「そうそう。言ってなかったね。僕は、なろ屋っていうよ。」

　私に暖かく落ち着かせるようになろ屋さんは言う。その優しい声を聞いて、私は混乱状態から少し回復したように思えた。

「...。なろや...。」

　やっと焦りから解放された私を見て、安堵したのかなろ屋さんは再び通話に戻った。この人が一体何をしたいのか、何故私なんかを生かしたのは分からないが、きっと今の私はなろ屋さんを大人しく見つめるしか出来っこなかった。

「...うん、そう。それで..あ、そう！おっけ〜。」ぴっ

　いつのまにか、風は柔らかくなっており少し涼しいぐらいだ。このまま逃げ出した方が良かったかもしれない。だが、今更そう思ったってもう私はなろ屋さんに捕まえられたも同然。電話を切ったなろ屋さんに、座り込んでいた私は目を合わせられた。そして、無邪気な声が私の耳に飛び込んでくる。

「ねね。名前、なんていうの。」

　名前を聞かれる事も、話しかけられる事すら久しぶりだった私は、もごもごとしたまま上手く話せない。そんな私を見て、なろ屋さんは頭に？マークを浮かばせた。

「聞いてる？なーまーえ！」

　大きな声を出された。私はやっとうまく口が滑るようになった。そして、その口から言葉を絞り出して声として発した。

「●●って言います…。」

　やっと出た声は、とても小さくて耳を澄まさないといけないほどだと思うが、なろ屋さんはそんな事、気もせずに明るく私に笑いかけた。

「そっか！じゃあ○○って呼ぶね！」

　自分の事を呼ばれるのが新鮮で、まだこの感覚になれない。なんとか礼を言わなければとなんとか言葉を出した。

「...。あ。ありがとうございます？」

　ついつい、疑問系になってしまった。そんな私を見て、なろ屋さんはにっこりと笑顔を私に向けた。

「疑問形おもしろいねぇｗてかともかくさ、ついてきてよ！」

　なろ屋さんは私を揶揄うように笑った。その可愛らしくいたずらっぽい声が私の耳の中に滑り込んで行った。

「はぁ？」

　本当に意味がわからない。私の自殺を止めた挙句着いてこいと言ったのだ。初対面なのもあるかもしれないがなろ屋さんは私に向かって手招きをした。私は、砂をはらってなろ屋さんの的に向かうと、なろ屋さんに腕を引っ張って連れられてしまった。

＿数分後＿

　やっと引っ張られていた腕を離されたと思ったら、私はとある一軒家の目の前にいた。それは私の家などではなく何ひとつ知らない場所。私が唖然としていると、なろ屋さんはその家の扉を勢いよく開けた。

「みんな、ただいま〜！」

　そうなろ屋さんが叫ぶと、リビングらしき所から、金髪の少年が1人出て来た。少年はなろ屋さんにまばゆいほどの笑顔を向けて挨拶をする。

「なろきゅん！！おかえりなさい！」

　私がまた混乱していると、なろ屋さんと金髪の少年はそんな私を意に介さず、話し始めた。そして、話の初めから、よくわからない言葉がなろ屋さんから出て来た。

「のき〜。ただいま。例の子、連れてきたよ！」

　例の子とは私の事か？とさらに混乱をしてしまう。
そして金髪の少年は私をまじまじと見つめる。

「へぇ、きれいな子ですね。ほんとにまちがってないんですか？」

　なんとなく、怪訝な顔をして金髪の少年はなろ屋さんを見つめる。なろ屋さんはそれを受け流すように、微笑みかけた。

「あはは、それはないはずだよ。だって...」

　ごにょごにょと2人だけで話を始めてしまった。私はぽかんと2人を見ていると話が終わったようで、金髪の少年は踵を返して、私と目を合わせた。

「あぁ、じゃああってますね。...えっと。名前なんていうんですか？」

　まだまだ他人と会話をするのが慣れない。そして、先ほどから突然の事が多いせいもあるだろう。私は二度目の質問にハッとしたように答える。

「●●です…」

　まだなんとなく震える声を抑えて、私は少年と話す。金髪の少年は嬉しそうに私ににっこりと笑いかけた。まだまだこの感覚には慣れることはないだろう。

「●●さんですね！お願いします！」

「○○。今から、君に2つの選択肢を与えるよ。」

　選択肢の意味がわからなくて、また？マークを頭に浮かべてしまう。ただ、先ほどまでおちゃらけてなろ屋さんの真剣な瞳に私は圧倒された。金髪の少年も、口を開いた。

「＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿？」
「え？」

　その意味がわからないともいえる質問に私は、硬直してしまった。