濁った世界の向こう側
今日は花火大会の日。
ほとんどの人が浴衣に身を包み、屋台を練り歩く。
お祭り会場には手を繋いだカップルや仲のいい友達、家族や兄弟と見られる人がたくさん居る。
もう直ぐ花火が始まるようで、会場に動きが見られた。
そんな中、私だけがしんとした住宅街の真ん中に立っていた。
向こうのほうで賑やかな祭囃子が聞こえる。
私の目の前に広がるのは、踏切と線路だ。
もう直ぐ電車が通る。
そして、同時に私の命が砕ける予定だ。
日中に比べて涼しいが、まだ蒸し暑さが尾を引くように残っている。
近くにある街頭の明かりに照らされて、派手な模様の遮断機が青白く染まっていた。
耳につく警報音が鳴り響き、電車が風を切る音が聞こえてくる。
あぁ、そろそろだ。
降りてくる遮断機の間を潜ろうとした、その時。
「こんなとこで何してんの?」
尖り気味な女性の声が聞こえたかと思うと、いつの間にか後ろに制服の女の子が立っていた。
くっきりした涼しげな目元が印象的な同い年くらいの少女だ。
彼女が着ている制服は、私が行っている[漢字]大嶺[/漢字][ふりがな]おおみね[/ふりがな]高校の旧制服だった。
確か7年前に制服が変わって今の制服になった気がする。
「何してんの?向こうは祭りもやってるし、賑やかだよ。」
きょとんとした顔で聞いてくる彼女は、純粋で何も知らない顔をしていた。
その表情に無性に腹が立ってしまい、声が鋼のように固くなる。
「…向こうなんかに、私の居場所はないので。」
「へぇ、死にに来たんだ。」
ひゅっと息が霞む音が体に響き、鼓動が不自然に早まる。
顎がカタカタと震え、力を入れていなければ骨ごと外れてしまいそうだ。
なんでわかったの。
飛び出そうになっている心臓と本音を飲み込み、冷静を装って答えを返す。
「…貴方には関係ないでしょ。」
「関係しかないんだよ。それが。」
「…私、貴方のこと知らないですけど。旧制服なんか着て、警察呼びますよ。」
「呼んでもどうせ[漢字]視[/漢字][ふりがな]み[/ふりがな]えないよ。」
この人は頭がおかしいんじゃないか、そう思った。
そこで改めて彼女の姿を眺めると、街頭に照らされている綺麗な足が半分ほど透けていることに気がついた。
その瞬間、頭が真っ白になった。
え、どういうこと?もしかして私はもう死んだの?それか夢でも見てるの?
ぐるぐると回る疑問点に卒倒しそうになる。
「あぁ、言ってなかったっけ。私は[漢字]月花香澄[/漢字][ふりがな]つきはなかすみ[/ふりがな]。10年前にここの線路に飛び込んで死んだ、大嶺高校の2年。よろしく。」
なかなかにクセの強い自己紹介をされたことで、私はさらに混乱した。