side サムライ翔

　夕暮れで橙に染まった空と夕日が俺を飲み込む。
　橙が映る雲が俺を見透かし見下す。
　小鳥達の囀りが俺の言葉をわかったように遮る。
　そして最愛の人が俺の世界へとやってきた。

「翔さん！夕飯できました！」

　さん付けなんかじゃなくて翔と呼び捨てで呼んでほしいという欲を抑え、何もないように振る舞い○○に返事をする。

「お。今日早いな。」

　いつもより20分ほど早い夕飯に俺は違和感を覚えた。さりげなく○○に訊くと、彼女は満面の笑みで笑う。

「はいっ！めずらしくかいとさんが手伝ってくれたので！」
「かいとが...？そんなことあるんやな。ちょっと待っててな、すぐ行くわ。」

　あの厨二病がそんな事をするなんて、好きな人の目の前でいい所を見せたいという気持ちがとても強いのだろう。漏れなく例外なく俺だってその中の1人だが。

「はいっ！待ってますね。」

　そう言い残し、○○は俺の部屋から出ていった。○○が離れた事を確認すると、写真立てに入れられているたった1人の少女の写真を手に取る。

「今度こそは、絶対に幸せにするからな、花奈。行ってくる。」

　彼女の名は[漢字]花奈[/漢字][ふりがな]はな[/ふりがな]それは、俺の[太字]前世の最愛の恋人[/太字]。そして今は[太字]○○[/太字]だ。余計とも言える事を考えてしまった俺は、写真に少し目をやってからリビングへと向かう。

「あれ、そらくんとかもめんおらんけど、どしたん？」

　うるさい、いや賑やかなあの二人がいない事に疑問を覚える。その疑問に答えたのはのっきたんだった。

「あぁ。アニマル教団(そらちゃん＆かもめん)の2人は、外食するそうですよ。」

　今日は何もなかったはず。だが、2人だけで外食するという中々ないシチュエーションに俺は違和感を覚える。俺たちの間に流れた沈黙を打ち破ったのは○○だった。

「ごめんなさい、足りない物があってコンビニにかいにいってました...！...あれ、食べてないんですか？」

　考え事に気を取られていて目の前の食事の事を忘れていた。だが、それをフォロー、というか言い訳のような物をいうためになろっちが口を開く。

「ごめん〜。○○！○○がいないとどうも食欲がわかなくてね〜。」
「...そ、そんなことがあるんですね...。じゃあ、食べましょうか！」

　○○は真に受けたようで、軽くだけ照れ笑いした。良くも悪くも、○○は純粋で俺たちを疑う事を知らないのだ。

「いただきま〜す。...待って、この揚げもんおいしいねんけど！」

　積まれている唐揚げをぱくぱくと食べ進めてゆく。俺が仰天するような事を○○は教えてくれた。

「あ、それかいとさんが作ってくれたんです！」

　あの厨二病は料理は上手いのか。俺の様子を見て調子に乗ったのか「ふっ。どうだ。サムライ。俺の手料理はうまいだろう。」と自慢げに言ってくる。

「は？全然うまないわ。あ〜、そうそう。○○マジックやわ〜。」

　少しだけ皮肉を込めて、嘲笑うように言った。厨二病は頭に来たのか俺を睨む。

「ﾌﾞﾁｯ💢」

　厨二病の堪忍袋が切れた音かも知らないが、売った喧嘩は買ってもらうし、売られた喧嘩は買う。一発触発の雰囲気になった時、俺たちをのっきたんが仲裁してくれた。

「ふたりとも、喧嘩しないでください。●●さんが困ってますよ。」

　眉を八の字に曲げて、あたふたとこちらを見ている○○がいた。それを見たかいとはぺこり、と頭を下げて○○に謝る。

「すまない、これからは気をつける...」

　かいとは○○にかっこつけている所を見て欲しいという魂胆だろう。俺も○○にかっこつける、というわけではないが、○○に対して甘える事にした。

「○○！次からは絶対せーへん。だから、なでて〜？」

　俺の甘えプレイが炸裂すると、○○は微笑んで優しい顔で俺を見る。

「あはは、うん！偉いねっ。かいとさんもおいで〜！」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

　何故厨二病まで…？という疑問はあったが、○○に甘えられただけマシとし、大人しく二人で○○に撫でられた。

　俺の思い出は今、夕に潜みこちらを伺っている。