side KAITO

「ただいまー。」

　俺はいつものおかえり、という返事を期待していた。だが、帰ってくるのは残酷な静寂ばかり。家中には陰鬱な雰囲気が流れている。リビングにある机を俺以外のみんなが囲い、神妙な面持ちで佇んでいた。

「あ.......。かいとくんも帰ってきましたね。じゃあ、話します」

　俺は椅子に座らされ、のっきたんからよくわからない話を淡々と聞かせられることとなった。いったい何のことだかわからないが、こんな雰囲気ならばとてつもなく大切な話なのだろうと俺は真剣にのっきたんから言葉がくるのを待つ。

「私が魔国というところから家出してきたことは知っていますよね」

　この一言で、俺は何となく予想がついてしまった。

「なろきゅんと同じで...結構身分が高かったんですよ。そして私は家族の跡取りとして.....ここまでなろきゅんと同じですね。そして、まぁ限界が来たわけでこの...。世界の日本というところに来たんです。あ、魔国っていうのはこの世界とは違う別の世界のことです。」

　のっきたんは昔のことを話しているのだろう、と不思議と安堵してしまう。もしかしたらという現実から逃げるためだけに俺はそんなことを考えたのではないのだろうか。魔国の存在が強烈すぎてあまり話は入ってこないが。

「私が家出をして...もう約10年ほどですかね。ほったらかしにされました。.....でも、でも！幸せな日々に、わざわざ.....！！」
「父親に、戻ってこいって言われたんだよな」

　かもめんが先読みしてそう言う。それより戻ってこいとは、どういうことだろう。まさか、俺が予想していることなのだろうか。いや、今のっきたんが話しているのは過去の話。きっと、過去にそう言われたに過ぎない。

「.....はい。かもめくんの言う通り、言われました。.....でも、一生戻ってこないわけじゃないです...。向こうの世界でとりあえずもう一度名前を広めてから、戻ってきます。ですので.....。今日が、お別れの日、です」
「の、のっきたん、戻ってくるんだよ、な？」

　俺が一番に口を開いた。こんな大切な時に、黙って従順に『はいそうですか。』で終わらせられないから。

「一応、その予定です...。多分....半年ほどで。」
「え......。のき、そんな長くあっちにいなきゃいけないの...？」

　なろっちが初めて口を開いた。のっきたんはなろっちの問いかけに落ち着いて「はい.....。もちろん、私だってこの世界にいたいです。でも....私がいないと、向こうの世界が成り立たないそうで。だから、一度、抜けます、というお知らせでした.....。」と淡々と返すばかり。もしかしたら、気を抜けば涙が溢れだしてしまうのかもしれない。

「やだ、やだよ！？僕やだよ！！」

　そらくんが声を荒げて叫んだ。ここにいる誰もがそう思っているだろう。例外なくもれなく。

「なぁ半年って長くない？もっと短くできひんの！？」
「わからないですけど、半年は絶対必要な期間だと、私は推測してるので....」

　「そっか」とサムライは目を伏せて笑った。

「と、とにかくだ。にょきをもこんな形で俺らと別れるのも嫌だろうし！適当にパーティーでもやろうぜ！」
かもめんが今までの明るい雰囲気を取り戻そうと必死になっている。
「せやな、やろ！明日も、のっきたんがやりたいことやろ！」

　かもめんやサムライの優しさをやっと理解できた気がする。彼らの優しさは本物だと、今になって嚙み締められた。俺も、のっきたんと今日でさよなら。だから、なによりも最高のさよならにしてやりたい。