ギヒフル視点
こんこんこん。
俺の部屋のドアを叩く音が聞こえる。
今日も、彼が来るのだろう。
≪…失礼します。
少しぎぎぎ…と歪な音を鳴らしながらドアが開いた。
もう、この城も古いな。
千「…お部屋の掃除に参りました。自分のことは気にしないで下さい。」
そう言って本棚などの掃除を耽々とし始める。
昔の彼の面影なんか、どこにもいなかった。
いや、俺が彼を無理やり変えたの間違い、か。
ギ「…前は悪かった。あんな言い方して。」
素直になれない俺に嫌悪感が襲う。
でも、本当ならこんな会話もしちゃいけないのだ。
普通に、幸せに、なにも起こらなければ。
彼も、俺も、”あいつ”も。
幸せに生きれるから。
千「…別に気にしていませんよ。」
ただ、それだけ。
前のお前なら、きっと笑顔で明るく対応してくれただろう。
いや、もう、期待なんてしても無駄なのだろう。
”あの時の君”はもうここにいないのだから。
ギ「…そうか。」
ただただ小さく、時計の針の音が鳴り続ける。
俺と、君との時間はずっとあの時から止まっているのに。
こうやって今の今まで引きずっている俺は…
ギ（バカみたいだ…。）

千「では、失礼いたしました。それでは。」
ギ「…待ってくれ。」
口が勝手に動く。
ギ「…紅茶を一杯淹れてくれ。」
千「…俺がですか？」
ギ「あぁ。」
千「…わかりました。」

＿＿＿＿数分後
千「お待たせしました。お紅茶です。」
ギ「…ありがとう。」
本当に持ってくると思っていなかった。
千「…俺が持ってこない、とでも？」
ギ「正直言うと…な。」
千「ははっｗおもしろいですね、魔王様。」
その時だけ、あの時の彼に見えた。
笑った顔が、とても似ていた。
でも彼は本人に精密に似ている、ただの別人だから。
千「俺、そんなに魔王様のこと嫌いだと思われてました？」
ギ「…まぁ。」
千「ふふっｗｗははっｗｗいやいやいや、全然ですよ。…ただ、なんか。」
千「魔王様が嫌そうだなって思っただけで…あと、こっちが従者なのに呼び捨てっていうか…友達みたいに接するのも変だなって思って…ｗ」
ギ「そうか…ｗ」
その瞬間だけは、昔の君と会話をしているような気分になれた。
でも気づかなかった。
”あいつ”がこの様子を見ていることを。