side kamome

「かもめくん〜、暇です〜」

　にょきをがそう言いながら俺にもたれかかってくる。この話題は何度目だろうか。暇なのはわかるがそんなに俺に話しかけてくる必要もないだろうに。

「暇暇うるさいなぁ。別に勉強でもしてれば？」
「勉強なんてしなくてもわかります。なんてったって●●さんがいないから暇すぎるんです〜。」

　勉強なんてしなくてもわかるという一言にカチンとくるが、にょきをなら妥当だろう。にょきをはなんてったって学年上位の成績。勉強なんてしなくてもわかるのは天才肌だからだろうか。こんなこと言えるのはなろぴとにょきをと○○ぐらいだ。なろぴは最近○○にに構いすぎたせいで成績がガクンと下がったが。それでも10位以内だというんだから、まともに努力してる俺がばかみたいだ。

「はぁ...。ったく、スマホゲームでもしようぜ」
「さすがかもめくんです！私が持ってるゲームひたすら雲の上を歩くだけのゲームですけど、やりますか？」
「やらねぇよ...」

　やはりにょきを。俺らとセンスが少しずれている。

「そうですねぇ...。あっ、世間話でもしましょうか。最近....」

　にょきをが珍しく世間話をしようと口を開いたその時だった。

ガシャン

　誰かに家の窓ガラスを割られたのだろうか。なぜか冷静な頭は、修理費の事を考えてぼーっとしていた。そして、その窓ガラスから男が1人、入ってくる。謝りにきたのだろうか、と思ったのもつかの間。

「のっきを、返してもらう」

　何が何だか俺の脳は理解できていない。急に窓ガラスを割られて不法侵入され、そして侵入者ににょきをを返せと言われている。そして当のにょきをは睨むように男を見つめていた。

「いや.......です....。」

　当たり前だろうが、にょきをは否定する。にょきをも驚いた様子だが、警戒もしている様子だ。逆に、この状況で全然警戒していない俺がおかしいのかもしれない。にょきをの眼差しは鋭く、昔から知っている人物に向けるような視線だった。

side のっき

　ついに、お父様に私の居場所が見つかってしまったようだ。

「お前が帰ってこないと、我が一族が困るんだ。後継ぎがいなくなるもんでな。まだ世間にお前がいなくなったことを公表していない。世界は、お前が家出していることなんて知らないんだ。そろそろ限界だ、戻ってこい。」

　周りの目を気にして、子供を自分を飾るためだけの道具と思っているのではないかと父を疑うと同時に、気だるげに父に返事を寄越す。

「..........それは、一生、ですか...？」

　私と父の間に、少しの沈黙が流れる。

「.....別に、一生、とは言わない。だが、これは一族を守るため。お前がこの世の人間と関係をあまり深く築かなければ...この世に名前が渡らなければ、この世界にいることは許可する。」
「今一度戻って、婚約の話を先に進めて、一族の跡継ぎ宣言をして、もう一度世に名前を宣言できたら、また、ここに戻ってくることを許可してくれるのならば、私は一度あっちの世界へ戻ります。」
「...........よい。では、向かうぞ。」
「.......その前に、一晩おかせてください。明日、また迎えに来てください。」

　「よい。」と一言吐き捨てて父は私たちの目の前から去った。タイムリミットは一晩だけ。その間に、私には何ができるだろうか。このことについて説明だってしなくちゃならない。おそらく最後になるであろう時を大切に過ごさなければ。

「おい、にょきを.....」

　かもめくんが、驚いているのか腰を抜かして呆然と私を見つめる。かもめくんを安心せるために、「あ.......。皆さんが帰ってきたら、いろいろ話しますね」と告げて、私も座り込んだ。わかっていたことだが、みなさんといられるのはこれが最後だと思うと、悔しくて悲しくてたまらない。