神様の言う通り。
#1
「__お父さんはね、立派になって帰ってくるのよ」
「そうなんですか!」
「だからね、遍も立派に、帰りを待っているのよ。お父さんの隣に立っても、恥じない人間になりなさい」
「はい!」
__これは、お母さんの言葉。
数年前から、お父さんは遠い場所に行った。仕事の関係だ。
私とお母さんは、元々住んでいたここに残って、お父さんの帰りを待つことになった。
今の言葉は、お父さんが遠い場所へ行く一日前、夜ご飯の後に言われたもの。
私は、この言葉を__ずっと覚えている。
[水平線]
元々、ちょっと息苦しい日々だとは思っていた。
両親は「[漢字]■■■■■■[/漢字][ふりがな]本人の意向により規制[/ふりがな]」という宗教の信者で、まるで当然みたいに、私もその宗教を信仰していた。看守の言葉を借りるとするならば…。
私は「宗教二世」と呼ばれるものだった。
時間、食事、運動、人間関係。すべてが良いように決められていて、私はそれを守らなければならない。守れば褒められ、逆に守らなければ、バツを受ける。バチが当たるのだ。
「ごめんなさい…。ごめんなさい…」
リビングで、押入れで、風呂で。何回こう言っただろうか。もう覚えてはいない。
「四つの大原則」を絶対に守って、褒められるようにとする。
いつしか、私はそうする事でしか__生きられなくなった。教えを守ることが、一種の生きがいになったのだ。
[水平線]
__去年の誕生日。
特別な日ではあるのだが、あまり祝えなかった。祝うことが困難だったのだ。
動物は食べられないため、ケーキはない。特にプレゼントもない。
ほぼ、普通の日だった。
おまけに空は機嫌が悪くて、遠くの地域では、雷も鳴っていたらしい。
何も言うことはなかったけど、あまり良い日、とは言えなかった気がする。
「……」
「おかえり。遍」
学校から帰ってきた時も、お母さんはいつもの笑顔だった。私の誕生日の祝いなんて、準備もしていなかっただろう。
教えを守らなければいけないのだから、しょうがない。それは私も理解しているし、誕生日というだけで、ルールを破るのは身勝手で、いけないことだ。
だけど、ちょっとした子供の心は、祝ってくれないかと__望んでいたのかもしれない。
[水平線]
今日は、ミルグラム内で、初めて自分の誕生日を迎えた。
皆がお祝いしてくれたが、プレゼントやケーキは断ってしまった。理由は単純で、教えに反するからだ。
「……」
今は、夜の20時。私はいつも21時になれば寝るので、就寝まではあと1時間だ。
私は、自室に戻り勉強をしていた。誕生日なのだから別に良い、なんて囚人の皆は言ってきたが、理由にはならない。
「ここは…」
算数の計算問題を解く。少し難しい発展問題だ。
__ふと、今までのことを振り返る。
思えば、誕生日でも関係なく、バツを受けていた日もあった気がする。お母さんは、お父さんがいる時はきれいな顔をしていたが、私と二人きりの時は、私に容赦なくバツを与える人だった。
母親が嫌いな訳ではないし、むしろ、私は家族のことを愛していた。
最終的に、私はバツを与える側になってしまったが__。
「はぁ…。って、もうこんな時間ですか。寝る準備をしなければ…」
気づけば、時間は20時50分。寝る準備をしなければいけない。
「片付けなきゃ…」
筆箱と消しゴム、ドリルをブラウンのランドセルに入れる。
誕生日も、あと10分で終わってしまう。眠れば終わるんだ。
「少し…」
悲しいですね、と言いかけたが、直前で自分の口を止めた。止めてしまった。
「…」
理由がわからないほほえみが、少しだけ出てきた。
ランドセルの[漢字]錠前[/漢字][ふりがな]じょうまえ[/ふりがな]を閉める音が、静かに部屋に響いた。
「そうなんですか!」
「だからね、遍も立派に、帰りを待っているのよ。お父さんの隣に立っても、恥じない人間になりなさい」
「はい!」
__これは、お母さんの言葉。
数年前から、お父さんは遠い場所に行った。仕事の関係だ。
私とお母さんは、元々住んでいたここに残って、お父さんの帰りを待つことになった。
今の言葉は、お父さんが遠い場所へ行く一日前、夜ご飯の後に言われたもの。
私は、この言葉を__ずっと覚えている。
[水平線]
元々、ちょっと息苦しい日々だとは思っていた。
両親は「[漢字]■■■■■■[/漢字][ふりがな]本人の意向により規制[/ふりがな]」という宗教の信者で、まるで当然みたいに、私もその宗教を信仰していた。看守の言葉を借りるとするならば…。
私は「宗教二世」と呼ばれるものだった。
時間、食事、運動、人間関係。すべてが良いように決められていて、私はそれを守らなければならない。守れば褒められ、逆に守らなければ、バツを受ける。バチが当たるのだ。
「ごめんなさい…。ごめんなさい…」
リビングで、押入れで、風呂で。何回こう言っただろうか。もう覚えてはいない。
「四つの大原則」を絶対に守って、褒められるようにとする。
いつしか、私はそうする事でしか__生きられなくなった。教えを守ることが、一種の生きがいになったのだ。
[水平線]
__去年の誕生日。
特別な日ではあるのだが、あまり祝えなかった。祝うことが困難だったのだ。
動物は食べられないため、ケーキはない。特にプレゼントもない。
ほぼ、普通の日だった。
おまけに空は機嫌が悪くて、遠くの地域では、雷も鳴っていたらしい。
何も言うことはなかったけど、あまり良い日、とは言えなかった気がする。
「……」
「おかえり。遍」
学校から帰ってきた時も、お母さんはいつもの笑顔だった。私の誕生日の祝いなんて、準備もしていなかっただろう。
教えを守らなければいけないのだから、しょうがない。それは私も理解しているし、誕生日というだけで、ルールを破るのは身勝手で、いけないことだ。
だけど、ちょっとした子供の心は、祝ってくれないかと__望んでいたのかもしれない。
[水平線]
今日は、ミルグラム内で、初めて自分の誕生日を迎えた。
皆がお祝いしてくれたが、プレゼントやケーキは断ってしまった。理由は単純で、教えに反するからだ。
「……」
今は、夜の20時。私はいつも21時になれば寝るので、就寝まではあと1時間だ。
私は、自室に戻り勉強をしていた。誕生日なのだから別に良い、なんて囚人の皆は言ってきたが、理由にはならない。
「ここは…」
算数の計算問題を解く。少し難しい発展問題だ。
__ふと、今までのことを振り返る。
思えば、誕生日でも関係なく、バツを受けていた日もあった気がする。お母さんは、お父さんがいる時はきれいな顔をしていたが、私と二人きりの時は、私に容赦なくバツを与える人だった。
母親が嫌いな訳ではないし、むしろ、私は家族のことを愛していた。
最終的に、私はバツを与える側になってしまったが__。
「はぁ…。って、もうこんな時間ですか。寝る準備をしなければ…」
気づけば、時間は20時50分。寝る準備をしなければいけない。
「片付けなきゃ…」
筆箱と消しゴム、ドリルをブラウンのランドセルに入れる。
誕生日も、あと10分で終わってしまう。眠れば終わるんだ。
「少し…」
悲しいですね、と言いかけたが、直前で自分の口を止めた。止めてしまった。
「…」
理由がわからないほほえみが、少しだけ出てきた。
ランドセルの[漢字]錠前[/漢字][ふりがな]じょうまえ[/ふりがな]を閉める音が、静かに部屋に響いた。
このボタンは廃止予定です
/ 1
この小説はコメントオフに設定されています