蛇の妹
主人公→『』
[水平線]
麗らかな春の陽光に微睡む日のことでした。
小学校という一種の拷問から解放され、せっせと宿題に勤しむ私に母は言ったのです。
「澪にね、優しいお父さんとお兄ちゃんが出来るのよ」
まるで恋に頬を染める乙女のような笑顔で再婚相手とその子供について語る様子は見ていて不安になるぐらい幸せそうだった。
でもまぁ、私は人生2週目の出来る子なので母の新しい門出を素直に祝福した。
これで4回目だ。そのことを友達のグループLINEで報告して、「3回で終わる」に賭けていた光季には3000円分きっちり払えと脅しておいた。ヤツは過去の賭けで数度、ちょろまかそうとした過去があるのでこれくらい言っとかないと。
そんなこんなで時間はあっという間に過ぎて、気づけば再婚相手の家に行く日となった。一応、外面は健気な女の子なので、過度な露出は控えて、清楚そうな刺繍が入った紺色のワンピースを着た。
上機嫌に私の髪の毛を編み込む母を鏡越しで見ながら次は何ヶ月後に離婚するかを考える。
最速で半年、最長で2年。今回は何年保つかねぇ…………また綾門くんが賭けの題材にしそうだ。
あの二人との賭けは今のところ全勝中なので月のお小遣いと合わせると貯金額が30万ぐらい。それに母が管理しているお年玉も入れると一介の小学校が保ってていい金額ではない。今度、念の為に金庫でも買おっかな。
はぁ、再婚相手の家の玄関先でとため息をつけば、母が緊張したと勘違いして「大丈夫よ」と声をかけてきた。その辺は私の邪魔をする人物ではないかしか心配してないから安心して欲しい。
「あら、待っててくれたの?」
「家族が来るんだから当たり前さ。えっと、君が……」
母が家の扉を開けると、そこには新しい“お父さん”になる人がいた。にこりと微笑む男は優しそうに見えた。
さてさて、何日もつかなー。と、無粋すぎる考えを隠してぺこりとお辞儀をして名前を名乗る。
『はじめまして、澪です。よろしくお願いします』
「よろしく澪。ゆっくり、家族になっていこうね」
花緑青の瞳と視線が会う。
どうやら、無理やり敬語を外させようとしないらしい。今は距離を詰めようと強引な“お父さん”が多かったので、新しいタイプに驚いた。
しばらく母と“お父さん”の会話を大人しく聞いていると、いつの間にか“お父さん”の息子___新しい兄の話になって2階にいるから呼ぼうみたいな話になっていた。
私はそもそも再婚相手に子供がいたのを忘れていたので、どうやって話すかを急いで考えていた。最低限の親孝行として、離婚するまでの間は兄と良好な関係を構築しなければならない。
大変めんど、げふん。やや億劫だがやるしかない。
「じゃあ新しいお兄ちゃんを呼ぼうか。おーい、哉真斗ー!」
ガサっと天井から音がして、裸足の足音が聞こえて来た。数秒後、ひょっこり現れた兄になる人は癖っ毛で、私より一回りも大きかった。全体的に“お父さん”にあまり似てなかったが、瞳の色はそっくりだ。
最初は無表情だったが、私達を見たらにこりと人の良さそうな笑顔を浮かべた。まぁ、その笑顔が完璧な作り笑いだこと。
口角の上げ方、目の細め方も完璧なのに瞳に籠る感情がびっくりするぐらい何もない、ハリボテの笑顔。そんな風に感じた。
「オレ、棪堂 哉真斗。今日からお前のお兄ちゃんな〜?」
『えっと、私は真鶴 澪です』
「もー澪ったら。今日から棪堂じゃない」
「そうだった……」
間違えたっという顔をしながら内心母を恨む。
優しいだっていってたのに嘘じゃん。この顔が出来る子供が優しい子なわけないだろ。
まぁ言わないけど。小学生とはいえその辺の子供と一緒にするなよ。潜ってきた修羅場が違うからな、空気は読めるし腹芸は得意だぞ。
そのまま緊張してる感じを出しつつ会話を重ねる。気づけば10分以上経過していた。
“お父さん”はさり気なく家に上がるように言って、お母さんもそれに着いて行った。私は“お兄ちゃん”が思った以上に厄介だと分かったので早急に光季くんと綾門くんを呼んで作戦会議だなぁ……っと、現実逃避に二人に会う計画を立てた。
「家、上がんねーの?」
俯く視界に突然入った“お兄ちゃん”。
私は「今いきますね」とだけ答えて玄関からリビングに上がった。さっきから完璧な表情管理をする“お兄ちゃん”から、面倒くさい事になる気配がした。
いつもは(賭けに題材にしているけど、)お母さんの幸せを願う健気な娘の私であるが、この瞬間だけはさっさと離婚してくれないかなーっと心の底から思ってしまった。
この日より、私と“お兄ちゃん”____もといい、棪堂 哉真斗との家族関係が生まれた。
さっさと切りたい所存である。
[水平線]
麗らかな春の陽光に微睡む日のことでした。
小学校という一種の拷問から解放され、せっせと宿題に勤しむ私に母は言ったのです。
「澪にね、優しいお父さんとお兄ちゃんが出来るのよ」
まるで恋に頬を染める乙女のような笑顔で再婚相手とその子供について語る様子は見ていて不安になるぐらい幸せそうだった。
でもまぁ、私は人生2週目の出来る子なので母の新しい門出を素直に祝福した。
これで4回目だ。そのことを友達のグループLINEで報告して、「3回で終わる」に賭けていた光季には3000円分きっちり払えと脅しておいた。ヤツは過去の賭けで数度、ちょろまかそうとした過去があるのでこれくらい言っとかないと。
そんなこんなで時間はあっという間に過ぎて、気づけば再婚相手の家に行く日となった。一応、外面は健気な女の子なので、過度な露出は控えて、清楚そうな刺繍が入った紺色のワンピースを着た。
上機嫌に私の髪の毛を編み込む母を鏡越しで見ながら次は何ヶ月後に離婚するかを考える。
最速で半年、最長で2年。今回は何年保つかねぇ…………また綾門くんが賭けの題材にしそうだ。
あの二人との賭けは今のところ全勝中なので月のお小遣いと合わせると貯金額が30万ぐらい。それに母が管理しているお年玉も入れると一介の小学校が保ってていい金額ではない。今度、念の為に金庫でも買おっかな。
はぁ、再婚相手の家の玄関先でとため息をつけば、母が緊張したと勘違いして「大丈夫よ」と声をかけてきた。その辺は私の邪魔をする人物ではないかしか心配してないから安心して欲しい。
「あら、待っててくれたの?」
「家族が来るんだから当たり前さ。えっと、君が……」
母が家の扉を開けると、そこには新しい“お父さん”になる人がいた。にこりと微笑む男は優しそうに見えた。
さてさて、何日もつかなー。と、無粋すぎる考えを隠してぺこりとお辞儀をして名前を名乗る。
『はじめまして、澪です。よろしくお願いします』
「よろしく澪。ゆっくり、家族になっていこうね」
花緑青の瞳と視線が会う。
どうやら、無理やり敬語を外させようとしないらしい。今は距離を詰めようと強引な“お父さん”が多かったので、新しいタイプに驚いた。
しばらく母と“お父さん”の会話を大人しく聞いていると、いつの間にか“お父さん”の息子___新しい兄の話になって2階にいるから呼ぼうみたいな話になっていた。
私はそもそも再婚相手に子供がいたのを忘れていたので、どうやって話すかを急いで考えていた。最低限の親孝行として、離婚するまでの間は兄と良好な関係を構築しなければならない。
大変めんど、げふん。やや億劫だがやるしかない。
「じゃあ新しいお兄ちゃんを呼ぼうか。おーい、哉真斗ー!」
ガサっと天井から音がして、裸足の足音が聞こえて来た。数秒後、ひょっこり現れた兄になる人は癖っ毛で、私より一回りも大きかった。全体的に“お父さん”にあまり似てなかったが、瞳の色はそっくりだ。
最初は無表情だったが、私達を見たらにこりと人の良さそうな笑顔を浮かべた。まぁ、その笑顔が完璧な作り笑いだこと。
口角の上げ方、目の細め方も完璧なのに瞳に籠る感情がびっくりするぐらい何もない、ハリボテの笑顔。そんな風に感じた。
「オレ、棪堂 哉真斗。今日からお前のお兄ちゃんな〜?」
『えっと、私は真鶴 澪です』
「もー澪ったら。今日から棪堂じゃない」
「そうだった……」
間違えたっという顔をしながら内心母を恨む。
優しいだっていってたのに嘘じゃん。この顔が出来る子供が優しい子なわけないだろ。
まぁ言わないけど。小学生とはいえその辺の子供と一緒にするなよ。潜ってきた修羅場が違うからな、空気は読めるし腹芸は得意だぞ。
そのまま緊張してる感じを出しつつ会話を重ねる。気づけば10分以上経過していた。
“お父さん”はさり気なく家に上がるように言って、お母さんもそれに着いて行った。私は“お兄ちゃん”が思った以上に厄介だと分かったので早急に光季くんと綾門くんを呼んで作戦会議だなぁ……っと、現実逃避に二人に会う計画を立てた。
「家、上がんねーの?」
俯く視界に突然入った“お兄ちゃん”。
私は「今いきますね」とだけ答えて玄関からリビングに上がった。さっきから完璧な表情管理をする“お兄ちゃん”から、面倒くさい事になる気配がした。
いつもは(賭けに題材にしているけど、)お母さんの幸せを願う健気な娘の私であるが、この瞬間だけはさっさと離婚してくれないかなーっと心の底から思ってしまった。
この日より、私と“お兄ちゃん”____もといい、棪堂 哉真斗との家族関係が生まれた。
さっさと切りたい所存である。
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