世界でいちばんやさしい嫌われ者
適度に硬いベッドの感触が伝わる。
体も、何もかも重い。
何が起きたんだろう。重いまぶたをなんとか開き、周りを見る。
そこはイシャバーナのフラピュタル城の中だった。
体をなんとか起こしてみると、後ろからみんなの声が聞こえてきた。
「……!?」
何度夢を見たことだろう。
バグナラクで談笑する夢。
ゴッカンでココアを飲む夢。
トウフでお鍋をみんなで食べる夢。
イシャバーナでみんなと笑う夢。
シュゴッダムで子どもたちと遊ぶ夢。
……ンコソパで、ヤンマに色々教えてもらう夢。
幸せな夢を見続けて。目覚めたくないって駄々こねて。
これも夢なんだろうけど、いや。こんな夢なら見ないほうがマシなんだけど。
呼吸がうまくできない。……体は十分痛い。
これは、現実なのか。本当に、現実なのか。
「「「「「ギラ(殿)(様)(くん)!!!!」」」」」
駆けてきたみんなが平謝ってくる。
何を言っているのかはわからない。次々に言われすぎてて聞こえやしない。
ジェラミーなんて涙を流して泣いてる。
「だ、大丈夫だよ。じぇ、ジェラミー、泣かないで。」
そう言うしかなくて。
みんながなんでこんなことをしているのかすら、わからなくて。
嫌われスイッチの効果は続いているはずなのに。
あれ、今まで僕は、何をしていたんだっけ?
あれ、___
「考えんな。」
その声が、僕の思考を止める。
感情を押し殺すように僕の耳元で囁かれたその言葉。
紛れもない、ヤンマの声だった。
「あ、や、ヤンマ。」
助けを求めてヤンマの方を向いてもヤンマは僕の方を見てくれることはなくて。
「黙ってアイツラの方だけ見てろ。俺を見るな。」
「あ、で、でもっ…。。」
「全部終わった。あいつらの謝罪、受け取ってやれよ。」
いつもみたいな軽い言葉は、聞こえなかった。
それから数時間ほど。
いつの間にかみんなも体力を使い果たしたようで眠っていた。
……ヤンマは、帰ってしまっていたけれど。
「ね、むれや ねーむれ 守護神の〜 守護せしみーこよ
おそれ〜る ことな〜ど なーにもなーい」
どこかで聞いたことあるような子守唄。
歌が特別得意なわけではないけれど、この歌でみんなが安らかに眠ってくれたらそれでいい。
悪夢なんて見ずに、このことを引きずらずに。
僕のことなんて、気にせずに。
「おやすみ おねむり 良い夢を」
嫌われスイッチを押したのは僕なんだから、みんなが気に病む必要はない。
ヤンマだって、間違ってない。
全部、悪いのは僕だ。
[水平線]
「ヤンマくん、いいんスか?三日まともに食べてないっすよ?」
「ん?問題ねぇよ。……あいつに比べたら。」
ヤンマは、ペタ城に入ってから、ずっと自分の部屋にこもっている。
一週間ほど前から、まともに部屋から出てこない。
最初はなんでだろうと思ったが、記憶を取り戻した今となっては、納得できる。
シオカラ自身、記憶を戻したあと死にたくなった人間の一人だ。
一番最初に記憶を取り戻したヤンマは、どんな気持ちだったかなど想像もできない。
「ギラくんは、本当、優しいっすよね。」
ギラは優しい。優しすぎるほどに。
それが、王たち、側近たちの心を静かに静かにえぐっていく。
王たちも、側近たちも、ギラにあの優しい目で【赦された】ときは精神をポッキリ折られたものだ。
まるでその事など記憶に無いかのように。
忘れてしまったかのように。
耐えられるものではなかっただろう。体も心も、限界だったことだろう。
それでも彼は、聖母のように皆を包みこんだ。
王として、一人間として、ヤンマには『甘すぎる』と言われるのであろうが。
「あいつは、優しいわけじゃねぇよ。」
「そんなっ!!なんてこと言うンスか、総長!!」
信じられない。シオカラはその言葉に、顔を青くする。
「ギラくんは、オイラたちを___「あいつのアレは、ただの【自己犠牲】だ。」
シオカラの胸に、その言葉はぐさりと刺さった。
扉越しに聞こえてくるのは、覇気のないヤンマの淡々とした声。
静かで、冷たく、感情のない声。
「……俺は一生あいつに赦されていい存在じゃねぇんだ。
あいつはそれを、わかってねぇ。」
少しずつ、ヤンマの声が震えだす。
それを隠すかのようにパチパチとゆっくりキーボードの音が高鳴りだす。
「一度、いや。何度も自分を命の危機に陥らせたやつだと思ってねぇ。
俺は、前からのヤンマ・ガストだと信じて疑わねぇ。
またいつ、自分を傷つけるかわかったもんじゃないのに。
それを体も心も恐れてんのに、全部押さえつけて、大丈夫だと言ってんだよ。」
ヤンマはギラと関わり続けて、知っている。
恐怖も、欲も、何もかも、彼の前では意味を失うことを。
彼は人のためなら、自分のことなんて全て投げ出してしまえることを。
「あいつは、ずっと怖がってる。
優しいんじゃねぇ。
怖がりで、泣き虫で。
なのにそれを、ずっと隠していやがる。
ただの、強がりだろ。」
「や、ヤンマくん。」
でも、シオカラも知っている。
ヤンマは自分を赦すことはないと。そういう男だと。
いくらギラが赦したとて、ずっと、背負っていくのだろう。
王たち全員の罪を、自分に着せててでも、自分を悪人にし続けて。
「無理、しないで。」
「あぁ。」
その声は、小さく、聞き取るのがやっとだった。
体も、何もかも重い。
何が起きたんだろう。重いまぶたをなんとか開き、周りを見る。
そこはイシャバーナのフラピュタル城の中だった。
体をなんとか起こしてみると、後ろからみんなの声が聞こえてきた。
「……!?」
何度夢を見たことだろう。
バグナラクで談笑する夢。
ゴッカンでココアを飲む夢。
トウフでお鍋をみんなで食べる夢。
イシャバーナでみんなと笑う夢。
シュゴッダムで子どもたちと遊ぶ夢。
……ンコソパで、ヤンマに色々教えてもらう夢。
幸せな夢を見続けて。目覚めたくないって駄々こねて。
これも夢なんだろうけど、いや。こんな夢なら見ないほうがマシなんだけど。
呼吸がうまくできない。……体は十分痛い。
これは、現実なのか。本当に、現実なのか。
「「「「「ギラ(殿)(様)(くん)!!!!」」」」」
駆けてきたみんなが平謝ってくる。
何を言っているのかはわからない。次々に言われすぎてて聞こえやしない。
ジェラミーなんて涙を流して泣いてる。
「だ、大丈夫だよ。じぇ、ジェラミー、泣かないで。」
そう言うしかなくて。
みんながなんでこんなことをしているのかすら、わからなくて。
嫌われスイッチの効果は続いているはずなのに。
あれ、今まで僕は、何をしていたんだっけ?
あれ、___
「考えんな。」
その声が、僕の思考を止める。
感情を押し殺すように僕の耳元で囁かれたその言葉。
紛れもない、ヤンマの声だった。
「あ、や、ヤンマ。」
助けを求めてヤンマの方を向いてもヤンマは僕の方を見てくれることはなくて。
「黙ってアイツラの方だけ見てろ。俺を見るな。」
「あ、で、でもっ…。。」
「全部終わった。あいつらの謝罪、受け取ってやれよ。」
いつもみたいな軽い言葉は、聞こえなかった。
それから数時間ほど。
いつの間にかみんなも体力を使い果たしたようで眠っていた。
……ヤンマは、帰ってしまっていたけれど。
「ね、むれや ねーむれ 守護神の〜 守護せしみーこよ
おそれ〜る ことな〜ど なーにもなーい」
どこかで聞いたことあるような子守唄。
歌が特別得意なわけではないけれど、この歌でみんなが安らかに眠ってくれたらそれでいい。
悪夢なんて見ずに、このことを引きずらずに。
僕のことなんて、気にせずに。
「おやすみ おねむり 良い夢を」
嫌われスイッチを押したのは僕なんだから、みんなが気に病む必要はない。
ヤンマだって、間違ってない。
全部、悪いのは僕だ。
[水平線]
「ヤンマくん、いいんスか?三日まともに食べてないっすよ?」
「ん?問題ねぇよ。……あいつに比べたら。」
ヤンマは、ペタ城に入ってから、ずっと自分の部屋にこもっている。
一週間ほど前から、まともに部屋から出てこない。
最初はなんでだろうと思ったが、記憶を取り戻した今となっては、納得できる。
シオカラ自身、記憶を戻したあと死にたくなった人間の一人だ。
一番最初に記憶を取り戻したヤンマは、どんな気持ちだったかなど想像もできない。
「ギラくんは、本当、優しいっすよね。」
ギラは優しい。優しすぎるほどに。
それが、王たち、側近たちの心を静かに静かにえぐっていく。
王たちも、側近たちも、ギラにあの優しい目で【赦された】ときは精神をポッキリ折られたものだ。
まるでその事など記憶に無いかのように。
忘れてしまったかのように。
耐えられるものではなかっただろう。体も心も、限界だったことだろう。
それでも彼は、聖母のように皆を包みこんだ。
王として、一人間として、ヤンマには『甘すぎる』と言われるのであろうが。
「あいつは、優しいわけじゃねぇよ。」
「そんなっ!!なんてこと言うンスか、総長!!」
信じられない。シオカラはその言葉に、顔を青くする。
「ギラくんは、オイラたちを___「あいつのアレは、ただの【自己犠牲】だ。」
シオカラの胸に、その言葉はぐさりと刺さった。
扉越しに聞こえてくるのは、覇気のないヤンマの淡々とした声。
静かで、冷たく、感情のない声。
「……俺は一生あいつに赦されていい存在じゃねぇんだ。
あいつはそれを、わかってねぇ。」
少しずつ、ヤンマの声が震えだす。
それを隠すかのようにパチパチとゆっくりキーボードの音が高鳴りだす。
「一度、いや。何度も自分を命の危機に陥らせたやつだと思ってねぇ。
俺は、前からのヤンマ・ガストだと信じて疑わねぇ。
またいつ、自分を傷つけるかわかったもんじゃないのに。
それを体も心も恐れてんのに、全部押さえつけて、大丈夫だと言ってんだよ。」
ヤンマはギラと関わり続けて、知っている。
恐怖も、欲も、何もかも、彼の前では意味を失うことを。
彼は人のためなら、自分のことなんて全て投げ出してしまえることを。
「あいつは、ずっと怖がってる。
優しいんじゃねぇ。
怖がりで、泣き虫で。
なのにそれを、ずっと隠していやがる。
ただの、強がりだろ。」
「や、ヤンマくん。」
でも、シオカラも知っている。
ヤンマは自分を赦すことはないと。そういう男だと。
いくらギラが赦したとて、ずっと、背負っていくのだろう。
王たち全員の罪を、自分に着せててでも、自分を悪人にし続けて。
「無理、しないで。」
「あぁ。」
その声は、小さく、聞き取るのがやっとだった。
このボタンは廃止予定です