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蛇の妹

#6


ああ、嫌だ嫌だ。マジで棪堂 哉真斗ふざけんな。

そう叫びたい欲望を抑える為に薄暗い路地のゴミ箱を睨む。あっ、ピンク色の鬘すててあるじゃん。アーニャだアーニャ。
前世で見た漫画のキャラを思い出して一瞬気分が紛れたが、棪堂 哉真斗への怒りは消えない。



「なー、ほんとにコイツ棪堂の妹かよ」

「そうだろ。おんなじ家から出て来たんだし、それに棪堂って呼ばれてただろ。でもマジ似てないな」

「そうそう可愛いし、どうせなら一回ヤっちゃう?」

「それいいね。見たところ胸はねーけど、足綺麗だし。オレ足フェチなんだよね」



何にもよくないよ?我、小学生ぞ???君ら中学生。同意がない性行為は犯罪。豚箱に送り込むぞ?

大体考えは見える。多分、コイツらは棪堂 哉真斗に恨みがある連中で、どこっからか私が棪堂 哉真斗の妹であることを聞きつけた。そこで私を人質にして脅して復讐しよーって感じだろ。アホか。

棪堂 哉真斗が身内を人質に取られたぐらいで動くとでも?というか身内として認識されてるか怪しいレベルだぞ。

なのに地味に小賢しい手を使って私をこの路地に招き入れて、大勢の不良中学生で囲む。うーん、馬鹿だろ。

はぁ……と、ため息をついてスマホを取り出す。気付いた中学生たちが襲いかかるが、サラッと交わして燕ちゃんに「help」っと送っておく。暫くしたら燕か綾門くんが来てくれるだろう。



「スマホを取り上げろっ!サツは呼ばすな!」



中学生の一人が羽交い締めするように腕を掴む。殴り飛ばしても良かったけど、手加減が苦手だ。正当防衛だと主張できる範囲で殴る蹴るをしようとすると、逆に時間が掛かってしまう。

今は結構な人数に囲まれてるから逃げるのは難しいし、大人しくしておくか。


という判断が間違いだった。


お気に入りにカーディガンを引き千切るように脱がされて、曝け出した肌に触れる手は虫に這われたようだった。欲で歪んだ顔と変な熱が籠った視線で胃の中のものが喉まで上がってきた。

さっきの会話本気だったのか、このクソガキども。流石にこれだったら悠長に隙を伺っている場合ではない。


体を捩って押さえつける中学生くらいの男との隙間を作る。その隙に顎に拳を入れて、痛みで拘束が緩んだ瞬間、得意の踵落としでトドメをさす。

小学生と中学生という圧倒的な体格差はあるが、技術は絶対にこっちが上という自信はあった。なんせ前世というハンデがございますから。

周りを囲む中学生たちは暴力の「ぼ」の字も知らなさそうな女子が中学生を殴って更に踵落としをするなんて思ってなかったのか、驚いて反応が遅れた。


残念かな、私は素早さと正確さが売りのアサシンタイプ。その反応の遅れが命取りだ。

姿勢を低くして突進するように大将っぽいの胸部を頭突きをして、よろめいた足をローキックで攻める。派手に転んだので「サッカーしようぜ!お前ボールな!」と心の中で言ってから、寝転がった不良中学生の腹に上段蹴りを入れて、その後ろにいたひょろそうなヤツらを巻き込んで壁側に退場してもらう。

容赦?そんなものは存在しない。



「そ、そんな西さんが………」

「怯むなかかかれ!」



いかにもモブっぽいヤツらのセリフからして、この男……えーっと、西だっけ。コイツは本当に大将っぽいね。
他のヤツらは弱そうだし、やり過ぎないように気を付けないと。

でも、私の拳って弱いからな〜となると残るのは蹴りとか締め技。でもなぁ……締め技って接触面積が多いでしょ?嫌いなヤツの意識を落とす為とはいえ、触るのも嫌だし……

ということで私が鍛えたのは足技。前世、親が過保護だったこともあってメキメキと上達。その他にも色々と技術を習得した。
じゃあなんでトラック如きに跳ねられて死んでんだって話なんだが、そこは[漢字]あまり深く考えるな[/漢字][ふりがな]物語の都合上仕方ない[/ふりがな]。

こうやって話している間にも不良中学生たちを足技で駆逐していく。



「ひっ、ひぃ〜」

「クッソふざけんなぁ!棪堂の妹は弱いって話は嘘だったのかよ!」

『いや、その話誰から聞いた………』

「おい、逃げるぞ!!」

「は、はい!」



「てってかてててー」みたいな効果音が似合いそうな良い逃げっぷりだ。まぁ、逃す気はないけど。

足元に転がっている石を適当に拾い上げて大きく振りかぶる。そのままピッチャーのフォームで………

ぶん投げる。



「アガッ」

「け、健太ァァァ!!」



よし、ダサいリーゼントの舎弟っぽいのは綺麗に死んだ(死んではない)。残るは兄貴分だけ。
だけどまだ殺さない。だってさっきの質問答えてないじゃん。

追い詰めるようにゆっくり、歩きよる。



『ねっ、もう一回聞くよ。





[中央寄せ]その話は誰から聞いた?』[/中央寄せ]


セットしたリーゼントを崩す勢いでブンブンと頭を振って「知らない」と繰り返す。顔がムカついたので顔面スレスレのところに蹴りを入れる。

ドンっという音と共に足裏に壁を蹴った感覚が伝わってくる。



「ひっ……………」

『じゃあ、私のことを狙うように命令したのは誰?』



口を金魚のようにパカパカと開いたり閉じたりするだけで、喋ろうとしない。一発入れとくかーっと、足を下ろすと兄貴分の目には恐怖の色が広がる。

さっき、脅し半分で当てなかった蹴りが悪いのかもしれない。そこで自分は蹴られないと思ってしまったのだろう。
今度はしっかり当てないと。

喋れるように顎じゃなくて腹に入れようと、足を振りかぶったその時。

後ろから耳慣れた声が聞こえてきた。



「ストップ澪っち。やり過ぎ注意だよ〜」

「それに、そいつに聞いても意味ないぞ」



いつの間にか両脇にはお馴染みの二人がいた。



『あれ、なんで居るの?』

「澪っちが自分で「help」って送ったからじゃん」

『あっ』



そう言えば自分でメッセージ送ってた。完全に忘れてたわ。
でもこの通り元気だよーっと伝えれば二人はため息をついて、男装の気分だったらしい光季くん私にデコピン。綾門くんは頭にチョップをした。



「あのなー、オマエが元気でも周りはそうじゃないだろ」

『でも、ちゃんと顔の原型は分かるよ?』

「確かに澪っちにしてはちゃんと加減できたね!偉い」

「光季、澪を甘やかすな」



よしよしと頭を撫でる光季くん。超好き〜



「ところで澪」

『んー?』

「後見てみ?」



よく分からないが、言われるがままくるりと後を向く。
そこにはこの数日でよく見かける小学生にしては大きな体と癖っ毛の、書類上は私の兄にあたる人物と、その人が神様と崇拝する燃えるような赤髪が特徴的なもう一人の男子。

黄金の瞳が私を写したまま、凍ったように止まる。



要は棪堂 哉真斗と焚石 矢が居いて、ガッツリ目があった。顔を隠すものはなし、言い逃れは出来ないない。

スゥゥー、あーオッケー。なる程ぉー………



『私が海外に拉致されて9ヶ月家に帰らないのと、ここの目撃者を全員記憶喪失にさせるのと、どっちが現実的だと思う』

「逃げ回ってこれ以上面倒ごとにしない為にも、話し合った方がいいと思う」

『めんどくさい……』

「いざとなったら得意の肉体言語で頑張れ」

「頑張れ澪っち!」

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2024/07/20 18:54

白鯨 ID:≫95W8biv8iH20g
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