（ここら辺な筈だが…。）

俺はそう走りながら辺りを見渡す。

龍心の作戦、「釣り野伏せ」。

部隊を三隊に分け、一隊が囮となりもう二隊が隠れて囮の一隊が誘き寄せた敵を挟み撃ちにする。

本来ならばこのような感じなのだが、今回は特別にそれ＋一隊に分けた。

その理由はその一隊が他の三隊を囮にし、敵の頭、長澤を直接叩く為である。

そしてその一隊に選ばれたのが俺という訳だ。

正直、ありがたかった。

華恋を殺られてこっちも相当頭にきていたからだ。

「クソっ！戦況はどうなっている！」

そう突然近くで声が聞こえる。

長澤の声だ。

（そこか！）

俺はその声の方向から長澤の位置を特定する。

そして物陰に隠れて奴を見ようとする。

だが、俺の目に映ったのは長澤一人だけではなかった。

長澤とその横に護衛らしき長身の男が立っている。

（面倒臭ぇな…。）

俺はそう心の中で舌打ちをする。

「それが…。敵に挟み撃ちにされているようです。逃げようにも逃げれないらしく…。」

もう一人の奴の声だ。

どこかで聞いた事がある気がするのだが、思い出せない。

「まんまとハメられたって訳か…！」

長澤はそう言い、爪を噛み、顔を真っ赤にして怒っている。

ハメられたことが相当気に入らないようだ。

（さて…。いつ行くか…。）

俺はそう突撃するタイミングを見計らう。

（まず殺るとすれば護衛からだな。）

俺はそうターゲットを決め、突撃の準備をする。

（5…4…3…）

俺は心の中でカウントダウンを始める。

（2…1…）

俺は脚に力を入れる。

（0！）

カウントダウンが終わったと同時に俺は地面を強く蹴り、男へ前蹴りをお見舞いしようとする。

するとその時だった。

「誰だ！」

男がそう突然振り向く。

（バレた！）

俺は突然の事に驚いてしまう。

だが、もうこの距離まで来てしまえば問題はない。

男は即座に防御の姿勢をとるが、俺はゴリ押しでそのまま男を蹴り飛ばす。

「ぐうっ！」

男はそう呻き声上げながら吹き飛ぶ。

「金谷！大丈夫か！？」

そう長澤が男に言う。

そうだ。金谷瑠加だ。

こいつはたしか長澤の取り巻きのうちの一人だ。

「大丈夫だ。問題ない。」

そう言い、金谷はフラっと立ち上がる。

（頑丈だな…。）

途中でバレてしまったと言えど、完全に不意打ちだった筈なのに、ダメージはかなり軽そうだ。

これは少し厄介かもしれない。

「前田…！何でここに！」

長澤は俺があちらにいると思っていたのか、俺がここにいる事に驚いているようだ。

「テメェに教える義理はねぇよ。」

俺はそう奴に言葉を吐き捨てる。

「前田…。一度お前と殺り合ってみたかったんだ。」

そう金谷は俺に向かって言う。

「それは嬉しいが、残念だな。5分足らずで終わっちまうからな。」

俺はそう奴の事を挑発する。

「へぇ…。随分と舐めてくれるじゃねぇか。」

奴は簡単に乗ってくる。

だが、

（ちょっと厳しいな…。）

俺はそう内心焦っている。

金谷が厄介なのもあるが、長澤がいる為実質2対1だ。

長澤自体はそこまで強くないが、金谷で手一杯のところを対応できるかというところだ。

かと言って、長期戦になってしまうと龍心達の方が厳しくなってしまう。

そういった理由から時間をかける事はできない。

「殺るしかねぇか。」

俺はそう決意を固め直した。