伏せる
学校が見える。足取りが重くなるのか、軽くなっているのかよく分からない曖昧なローファーの二重奏が心をざわめき立てる。もうあの頃のような失態は決して侵さないように。
もう懲り懲りだ。誰にも気にされず、道端の石ころのように扱われる。承認欲求だけが膨らみ、もうそれが本体になってしまった私には、あの頃は生き地獄に間違い無かった。高校生からは、ありふれたモブなんかじゃなく、背景でもなく、ちゃんとした登場人物になりたい。人物Aや、Bなんかでもなく。ちゃんと名前を与えられた大役を頂戴。そしたら、完璧に演じ切ってあげるからーー。
私の走馬灯のような昔話を脳で展開している内に、あっという間で高校に着いてしまった。高校の入口にはクラスの名簿が堂々と貼り出してあった。周りの人間は、「やったぁ!同じクラスだあ!」「お前だけ違うクラスじゃん。」「私、1-1だった!」「嘘ぉ!」ーーただの雑音にしか聞こえない。誰と一緒だろうが関係ない。私には特に仲の良い人なんていないんだから。別に寂しいわけでも、悔しいわけでもないのに、気持ちが騒つくのは、これで2度目。指を折る、そっと声に出す。大丈夫、体は動いている。いつも通りなのだ。廊下を進む。進む、進む。本当にいつも通り、皆灰色。色が付いた人間は私だけ。いつからか価値が無く、どうでも良い存在は私の視界から色を奪った。家族も先生も同級生も。ひしめき合う灰色の物体達をすり抜けて、足を止める。
「1ー4組」ここが私の新しい場所、私が返り咲く場所。深呼吸をする。これも2度目。
ドアをーー開ける。灰色に塗りたくられた視界に飛び込む。懐かしいものが濁った私の瞳を潤す。たったヒトツダケ、たったヒトリダケ、色の付いた人間がいた。クラム。襲う。数の暴力。嫌ーー認めない。認めたくない。「あの子」がいた。実感する。アノコガイタ。対象の者が驚き、花開くように笑顔を向ける。「久しぶり。〇〇ちゃん!」私の名前を言う。もしこの世に神様が存在するのならーーとても残酷で、意地悪だ。ふらつくデジャウが引き起こしたこの教室は、私の一歩を砕くには充分過ぎる程だった。
ーー「・・・ちゃん」「〇〇ちゃん」「大丈夫?」甘い声が意識を引き戻す。気がつくと、まさに顔面成功作の人間が私の顔を覗き込んでいた。「えっと・・・」「中学2年ぶりだね!」「おんなじクラスだよ。嬉しいね!」色の付いた人が手を握る。「ーーうん!そうだね!」負けじと笑みを返す。動揺してなんかいられない。この時点で既に負けてしまっているような気がするのは私だけだろうか。「そのキーホルダー持っててくれたの?」「うん。大事にしてるよ。」「そっかあ、ありがと。」また、笑う。ーー良いなあ。そんな屈託のない笑顔を向けられたら良かった。私も。 敵わないんだなあ。この子には。偽の笑顔は崩れない。私の仮面は張り付いて剥がれない。息苦しい。羨ましい、ずるい、頂戴、いくつもの欲と妬みが、渦を巻いて溶け出す。どれだけ無関心に傷つければ気が済むの・・・。また泥が溜まっていく。濁る腐る。それを繰り返す。私の形をした入れ物は許容範囲を越えて溢れ出す。私は確信する。今日は家に帰ったら、テトとやることが沢山あるーー。
もう懲り懲りだ。誰にも気にされず、道端の石ころのように扱われる。承認欲求だけが膨らみ、もうそれが本体になってしまった私には、あの頃は生き地獄に間違い無かった。高校生からは、ありふれたモブなんかじゃなく、背景でもなく、ちゃんとした登場人物になりたい。人物Aや、Bなんかでもなく。ちゃんと名前を与えられた大役を頂戴。そしたら、完璧に演じ切ってあげるからーー。
私の走馬灯のような昔話を脳で展開している内に、あっという間で高校に着いてしまった。高校の入口にはクラスの名簿が堂々と貼り出してあった。周りの人間は、「やったぁ!同じクラスだあ!」「お前だけ違うクラスじゃん。」「私、1-1だった!」「嘘ぉ!」ーーただの雑音にしか聞こえない。誰と一緒だろうが関係ない。私には特に仲の良い人なんていないんだから。別に寂しいわけでも、悔しいわけでもないのに、気持ちが騒つくのは、これで2度目。指を折る、そっと声に出す。大丈夫、体は動いている。いつも通りなのだ。廊下を進む。進む、進む。本当にいつも通り、皆灰色。色が付いた人間は私だけ。いつからか価値が無く、どうでも良い存在は私の視界から色を奪った。家族も先生も同級生も。ひしめき合う灰色の物体達をすり抜けて、足を止める。
「1ー4組」ここが私の新しい場所、私が返り咲く場所。深呼吸をする。これも2度目。
ドアをーー開ける。灰色に塗りたくられた視界に飛び込む。懐かしいものが濁った私の瞳を潤す。たったヒトツダケ、たったヒトリダケ、色の付いた人間がいた。クラム。襲う。数の暴力。嫌ーー認めない。認めたくない。「あの子」がいた。実感する。アノコガイタ。対象の者が驚き、花開くように笑顔を向ける。「久しぶり。〇〇ちゃん!」私の名前を言う。もしこの世に神様が存在するのならーーとても残酷で、意地悪だ。ふらつくデジャウが引き起こしたこの教室は、私の一歩を砕くには充分過ぎる程だった。
ーー「・・・ちゃん」「〇〇ちゃん」「大丈夫?」甘い声が意識を引き戻す。気がつくと、まさに顔面成功作の人間が私の顔を覗き込んでいた。「えっと・・・」「中学2年ぶりだね!」「おんなじクラスだよ。嬉しいね!」色の付いた人が手を握る。「ーーうん!そうだね!」負けじと笑みを返す。動揺してなんかいられない。この時点で既に負けてしまっているような気がするのは私だけだろうか。「そのキーホルダー持っててくれたの?」「うん。大事にしてるよ。」「そっかあ、ありがと。」また、笑う。ーー良いなあ。そんな屈託のない笑顔を向けられたら良かった。私も。 敵わないんだなあ。この子には。偽の笑顔は崩れない。私の仮面は張り付いて剥がれない。息苦しい。羨ましい、ずるい、頂戴、いくつもの欲と妬みが、渦を巻いて溶け出す。どれだけ無関心に傷つければ気が済むの・・・。また泥が溜まっていく。濁る腐る。それを繰り返す。私の形をした入れ物は許容範囲を越えて溢れ出す。私は確信する。今日は家に帰ったら、テトとやることが沢山あるーー。
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