月桂冠にはなれなかったダフネ
麗らかな陽光が降り注ぐ庭。時々、風に乗って潮の匂いがする。
そんな穏やかな世界で祖母と一緒に花を摘む。部屋に飾る用と、祖母が魔法薬の材料にするとのとあるので、庭の面積こそは小さいが、色々な植物が置いてある。
庭の植物は季節によって変化するので見ているだけでも飽きない。家の中で引き篭もって本を眺めるのも楽しいけど、これもコレで悪くないかな、なんて。
「ねぇ、おばあちゃん。この花の名前は?」
「そりゃアルラウネの花だよ。まだ育ち切ってないけど、引っこ抜いたらうるさいから触っちゃいかんよ」
「ありゅらうね?」
「アルラウネ。今じゃ、マンドラゴラが普通の言い方だっけねぇ」
「る」って噛んだらなんで「りゅ」になるんだろう。不思議。
祖母の解説を聞きながら、前世で読んだラノベに出てくるアルラウネ……もといいマンドラゴラを思い出す。
物によっては伝説の薬草的な扱いだったけど、マッシュルの世界では割と身近な植物らしい。そういえば、主人公たちがなんか愉快なクッキングをしていたような気もするけど、上手く思い出せない。
アレか?転生あるあるの記憶に制限が掛かってくるやつか?
「ローナ」
「っ、はい!」
「そこの菫の花をとっておくれ。できるだけ小さいやつだよ」
なにぶん記憶の有無なんて証明することが出来ないので、考えていても仕方ない。思考を切り上げて祖母の手伝いに専念することにした。
「アレ何?アレはね〜」みたいなやり取りをする事数十分。
遠くの方から何か大きな魔力を複数感じた。
この世界の全てのものは例外を除き、魔力をまとっている。これは魔法界の誰もが知っているような常識だ。
だが、それを実際に確認しようとすると、途端に難しくなる。
同じニオイを長時間嗅ぎ続けることでその匂いに鼻が慣れてしまい、気にならなくなる嗅覚疲労に似ていて、生まれた時から魔力を持っているこの世界の人々は魔力に慣れ過ぎて、魔力が気にならなくなる。言うなれば魔力感知疲労。
魔力感知疲労は魔力が多い人ほど大きくなり、魔力を感じるのが苦手になる。
3本線の私は尚更だが、私は転生者だ。魔法も魔力も無い現代を生きた者。魔力が完全にない感覚を私は知っているので、私は魔力が多い割には魔力感知が出来る。
祖母も大きな魔力に気づいたのか、家に入るように促してきた。
私はこっくり頷いて2階にある自室に駆け込む。私の感覚が正しければ、二本線相当と一本線の人がいる。
二本線は殆どが貴族出身。貴族がこんな港町にやってくるとは思えない。
魔力感知だけでは姿が見えないので、アザを何とか一本に隠して外を覗き見る。
庭のすぐそこの道には優しそうな女性と、その手を握る男の子。一瞬見ただけで分かる、珍しい髪色をしていた。
毛先だけ紫色の、白い髪…………?
「あっ」
頭の奥でパチパチと爆ぜる脳細胞の音が聞こえてくるようだった。知ってる。
私、知ってる。
あれだ。マザコンの人、違う。人形の人とそのお母さんだ。
その事実に気づいてしまった。今まで転生したと実感しても、そこがマッシュルの世界だってあんまり実感がわかなかった。
でも、あの親子を見て、分かったんだ。
「私、本当に漫画の世界に転生しちゃったんだ……」
そんな穏やかな世界で祖母と一緒に花を摘む。部屋に飾る用と、祖母が魔法薬の材料にするとのとあるので、庭の面積こそは小さいが、色々な植物が置いてある。
庭の植物は季節によって変化するので見ているだけでも飽きない。家の中で引き篭もって本を眺めるのも楽しいけど、これもコレで悪くないかな、なんて。
「ねぇ、おばあちゃん。この花の名前は?」
「そりゃアルラウネの花だよ。まだ育ち切ってないけど、引っこ抜いたらうるさいから触っちゃいかんよ」
「ありゅらうね?」
「アルラウネ。今じゃ、マンドラゴラが普通の言い方だっけねぇ」
「る」って噛んだらなんで「りゅ」になるんだろう。不思議。
祖母の解説を聞きながら、前世で読んだラノベに出てくるアルラウネ……もといいマンドラゴラを思い出す。
物によっては伝説の薬草的な扱いだったけど、マッシュルの世界では割と身近な植物らしい。そういえば、主人公たちがなんか愉快なクッキングをしていたような気もするけど、上手く思い出せない。
アレか?転生あるあるの記憶に制限が掛かってくるやつか?
「ローナ」
「っ、はい!」
「そこの菫の花をとっておくれ。できるだけ小さいやつだよ」
なにぶん記憶の有無なんて証明することが出来ないので、考えていても仕方ない。思考を切り上げて祖母の手伝いに専念することにした。
「アレ何?アレはね〜」みたいなやり取りをする事数十分。
遠くの方から何か大きな魔力を複数感じた。
この世界の全てのものは例外を除き、魔力をまとっている。これは魔法界の誰もが知っているような常識だ。
だが、それを実際に確認しようとすると、途端に難しくなる。
同じニオイを長時間嗅ぎ続けることでその匂いに鼻が慣れてしまい、気にならなくなる嗅覚疲労に似ていて、生まれた時から魔力を持っているこの世界の人々は魔力に慣れ過ぎて、魔力が気にならなくなる。言うなれば魔力感知疲労。
魔力感知疲労は魔力が多い人ほど大きくなり、魔力を感じるのが苦手になる。
3本線の私は尚更だが、私は転生者だ。魔法も魔力も無い現代を生きた者。魔力が完全にない感覚を私は知っているので、私は魔力が多い割には魔力感知が出来る。
祖母も大きな魔力に気づいたのか、家に入るように促してきた。
私はこっくり頷いて2階にある自室に駆け込む。私の感覚が正しければ、二本線相当と一本線の人がいる。
二本線は殆どが貴族出身。貴族がこんな港町にやってくるとは思えない。
魔力感知だけでは姿が見えないので、アザを何とか一本に隠して外を覗き見る。
庭のすぐそこの道には優しそうな女性と、その手を握る男の子。一瞬見ただけで分かる、珍しい髪色をしていた。
毛先だけ紫色の、白い髪…………?
「あっ」
頭の奥でパチパチと爆ぜる脳細胞の音が聞こえてくるようだった。知ってる。
私、知ってる。
あれだ。マザコンの人、違う。人形の人とそのお母さんだ。
その事実に気づいてしまった。今まで転生したと実感しても、そこがマッシュルの世界だってあんまり実感がわかなかった。
でも、あの親子を見て、分かったんだ。
「私、本当に漫画の世界に転生しちゃったんだ……」
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