―――キーンコーンカーンコーン

「はい、今日の授業はここまで。」

そう谷に代わって新しく担任になった教師が言う。

「やっと終わった…。」

今まさに6限目の授業が終わったとことである。

「一緒に帰ろうぜ。」

そう植谷陽汰が誘ってきた。

「おう。」

俺はそう返事をする。

陽汰とは保育園からの幼馴染で、今でもかなり仲が良い。

俺は鞄に荷物を詰めて、陽汰と一緒に教室を出ようとする。

「待てよ。」

「ゲェッ！」
後ろから首元を掴まれ、俺は変な声をだしてしまう。

「俺達も忘れないでくださいよ。」

そこには宗樹達がいた。

「別に忘れてねぇよ。」

俺はそう言いながら階段を降りる。

そして靴箱から靴を取り出し校門に向かった。

「あ、そういや涼達と喧嘩したんだってな。」

校門へ向かっている途中にそう陽汰が聞いてくる。

「っ…！」

俺は思わず唇を噛み締める。

朝のあの話を思い出したからだ。

「明日長澤達と喧嘩するんだろ？俺も行かせてくれよ。」

「…何でその話知ってんだよ？」

俺はそう陽汰に尋ねる。

「宗樹が言ってた。」

俺はそれを聞き、宗樹の事を睨み付ける。

宗樹は何となく察したようで、顔の前で両手を合わせる。

ごめん、という意味だろうか。

だが、その謝罪も虚しく、宗樹の隣にいた龍心は宗樹の事を思い切り背中引っ叩いた。

「パチン！」と良い音が鳴り、宗樹は余程痛かったのか、奇声を上げながら辺り走り回り出す。

「あいつ…。」

「まぁまぁ。それより、俺も行かせてくれよ〜。」

陽汰がそう背中をバンバン叩く。

「痛い痛い。わかったから止めろ。」

俺はそう陽汰に背中を叩くのを止めるように言う。

恐らく、陽汰からすれば軽く叩いている程度なのだろうが、馬鹿力な所為でこちらとしてはかなり痛い。

「よっしゃあ！」

陽汰は両手でガッツポーズをして喜ぶ。

「どれだけ喧嘩してぇんだよ…。」

俺は思わずそう声を漏らす。

「おい！」

俺達がそんな会話をしていると、後ろで大声が聞こえたので俺は思わず振り向く。

なんとそこには頭から血を流している人物がいる。

そいつはクラスメイトの浅田淳平だった。

その後ろには淳平を殴ったであろうと思われる人物が鉄パイプを持って立っている。

「テメェ！何してんだ！」

すぐに淳平と一緒に帰っていた男、槌井蓮がそいつの事を抑え込む。

「大丈夫か！？」

俺は淳平そう問いかけるが返事はない。

「ちょっとヤバいんじゃねぇか？」

陽汰がそう隣で呟いている。

「救急です。はい。場所は…」

幸い、龍心が救急車を呼んでくれているようだ。

あとは救急車を待つ事しかできない。

「ッチ！離せよ！」

そう男は必死に抵抗するが、蓮からは逃げられない。

「ん？こいつどっかで見たことあるような…。」

そう宗樹がそいつを見て言う。

宗樹はまだ龍心に引っ叩かれた背中が痛いのか、自分で自分の背中を擦り続けている。

「っ…。」

そう宗樹に言われるとそいつはあからさまに目を逸らす。

「何で目を逸らすんですかぃ？」

宗樹はそいつに問いかける。

「……。」

だが、そいつからは何も返ってこない。

「お前の事嫌いなんじゃね？」

そう宗四郎が冗談交じりに宗樹に言う。

「何で…。俺はこんなに愛してるのに！」

そう宗樹は茶番を始めようとする。

「ふざけてる場合じゃねぇよ。」

「蓮の言う通りだ。あとこいつは長澤の取り巻きAだろ。」

そう、抑え込まれた男の正体は、長澤の取り巻きの内の一人であった。

「あー…。」

そう宗樹は何かを思い出そうとしている。

「そうだ、昨日蹴り飛ばした人だ。」

「うるせぇ！」

そう宗樹が言うとそいつは宗樹に対して怒りを[漢字]露[/漢字][ふりがな]あら[/ふりがな]わにする。

「うるせぇのはお前だ。」

そう陽汰がそいつの事を踏み付ける。

丁度その時、救急車が到着した。

誰か付き添いが必要と言われた為、俺が付き添う事になった。
俺は揺れ続ける救急車の中で考え事をする。

何故、淳平は殴られていたのだろうか。

それが個人的な喧嘩ならまだしも、殴って来た相手は長澤の取り巻きだ。

しかも、淳平は誰かと揉める様な奴ではない。

となると考えられるのは…。

―――俺お前に勝つ。

その時、一つの言葉が脳裏を過よぎる。

（長澤…！）

そう、長澤の言葉だ。

もし淳平を狙ってやったわけではなく、華恋の時と同じ様に俺を狙ってやっていたとしたら…。

（俺の所為だ…。）

あくまでこれは憶測に過ぎない。

だが、その可能性も十二分にあるのだ。

取り敢えず、いくら考えても事実を知っているのは淳平と殴って来た取り巻きだけだ。

俺は淳平が目を覚ましたら知っている事について聞こうと思ったのだった。