーティー…!
威阿としてのガイアと、留久としてのルークと会える最後の時間よ。
泣かずに楽しまないと。
これも悪役令嬢試験と思うのよ!
[大文字]ピンポーン[/大文字]
あれ…?宅急便かな…?
朱莉「すみません、送り違いかとー…威阿!?留久!?」
留久「やっほー!」
集合の時間までまだ全然ある…。
押しかけられても、全く準備できてないだが。
朱莉「今何にもないよ」
威阿「そうだろうな。俺たちが勝手に会いに来ただけだ。
できるだけ長く、朱莉の顔を見ておきたかったんだ」
朱莉「そ、そう。とりあえずあがって」
留久「お邪魔しまーす♪」
この人たちは自分が王族だということを忘れているのだろうか。
突然押しかけるなどあっちの世界では失礼というものだ。
ここが現実世界でよかった。
留久「朱莉の家初めて来た!広い!」
あ、そうか。威阿は二回目だけど、留久は初めてか。
なんか恥ずかしいな。
朱莉「あんまり見ないでね。リビングはこっちだよ」
留久「わーい♪」
朱莉「適当に寛いでていいよ。今から準備するね」
威阿「突然すまないな。迷惑をかける」
律儀だね私の推しは。
最近“推し“の概念忘れてたからなぁ…。
朱莉「そんな…。威阿たちのためのパーティーなんだもん。…お母さーん!」
母「はいはい。あら、もう来たの。何度見ても二人ともイケメンねぇ」
朱莉「ちょっとお母さん…!」
母「ふふ、本当のことじゃない!さ、早く準備しなきゃ。材料用意して」
朱莉「はーい」
さぁ、調理開始だ!
料理は完璧になるために必須よ!
必死に調理すること数時間。
朱莉「はい!できたわ!」
机いっぱいに並べる豪華料理。
こんなに作ったのは母共に初めてだ。
留久「す、すご!!美味しそう!」
威阿「一流のシェフと肩を並べるのではないか?この七面鳥の焼き色も完璧だ」
朱莉「お母さんの尽力もあったからね。
それより、見た目も大事だけど味よ!食べましょ!」
留久「うん!いただきます!」
焼き鳥を切り分け、小皿にのせる。
威阿「…!美味い…」
留久「すっごく美味しい!本当にうちのシェフに負けないと思うよ!」
朱莉「そんなに褒めても何も出ないよ?」
留久「いや本当だよ!朱莉もお母さんも食べてみて!」
留久にそう言われたので、二人揃って静かに手を合わせ、私と母は七面鳥を頬張った。
母「ほんと!美味しい!」
朱莉「え、もう天才じゃない?焼き加減と味付け完璧じゃない??」
威阿「天才だ。朱莉の母上も、素晴らしい出来です。
こんな良いものを我々に作っていただき、ありがとうございます」
母「いえいえそんな畏まらずに。私もあなたたちと食事できて嬉しいわ」
威阿「身に余る光栄です」
一国の王子が一国民の母親に頭を下げるの!?
な、なんて律儀なの…。
こんな料理、あっちの世界なら普通に食べられるはずなんだけどな…。
ここの生活に慣れすぎたのか?
母「そうだわ、ケーキも持ってこなくちゃね」
だいぶ食べ進めたところで、母は椅子から立ち上がり、冷蔵庫に手を伸ばした。
白い箱を手に取り、机のど真ん中に置く。
朱莉「というわけで!二人とも!今までありがとう!」
威阿「…俺たちも、朱莉と仲良くなれて嬉しかったぞ。
これからも朱莉は朱莉のままでいてほしい。それが俺たちの望みだ」
朱莉「うん、もちろん。私も、お別れするのは寂しいけれど…。
大丈夫。忘れたりしない。私は私として…マローナとして生きる」
母「まろーな?」
朱莉「ううん、気にしないで。ほら、早くケーキ食べよ!」
威阿「あぁ、いただこう」
私たちはそれぞれの味のケーキを口に入れた。
そして、その甘さに全員の顔が綻ぶ。
威阿「こんなに美味いケーキは初めてだ」
留久「あまうま!やっぱガトーショコラだよね〜。朱莉、一口いる?」
威阿「む、ショートケーキも美味いぞ。こっちを食べるといい」
朱莉「え、あ、え…」
母「ふふっ、大人気ねぇ」
朱莉「ちょっ、お母さん笑ってないで助けてよ!」
今の私はフォークをサイドから押し付けられている状態。
これじゃ食べようにも食べられない。
母「ほらほら、お二人さん。朱莉が困ってるわよ」
威阿「す、すまない」
朱莉「あはは、大丈夫…」
なわけないんだが?一国の王子二人に挟まれて正気を保てる女がどこにいると?
母「ふふふっ」
そんな私たちを見て、母は微笑むだけだった。
いや助けてくれよ。
朱莉「はぁ〜…ご馳走様!」
今日は何というご馳走だっただろうか。
機会があればまた買いに行くとしよう。
朱莉「今夜は家で過ごすの?」
留久「…できれば朱莉と一緒にいたい…かな」
威阿「同意だ」
朱莉「じゃあ泊まってく?」
留久「えっ!いいの!?」
朱莉「うん。服は貸してあげる」
…ん?
泊まる?
泊まる?(二回目)
男が?私の家で?泊まる…。(三回目)
え??
朱莉「え?いや、え?トマル?」
ようやく言葉の意味を理解した私は、自分で言ったのに戸惑った。
朱莉「とっ、とりあえずお風呂入ってきて!」
威阿「あぁ、わかった。感謝する」
それってそれって…推しが家のシャンプー使う…ってことだよね…。
えっ、ええぇっ、い、いいんですか…?
そんな…鼻血案件……。
否、入りましょう。
入りましょう。
朱莉「留久も一緒に入っちゃいな」
留久「えー、僕朱莉とがいいなぁ」
朱莉「アホ…じゃないわ、早く行って」
こいつ王子だった。あっちの世界行ったら揉み消されるわ。記憶はないとて。
留久「はぁい」
一体品位をどこに落として来たのこの王子。
数十分後…。
朱莉「………眼…福……」
何このビジュの良さ…!?
色気よ。
え、待ってほんとにいいんですか?バチ当たりません?
朱莉「ありがとうございます……」
威阿「なんだ?なんで俺は拝まれているんだ??」
朱莉「あ、気にしないで。私も入ってくるね」
威阿「あ、あぁ」
私の中のオタクがギンギンに開花してるのを感じる。
これでも私はオタクだったというわけね。
朱莉「はぁ…」
だけど…オタクはしばらくお休みね。
明日からは会えない。苦しみにも耐えて、一人で大人になるのよ。
朱莉「寂しくなるなぁ…」
あの人たちがいたから、私は耐えて来られた。
ゲームの世界に行ってマローナになったから、私はここでも一人で生きられる。
朱莉「……いいえ…まだよ…」
まだ終わりじゃない。始まりよ。
[漢字]悪役令嬢[/漢字][ふりがな]マローナ[/ふりがな]が主役の物語の。
…昔の私にとって、あのゲームは逃げ道でしかなかった。
でも、今は違う。
人生なんだ。私の人生の一部。
私は一つずつ創っていくの。自分の力で、自分を。
朱莉(のぼせて来たわね…)
勢いよく湯船から出る。
自分の新しい人生が始まると思うととても清々しがしい気持ちだったが、
あの二人とまた別れるとなるともちろん悲しい。
だが、悪役令嬢は屈しない。
いじめっ子だろうがなんだろうが、私の人生でただの障害物でしかないのよ。
朱莉「ふぅ、お母さんお風呂上がったよー」
母「ありがとう。すぐ行くわね」
朱莉「って何食べてんの!?」
留久「えっ、ダメ?」
朱莉「そ、それ…高級アイス…。滅多に買えないのに…」
威阿「まだあるぞ。君の母上が買ってきてくれていたんだ」
朱莉「ほんと!?お母さん奮闘しすぎじゃない…?」
留久「優しいよね〜」
買い物には母は特に厳しい。母子家庭で苦労は普通の家庭の倍。
ただ、私のお願いはいつか必ず叶えてくれていた。
そういうところが私は大好きだった。
ましてや高級アイスなんてお財布に優しくないのになんで…?
朱莉「まぁ、お母さんならやりかねないな…」
色々と気を遣ってくれたんでしょうね。
朱莉「あぁとろけるぅ〜」
アイスはみんな大好きだろう。
中でも高級アイスは口どけが最高。
朱莉「一瞬だった…」
水を飲むスピードで食べて切ってしまった…。
朱莉「…歯磨きして寝よ」
無限に出てくるアイスをいつか開発してほしい…。
朱莉「二人とも、今までありがとね。おやすみ…さようなら」
さようなら、“威阿“…そして“留久“。
威阿「あ…っ」
朱莉「っ……グスッ」
私は急いでリビングを出た。
もう言うことはない。
涙を流してまでの感動のお別れなんて、今の[漢字]悪役令嬢[/漢字][ふりがな]わたし[/ふりがな]には必要ない。
静かに私の部屋に入る。
扉を閉じた瞬間、私の涙腺は限界を迎えた。
ポロポロと頬に伝わる、生温かい感触。
離れたくない。別れたくない…。あの二人とずっと一緒にいたい。
朱莉「違う…。私たちの関係は…」
“推し“と“オタク“でしかないんだ。その先の感情なんてない。
ないんだよ……。
朱莉「この気持ちは何…?」
理解不能。なんだ、この感情は。
朱莉「あの二人はヒーローで…ヒーローはヒロインにしかときめかない…」
わかっている。だが、この虚しさはなんだ?
私はただシナリオを破壊するためだけに動く人形だ。
本当の私は地味で臆病で…いじめっ子に反抗すらできなかった未熟者…。
守られるばかりの…。
そんな私が、こんな大事な使命を任されていいのか?
ねぇシヴァ…あなたには私がどう見えてるの?
強く生きる女性の仮面を被った私じゃなくて、本当の私を見てくれてた?
今思えば、完璧な悪役令嬢を目指すなんて、私には遠すぎる夢だ。
どうしよう…こんなんじゃ…こんなに怯えてたら…あのゲームを救えない…。
朱莉「うあぁああぁっ…あぁあぁぁ…」
寂しい。心細い。悲しい。
声をあげて泣いていた私には、扉が開く音が聞こえなかった。
留久「朱莉!」
朱莉「!? る…留久…グスッ」
威阿「どうした!?」
朱莉「威阿…」
留久「何があった…いや、何を考えちゃったの?」
朱莉「っう…私…私っ…」
留久「うんうん。僕らがいなくなるから、一人で怖いんでしょ。わかるよ、辛いね」
朱莉「…留久…私は…朱莉…?」
留久「うん、朱莉は朱莉だよ。マローナじゃない。ね?」
朱莉「…私は私…」
留久「そうだよ。朱莉は朱莉として生きるんだよ。
最高にかっこよくて可愛い…悪役令嬢朱莉としてね」
朱莉「私…怖い…。二人の記憶が…朱莉と過ごした日々が…消え去ってしまうのが…」
留久「うん、形としてはそうなるね。…でも、ちゃんと心に残る。
形として僕らの記憶になくても、忘れたりしない…1秒たりとも。朱莉は一人じゃないよ」
今…私が一番欲しかった言葉。
そして、はっきりとした。
私は、朱莉が創るマローナとして生きていくんだ。
朱莉「グスッ…うん。うん。ありがとう。…もう大丈夫」
留久「あはは!強いね、朱莉!」
その時、時計はもうすぐ12時を回ろうとしていたことに気がついた。
でも、大丈夫。二人はいつだって私の背中を押してくれている。
朱莉「ありがとう、二人とも。本当に…いつも救われてばっかりね」
威阿「…朱莉」
留久「…朱莉っ」
「「俺/僕たちは、君を…」」
シュンッ
彼らが発した言葉は、私の部屋に虚しく散った。
もう、12時。
朱莉「何が言いたかったんだろう…?」
…気になるけど、もう聞く機会はないだろうな。
朱莉「それにしても、あの二人がハモるなんて珍しい…」
まぁ、あの二人のことだから、私を笑わせるためのどうでもいいことでしょ。
朱莉「…また会いましょう」
私がいない間は、あっちの時間は止まっているでしょうけど。
それでも、どうか無事に。元気で。
威阿と留久とのお別れパーティー…!
威阿としてのガイアと、留久としてのルークと会える最後の時間よ。
泣かずに楽しまないと。
これも悪役令嬢試験と思うのよ!
[大文字]ピンポーン[/大文字]
あれ…?宅急便かな…?
朱莉「すみません、送り違いかとー…威阿!?留久!?」
留久「やっほー!」
集合の時間までまだ全然ある…。
押しかけられても、全く準備できてないだが。
朱莉「今何にもないよ」
威阿「そうだろうな。俺たちが勝手に会いに来ただけだ。
できるだけ長く、朱莉の顔を見ておきたかったんだ」
朱莉「そ、そう。とりあえずあがって」
留久「お邪魔しまーす♪」
この人たちは自分が王族だということを忘れているのだろうか。
突然押しかけるなどあっちの世界では失礼というものだ。
ここが現実世界でよかった。
留久「朱莉の家初めて来た!広い!」
あ、そうか。威阿は二回目だけど、留久は初めてか。
なんか恥ずかしいな。
朱莉「あんまり見ないでね。リビングはこっちだよ」
留久「わーい♪」
朱莉「適当に寛いでていいよ。今から準備するね」
威阿「突然すまないな。迷惑をかける」
律儀だね私の推しは。
最近“推し“の概念忘れてたからなぁ…。
朱莉「そんな…。威阿たちのためのパーティーなんだもん。…お母さーん!」
母「はいはい。あら、もう来たの。何度見ても二人ともイケメンねぇ」
朱莉「ちょっとお母さん…!」
母「ふふ、本当のことじゃない!さ、早く準備しなきゃ。材料用意して」
朱莉「はーい」
さぁ、調理開始だ!
料理は完璧になるために必須よ!
必死に調理すること数時間。
朱莉「はい!できたわ!」
机いっぱいに並べる豪華料理。
こんなに作ったのは母共に初めてだ。
留久「す、すご!!美味しそう!」
威阿「一流のシェフと肩を並べるのではないか?この七面鳥の焼き色も完璧だ」
朱莉「お母さんの尽力もあったからね。
それより、見た目も大事だけど味よ!食べましょ!」
留久「うん!いただきます!」
焼き鳥を切り分け、小皿にのせる。
威阿「…!美味い…」
留久「すっごく美味しい!本当にうちのシェフに負けないと思うよ!」
朱莉「そんなに褒めても何も出ないよ?」
留久「いや本当だよ!朱莉もお母さんも食べてみて!」
留久にそう言われたので、二人揃って静かに手を合わせ、私と母は七面鳥を頬張った。
母「ほんと!美味しい!」
朱莉「え、もう天才じゃない?焼き加減と味付け完璧じゃない??」
威阿「天才だ。朱莉の母上も、素晴らしい出来です。
こんな良いものを我々に作っていただき、ありがとうございます」
母「いえいえそんな畏まらずに。私もあなたたちと食事できて嬉しいわ」
威阿「身に余る光栄です」
一国の王子が一国民の母親に頭を下げるの!?
な、なんて律儀なの…。
こんな料理、あっちの世界なら普通に食べられるはずなんだけどな…。
ここの生活に慣れすぎたのか?
母「そうだわ、ケーキも持ってこなくちゃね」
だいぶ食べ進めたところで、母は椅子から立ち上がり、冷蔵庫に手を伸ばした。
白い箱を手に取り、机のど真ん中に置く。
朱莉「というわけで!二人とも!今までありがとう!」
威阿「…俺たちも、朱莉と仲良くなれて嬉しかったぞ。
これからも朱莉は朱莉のままでいてほしい。それが俺たちの望みだ」
朱莉「うん、もちろん。私も、お別れするのは寂しいけれど…。
大丈夫。忘れたりしない。私は私として…マローナとして生きる」
母「まろーな?」
朱莉「ううん、気にしないで。ほら、早くケーキ食べよ!」
威阿「あぁ、いただこう」
私たちはそれぞれの味のケーキを口に入れた。
そして、その甘さに全員の顔が綻ぶ。
威阿「こんなに美味いケーキは初めてだ」
留久「あまうま!やっぱガトーショコラだよね〜。朱莉、一口いる?」
威阿「む、ショートケーキも美味いぞ。こっちを食べるといい」
朱莉「え、あ、え…」
母「ふふっ、大人気ねぇ」
朱莉「ちょっ、お母さん笑ってないで助けてよ!」
今の私はフォークをサイドから押し付けられている状態。
これじゃ食べようにも食べられない。
母「ほらほら、お二人さん。朱莉が困ってるわよ」
威阿「す、すまない」
朱莉「あはは、大丈夫…」
なわけないんだが?一国の王子二人に挟まれて正気を保てる女がどこにいると?
母「ふふふっ」
そんな私たちを見て、母は微笑むだけだった。
いや助けてくれよ。
朱莉「はぁ〜…ご馳走様!」
今日は何というご馳走だっただろうか。
機会があればまた買いに行くとしよう。
朱莉「今夜は家で過ごすの?」
留久「…できれば朱莉と一緒にいたい…かな」
威阿「同意だ」
朱莉「じゃあ泊まってく?」
留久「えっ!いいの!?」
朱莉「うん。服は貸してあげる」
…ん?
泊まる?
泊まる?(二回目)
男が?私の家で?泊まる…。(三回目)
え??
朱莉「え?いや、え?トマル?」
ようやく言葉の意味を理解した私は、自分で言ったのに戸惑った。
朱莉「とっ、とりあえずお風呂入ってきて!」
威阿「あぁ、わかった。感謝する」
それってそれって…推しが家のシャンプー使う…ってことだよね…。
えっ、ええぇっ、い、いいんですか…?
そんな…鼻血案件……。
否、入りましょう。
入りましょう。
朱莉「留久も一緒に入っちゃいな」
留久「えー、僕朱莉とがいいなぁ」
朱莉「アホ…じゃないわ、早く行って」
こいつ王子だった。あっちの世界行ったら揉み消されるわ。記憶はないとて。
留久「はぁい」
一体品位をどこに落として来たのこの王子。
数十分後…。
朱莉「………眼…福……」
何このビジュの良さ…!?
色気よ。
え、待ってほんとにいいんですか?バチ当たりません?
朱莉「ありがとうございます……」
威阿「なんだ?なんで俺は拝まれているんだ??」
朱莉「あ、気にしないで。私も入ってくるね」
威阿「あ、あぁ」
私の中のオタクがギンギンに開花してるのを感じる。
これでも私はオタクだったというわけね。
朱莉「はぁ…」
だけど…オタクはしばらくお休みね。
明日からは会えない。苦しみにも耐えて、一人で大人になるのよ。
朱莉「寂しくなるなぁ…」
あの人たちがいたから、私は耐えて来られた。
ゲームの世界に行ってマローナになったから、私はここでも一人で生きられる。
朱莉「……いいえ…まだよ…」
まだ終わりじゃない。始まりよ。
[漢字]悪役令嬢[/漢字][ふりがな]マローナ[/ふりがな]が主役の物語の。
…昔の私にとって、あのゲームは逃げ道でしかなかった。
でも、今は違う。
人生なんだ。私の人生の一部。
私は一つずつ創っていくの。自分の力で、自分を。
朱莉(のぼせて来たわね…)
勢いよく湯船から出る。
自分の新しい人生が始まると思うととても清々しがしい気持ちだったが、
あの二人とまた別れるとなるともちろん悲しい。
だが、悪役令嬢は屈しない。
いじめっ子だろうがなんだろうが、私の人生でただの障害物でしかないのよ。
朱莉「ふぅ、お母さんお風呂上がったよー」
母「ありがとう。すぐ行くわね」
朱莉「って何食べてんの!?」
留久「えっ、ダメ?」
朱莉「そ、それ…高級アイス…。滅多に買えないのに…」
威阿「まだあるぞ。君の母上が買ってきてくれていたんだ」
朱莉「ほんと!?お母さん奮闘しすぎじゃない…?」
留久「優しいよね〜」
買い物には母は特に厳しい。母子家庭で苦労は普通の家庭の倍。
ただ、私のお願いはいつか必ず叶えてくれていた。
そういうところが私は大好きだった。
ましてや高級アイスなんてお財布に優しくないのになんで…?
朱莉「まぁ、お母さんならやりかねないな…」
色々と気を遣ってくれたんでしょうね。
朱莉「あぁとろけるぅ〜」
アイスはみんな大好きだろう。
中でも高級アイスは口どけが最高。
朱莉「一瞬だった…」
水を飲むスピードで食べて切ってしまった…。
朱莉「…歯磨きして寝よ」
無限に出てくるアイスをいつか開発してほしい…。
朱莉「二人とも、今までありがとね。おやすみ…さようなら」
さようなら、“威阿“…そして“留久“。
威阿「あ…っ」
朱莉「っ……グスッ」
私は急いでリビングを出た。
もう言うことはない。
涙を流してまでの感動のお別れなんて、今の[漢字]悪役令嬢[/漢字][ふりがな]わたし[/ふりがな]には必要ない。
静かに私の部屋に入る。
扉を閉じた瞬間、私の涙腺は限界を迎えた。
ポロポロと頬に伝わる、生温かい感触。
離れたくない。別れたくない…。あの二人とずっと一緒にいたい。
朱莉「違う…。私たちの関係は…」
“推し“と“オタク“でしかないんだ。その先の感情なんてない。
ないんだよ……。
朱莉「この気持ちは何…?」
理解不能。なんだ、この感情は。
朱莉「あの二人はヒーローで…ヒーローはヒロインにしかときめかない…」
わかっている。だが、この虚しさはなんだ?
私はただシナリオを破壊するためだけに動く人形だ。
本当の私は地味で臆病で…いじめっ子に反抗すらできなかった未熟者…。
守られるばかりの…。
そんな私が、こんな大事な使命を任されていいのか?
ねぇシヴァ…あなたには私がどう見えてるの?
強く生きる女性の仮面を被った私じゃなくて、本当の私を見てくれてた?
今思えば、完璧な悪役令嬢を目指すなんて、私には遠すぎる夢だ。
どうしよう…こんなんじゃ…こんなに怯えてたら…あのゲームを救えない…。
朱莉「うあぁああぁっ…あぁあぁぁ…」
寂しい。心細い。悲しい。
声をあげて泣いていた私には、扉が開く音が聞こえなかった。
留久「朱莉!」
朱莉「!? る…留久…グスッ」
威阿「どうした!?」
朱莉「威阿…」
留久「何があった…いや、何を考えちゃったの?」
朱莉「っう…私…私っ…」
留久「うんうん。僕らがいなくなるから、一人で怖いんでしょ。わかるよ、辛いね」
朱莉「…留久…私は…朱莉…?」
留久「うん、朱莉は朱莉だよ。マローナじゃない。ね?」
朱莉「…私は私…」
留久「そうだよ。朱莉は朱莉として生きるんだよ。
最高にかっこよくて可愛い…悪役令嬢朱莉としてね」
朱莉「私…怖い…。二人の記憶が…朱莉と過ごした日々が…消え去ってしまうのが…」
留久「うん、形としてはそうなるね。…でも、ちゃんと心に残る。
形として僕らの記憶になくても、忘れたりしない…1秒たりとも。朱莉は一人じゃないよ」
今…私が一番欲しかった言葉。
そして、はっきりとした。
私は、朱莉が創るマローナとして生きていくんだ。
朱莉「グスッ…うん。うん。ありがとう。…もう大丈夫」
留久「あはは!強いね、朱莉!」
その時、時計はもうすぐ12時を回ろうとしていたことに気がついた。
でも、大丈夫。二人はいつだって私の背中を押してくれている。
朱莉「ありがとう、二人とも。本当に…いつも救われてばっかりね」
威阿「…朱莉」
留久「…朱莉っ」
「「俺/僕たちは、君を…」」
シュンッ
彼らが発した言葉は、私の部屋に虚しく散った。
もう、12時。
朱莉「何が言いたかったんだろう…?」
…気になるけど、もう聞く機会はないだろうな。
朱莉「それにしても、あの二人がハモるなんて珍しい…」
まぁ、あの二人のことだから、私を笑わせるためのどうでもいいことでしょ。
朱莉「…また会いましょう」
私がいない間は、あっちの時間は止まっているでしょうけど。
それでも、どうか無事に。元気で。