「●●さんが家族とともに暮らすか、私達と安全な生活を送るか。どっちがいいですか？」
「え？」

　その意味がわからないともいえる質問に私は、硬直してしまった。

「...。ごめんね。急だけど、答えてくれるとうれしいな...」

　なろ屋さんはやはり私にそんな事を言うのが厳しいのか、とても小さな声で呟くようにそう言った。私も私で、なろ屋さん達の質問の意図が分からず、唖然とするしかなかった。

「い、いや。私、まだあなたたちのことよく知らないから。」

　焦ったように言うと、金髪の少年にはっきりとした真っ直ぐで邪念がない視線で見つめられた。

「どうしても今、答えることはできませんか。」

　どこか強い口調。結論をつけるのを急かそうとしているようだ。私は「それは…」と口ごもる。気まずく静かな雰囲気だけが時に流されてすぎて行く。やっと私は、2人の言葉に答える事ができた。

「ごめんなさい。あの。せめて１日おいてから...でいいですか？」

　やっと捻り出した言葉で、聞こえなかったかもしれない。雰囲気に圧倒されたせいで、上手く喋れなかった。だが、なろ屋さんはそんな私を放っておいて、この雰囲気を壊すように話した。

「...ん。できるだけはやめにね。僕は○○と同じめろんぱん学園だから、明日のお昼休み...。屋上で、答えて。」

　なろ屋さんはそう言って、家の中へと戻っていった。私と金髪の少年だけの気まずい空気感が流れる。金髪の少年はにっこりと苦笑いをした。

「...さ、さぁ。帰りましょうか！送りま...あ、、ちょっとまっててください。」

　ドアを開けて、階段を駆け上がってゆく。もう死角になってしまってもう姿は見えない。こんなおかしな状況で、なぜ私は普通に会話できていたのだろう。そして、なぜ金髪の少年がいきなり2つの選択肢を述べて来て、なろ屋さんがなぜ私の居場所がわかった事も。考え込んでいると、誰かに話しかけられたような気がして我に帰った。

「えっと...。君かな？●●ちゃん...だよね？」

　私に話しかけて来たのは、黒髪で先が黄色に染まっている少年だった。

「え...。あぁ。はい。」

　私が戸惑っている間も、少年はニコニコと笑ってマシンガントークを続ける。

「なろぴが○○って呼んでたから、○○って呼んでいい？」

　私は流れに押されて、「えぇ？あぁ。気軽に...」と軽く返事をしてしまった。そんな私を見ても、彼は気づいていないのかは知らないが話を続けた。

「ありがと〜。じゃあ帰ろうか。てか名前言ってなかったね。俺かもめ！さっきの金髪のやついたじゃん？」

　かもめさんは、物凄くぐいぐい来る人だった。マシンガントークは途切れる事なく明るく話を続けられた。金髪のやつとは、きっとなろ屋さんが呼んでいたあの少年であろう。

「あ、いましたね。」
「あいつのっきって言うんだ。」

　かもめさんが言うに少年はのっき、というらしい。私は適当に相槌をうちながら、のっきさんの名前を復唱した。

「のっきさん...。そうなんですね。」

　2人で色々話し込んでいると、いつのまにか私の家の目の前だった。

「かもめさん。送ってくださりありがとうございました。」

　かもめさんに向かって大きく頭を下げる。かもめさんは笑って受け流した。

「ううん。じゃあね。」
「はい。では。」

　かもめさんは、すっとどこかに行ってしまった。先ほどまで話していた反動か、よくわからない虚無感に襲われる。その感情を振り払い、家の扉を開けると春香と母の楽しそうな声が響く。そこを通り過ぎて、自分の部屋で宿題を手につける。だが、今日の出来事が不思議でおかしくて宿題どころではなかった。