あの日見た月の名前を僕はまだ知らない
#1
あの日見た月の名前を僕はまだ知らない
ベットに寝転がった。
少し冷たく感じられるシーツを手でクシャッとして、離す。
そんな何気ない無意識の行動は、まだ僕が生きていることを示していた。
[漢字]古谷千秋[/漢字][ふりがな]ふるたにちあき[/ふりがな]。齢13。
中学1年生だ。成績は上の中、と言ったところだろうか。
そんな僕は母親と喧嘩をした。いわゆる反抗期、というやつ__ではない。
そもそも、喧嘩ですらない。
[水平線]
「ちょっと、千秋?あんた片付けせぇよ」
母はシワひとつない布団を見、床に置いてある少量の服を見、
綺麗に並べられている本棚を見、教科書やノートが山積みになっている机を見、
そう言った。
「いや十分片付いてるだろ…」
「いやいやいやいや、服汚ったないし机の上も整理せぇや」
「母さんは気にしすぎなんだよ。そもそも?僕他の家見たことあるけどはっきり言って自分の家の方が綺麗だったよ?母さん毎回そうやって他の家のこともよく知らずに口出すよね。やめてもらえない?」
日頃のストレスが溜まった結果、口を出てついたのがこの文だった。
その後少しだけポカンとしていた母だが、口火を切る。
「あんたなぁ、言うこと聞いとけばええねん、逆ギレすんなや」
それだけ静かに告げられ、バタンと部屋のドアが閉まる音。
僕は僕の意見を言ったまでだ。それを逆ギレ?言うことを聞いておけばいい?
母が部屋を出て行った後も、僕は動けなかった。思考に夢中になっていたからだ。
[水平線]
服は箪笥に片付けた。あと、教科書もノートも棚に直した。
息を吐きながら先程かけられた言葉を考える。
ぐるぐる、頭を回る。
言うこと聞いとけばええねん、か。
僕は奴隷か何かか。おい。
……嗚呼、だめだった。逆ギレしちゃいけないんだった。
意見を言ってはいけないんだ。
なら、僕はただの物か。考えることも許されないのか。
そんなの……ゴミじゃないか。地球に不要なものではないか。
[小文字]なら、死んだっていいんじゃないか[/小文字]
その考えがよぎった後、僕の自己嫌悪は止まりを知らなくなる。
ぐるぐる、ぐるぐる。
嫌なことが頭を回って離れない。
もういいや……。
[水平線]
決行は週末、早朝。それまでに術を探しておかなければ……。
今日は木曜日。スマホが使える時間も少ないから、計画を立てなければ。
僕はその日はそのまま眠りに落ちた。
[水平線]
[水平線]
[水平線]
[斜体]ふと目が覚めた。夜もだいぶ更けてきて、カーテンの隙間から月明かりが差し込んでいる。[/斜体]
[斜体]ん?差し込んでいる……?おかしい。自室の窓からは月はおろか、月の光すら見えない。[/斜体]
[斜体]なのに、なんで……[/斜体]
[斜体]不思議に思った僕はベッドから降りて窓に向かった。[/斜体]
[斜体]そこからは、月が見えた。満ちているとも、欠けているとも違う、月。[/斜体]
[斜体]まるで夢のような感覚だった。その月は、窓を通して僕を照らしてくれた。それを見ていると暖かな気持ちになってくる。そこからの記憶はあやふやだ。だけど、分かった。あの月は僕の大切なものなんだ、と。[/斜体]
[水平線]
[水平線]
[水平線]
「……んん」
あさが来た。目覚めはいつも通り悪く、怠い。
「月……そうだ、月…あれって夢だったのかな…?」
学校へ行く身支度をしながら考える。
「……夢でもいっか」
長考の結果はそうなった。それでもあれは、あの時間は、
今の僕にとっても大切なものだ。
[中央寄せ]あの日見た月の名前を僕はまだ知らない[/中央寄せ]
少し冷たく感じられるシーツを手でクシャッとして、離す。
そんな何気ない無意識の行動は、まだ僕が生きていることを示していた。
[漢字]古谷千秋[/漢字][ふりがな]ふるたにちあき[/ふりがな]。齢13。
中学1年生だ。成績は上の中、と言ったところだろうか。
そんな僕は母親と喧嘩をした。いわゆる反抗期、というやつ__ではない。
そもそも、喧嘩ですらない。
[水平線]
「ちょっと、千秋?あんた片付けせぇよ」
母はシワひとつない布団を見、床に置いてある少量の服を見、
綺麗に並べられている本棚を見、教科書やノートが山積みになっている机を見、
そう言った。
「いや十分片付いてるだろ…」
「いやいやいやいや、服汚ったないし机の上も整理せぇや」
「母さんは気にしすぎなんだよ。そもそも?僕他の家見たことあるけどはっきり言って自分の家の方が綺麗だったよ?母さん毎回そうやって他の家のこともよく知らずに口出すよね。やめてもらえない?」
日頃のストレスが溜まった結果、口を出てついたのがこの文だった。
その後少しだけポカンとしていた母だが、口火を切る。
「あんたなぁ、言うこと聞いとけばええねん、逆ギレすんなや」
それだけ静かに告げられ、バタンと部屋のドアが閉まる音。
僕は僕の意見を言ったまでだ。それを逆ギレ?言うことを聞いておけばいい?
母が部屋を出て行った後も、僕は動けなかった。思考に夢中になっていたからだ。
[水平線]
服は箪笥に片付けた。あと、教科書もノートも棚に直した。
息を吐きながら先程かけられた言葉を考える。
ぐるぐる、頭を回る。
言うこと聞いとけばええねん、か。
僕は奴隷か何かか。おい。
……嗚呼、だめだった。逆ギレしちゃいけないんだった。
意見を言ってはいけないんだ。
なら、僕はただの物か。考えることも許されないのか。
そんなの……ゴミじゃないか。地球に不要なものではないか。
[小文字]なら、死んだっていいんじゃないか[/小文字]
その考えがよぎった後、僕の自己嫌悪は止まりを知らなくなる。
ぐるぐる、ぐるぐる。
嫌なことが頭を回って離れない。
もういいや……。
[水平線]
決行は週末、早朝。それまでに術を探しておかなければ……。
今日は木曜日。スマホが使える時間も少ないから、計画を立てなければ。
僕はその日はそのまま眠りに落ちた。
[水平線]
[水平線]
[水平線]
[斜体]ふと目が覚めた。夜もだいぶ更けてきて、カーテンの隙間から月明かりが差し込んでいる。[/斜体]
[斜体]ん?差し込んでいる……?おかしい。自室の窓からは月はおろか、月の光すら見えない。[/斜体]
[斜体]なのに、なんで……[/斜体]
[斜体]不思議に思った僕はベッドから降りて窓に向かった。[/斜体]
[斜体]そこからは、月が見えた。満ちているとも、欠けているとも違う、月。[/斜体]
[斜体]まるで夢のような感覚だった。その月は、窓を通して僕を照らしてくれた。それを見ていると暖かな気持ちになってくる。そこからの記憶はあやふやだ。だけど、分かった。あの月は僕の大切なものなんだ、と。[/斜体]
[水平線]
[水平線]
[水平線]
「……んん」
あさが来た。目覚めはいつも通り悪く、怠い。
「月……そうだ、月…あれって夢だったのかな…?」
学校へ行く身支度をしながら考える。
「……夢でもいっか」
長考の結果はそうなった。それでもあれは、あの時間は、
今の僕にとっても大切なものだ。
[中央寄せ]あの日見た月の名前を僕はまだ知らない[/中央寄せ]
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