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伏せる

#4

泥と香水

昨日見た。久しぶりの鮮やかに、体を染め上げた人間を私は今も忘れられない。その事実が悔しくて仕方がない。私は普段、人間に無関心なのに、思い出すということは、それだけの印象があったと言うこと。あの子なんてどう思ってもいない。そう、なんとも思っていない。自分で言い訳をして、言い訳をしていると思えるのは自覚しているからだ。と考えが行き着いたのは苦笑いとため息を交互に3回ずつ繰り返したあとだった。泥が砂になり、泥の水分が涙になり、蒸発して、また泥を作る。くだらないエコな環境。私の苦しみはエンドレス。優等生と劣等生なんてたった一文字の違いなのに・・・「お前はどう思う?」テトに尋ねる。意味・・・無いのになあ。私の泥はあの子にとったら、香水のようなものだろう。溜まれば溜まる程、甘美な香りが人を寄せ付ける。私にとっては、ただの甘ったるい香りなだけだが・・・たぶん。
明日もまた学校。あの子の居る教室に行かなければならない。ふと思い、スマホを触る。
LINEには・・・あの子の名前があった。随分前に連絡は絶ってしまっていたのだが、あの子の字は今もここに存在している。どうして中学生のときの私は、あの子をブロックしなかったのだろう。大嫌いなはずなのに。ーーもう考えるのは疲れてしまった。LINEのページをスワイプし、YouTubeに飛ぶ。登録しているチャンネルは無い。全て無関心だから。なのでショート動画を見ることにした。ある動画で指が止まる。母親が自分の子であろう小さい男の子を土や木屑、岩の中から必死で助けようとしている動画だった。どうやら土砂崩れに子供が巻き込まれてしまった様で、涙を零しながら必死に土を退け、何度も我が子の名前を呼ぶ母親の姿が、画面にはあった。コメント欄には、「感動した!」「思わず涙が出た。」「これこそ母親の鏡だ!」などの母親を称え、温かい涙に溢れたものだった。ハッシュタグには、#感動と付けられていた。でも、私の気持ちは軽蔑しかない。だって、その子供の事故の場面で、手を差し伸べずに、カメラを回していると思う人物が、少なからずいると思うと冷める。でも気持ちも分かる。私もイイネ欲しさに、親指を立てたアイコン欲しさに、そんな場に居合わせたら、迷わずスマホをかざすだろう。あの子はどうだろうか。人命救助の方を優先するだろうか。窓辺でテトは微笑みを讃えている。あの子みたいに。でも、あの子はーー綺麗で優しいことだけをやって欲しい。汚い部分を見せないで。勝手な私の押し付けだけれど。でも、汚いところ、見てみたい。あの子の完全ではない歪んだ部分を知りたい。どっちつかずの気持ちにクラクラする。

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2023/10/20 17:24

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