放浪の水魔法使い
足が痛いのを堪えて、助かる方法を考える。何かないか?
前回までのあらすじ。突然砂漠に転移して死にかけてサーシャと出会って二人で歩いてたらゾンビに足掴まれました。わお、波瀾万丈!
などとふざけている場合ではない。こうしている間にも足を握る力はどんどんと強くなっている。痛い。しかしこうも痛いと現実逃避をしても仕方がないのではなかろうか。と、一つサーシャが魔力について説明してくれた時に教わったことを思い出した。
「いや、気力がなくても詠唱すればいいって言ってたじゃん!」
「なるほどその手がありましたか」
ポンと手を打つサーシャ。おいおい勘弁してくれ。こっちは痛いんだぞ。本当に痛っ痛い痛い。あまり悠長にしてられなくなった。するとサーシャは流石にこの状況の危うさというものに気がついたか、俺を心配そうに見つめて言った。
「あの、この手を切り落とすには二十秒以上の詠唱を要しますが、いいのですか?」
「今の言うのに使った五秒くらいは詠唱に回せたよな⁉︎」
俺のツッコミを聞き流すとサーシャは杖を砂地に刺して長い詠唱を始めた。さて、たった二十秒の辛抱だ。サーシャがなんとかしてくれるまで俺も気を強く持って、精神力においてこのゾンビに勝ってやろう。力が入ることによって、元から骨張っていた手が余計にその骨の形を露わにする。キモいし汚いし痛いし痛いし痛い。でも負けない。あれだけ暑い砂漠を歩き続けた[漢字]頑丈[/漢字][ふりがな]タフ[/ふりがな]な俺だ。この程度で負けてたまるものか。...い、痛いっ待って痛い無理だこれ!ちょっあっ痛い。すみません負けまし…
「刻め」
それと同時に俺の足を水のカッターが横切った。その音と足に伝わった風だけで速さと切れ味が分かったような気がした。今のが俺の足にも当たっていたなら、なんて考えると背筋がゾッとした。
「いやー、本当に助かった。ありがとな、サーシャ」
もう全然負けてないッス。今回もよく耐え切った、俺。そもそも耐えるも何も初めからそこまで痛いとは思ってなかったけどな。痛みが心地いいと感じるレベル。俺が解放感に浸っていると、サーシャがあわあわと口をぱくぱくさせて俺の背後を指差した。
「ゾンビが、後ろに、いますよ」
「えぇ...しぶとくない?」
「まあ、ゾンビですし」
頭に何か振り下ろされる予感がした俺は地を蹴って間一髪、切れていない方の左腕の攻撃を躱した。しかしこの風を切る音。当たったらひとたまりもない、というか最悪死ぬ。死体にはストッパーなんて存在しないのか、一般の人間の膂力など優に超えているように思えた。サーシャは詠唱すれば攻撃できるが、きっとこのゾンビは素早さも持ち合わせている。俺が時間を稼ぐことなど不可能だろう。
ならばどうする。現役、いや元と言った方がいいか。高校三年生の若々しくも柔軟な脳を見せてやるよ!知らないうちに無情にも割と遠くまで離れているサーシャ。少し文句を言いたいが今は好都合。俺はすぐに思いついたことを伝えるべく喉の調子を整える。
ちなみに死体は待ってくれないので追いかけっこをしながらのことである。くねくね曲がったりして上手く逃げているがそのうち限界が来るのは明白だ。この世界についてまだ深く知らない俺が思いつく策というのは少々不安ではあるが、迷っていてもどの道死ぬ。俺は声を張り上げ、砂漠の空気を震わせた。
「サーシャ、今からコイツをお前の方へ連れて行く!何か有効な魔法陣を水で土に描けっ!」
「へ? ...あっ、はい!」
俺は方向をくるっと変えてサーシャの方へ全力で走る。この一直線を全力疾走するのに失敗すれば、この作戦が上手くいかなければ俺の体力は尽きて、命もここで尽きる。サーシャは眉をキリッとあげて自身の前に水を丁寧に生成すると、それを砂の上へと落とした。背後で呻き声が聞こえたかと思うとまた手を伸ばしてくる気配がする。
「っ⁉︎」
Tシャツの襟に指が引っかかった。だが無理やりに走る俺とゾンビの強すぎる力にシャツが少し破れるだけで済んだ。もう何も考えずに足を前へ前へと繰り出す。そして砂に滲む水が熱で乾いていないことに安堵し、そして同時に大きく跳躍した。できる限り高く、できる限り遠くに。絶対に魔法陣は踏まないように。
「サーシャっ!今だ‼︎」
「了解です!」
サーシャの体が青く光る。今までよく見ていなかったが、魔法を使う際はその属性を表す色に発光するらしい。そして魔法陣も白く、イルミネーションのように光を発する。綺麗だな、なんて場違いな感想を抱く。勢いに任せて跳んだ俺はまともな受け身も取れずに転げた。回る世界の中で俺は、死体が魔法陣に触れた部分から砂になって崩れ落ちていくのを目撃した。
戦いを終えた俺はそれまでまともにできていなかった呼吸を再開しようと、大きく息を吐き出した。
「ぶぁあ~~~っ」
「やりましたね、水城さん!」
突然呼ばれた名前に、俺は仰向けに寝転びながら目を丸くする。今まで「あなた」だとか「あの」なんかで呼ばれていた俺がやっとサーシャに少し認めてもらえたような、そんな瞬間だった。俺はその喜びをどうすればいいのか分からず、手を空へ上げてから振り下ろして、砂を殴った。ごめんな、砂。今日は役に立ってくれたのにな。
しかし本当に疲れた。立ち上がって身体中あちこちについた砂を払う。サーシャもそれを手伝ってくれ、あらかたの砂は落ちたように感じる。砂と一緒に俺にまとわりついていたサーシャへの軽い不信感のようなものがパラパラと落ちていった。
まあアイデアを出したとはいえ、九割九分サーシャのお陰だろう。そもそも俺が立ち止まらなければ、ゾンビに目をつけられることもなかったわけだし。
「なんか俺、助けられてばっかりだな」
「そうですね。あっでは、後でご飯を食べた後に属性確認をしましょう!」
「ぞくせいかくにん?」
「はい、その名の通り自分が何魔法使いかを判断するものです」
「へえ...!楽しみだな」
ゾンビを消した魔法陣があった場所は、もうただの砂しか残っていない。どれが元あった砂で、どれが元ゾンビの砂なのかは判別がつかなかった。赤く染まった夕陽が、俺たちを讃えるように輝いていた。
[中央寄せ]✕ ✕ ✕[/中央寄せ]
もはや定番になっていたワームの肉もこの夕食で終わりだ。初めは気色悪かったが、いざなくなるとなると少し惜しく感じた。サーシャ手ずから作る水を飲むと、それが合図となったかのように二人して立ち上がる。
「では始めるとしようか...属性確認とやらを」
「ええ、そうですね。私が見届けてあげますよ」
ドキドキワクワクする胸を押さえつける。...えーと、あれか。これはあれをするのか。い、いざやるとなると恥ずかしいなー。世の主人公たちがなんの羞恥心も抱かずにあれをやってのけたのだとすると、俺はそれを無条件に尊敬したいと思う。
「ス」
「?」
「ス、ステータス、オープンッ!」
...? おかしいな、何も起こらない。滑らかに言えなかったのが悪かったんだな、きっと。一度言えば何も恥ずかしがることなんてない。大きく深呼吸して心を落ち着ける。サーシャは何やら戸惑った顔でこちらを見ているが、心配からくる表情だろう。その不安感、よく分かるぞ。当事者であるところの俺なんてもうバクバク言ってるからな。サーシャから自分の子が初めて歩こうとするのを見守る親のような視線を受けながら、もう一度丁寧に、そして大きな声ではっきりと言った。
「ステータスオープン!」
「あの、さっきから何をやってるんですか?」
「え、違うの?」
途端俺の体内の温度が急激に上昇する。え、何?俺ってば早とちりした挙句意味もなく「ステータスオープン!」とか叫んでたの?こんなの一生物の黒歴史だよ...。少しずつ昇っている巨大な月が、嘲るように俺の赤くなった頬を強調するがごとく照らす。俺は恥ずかしさを紛らわすように声に棘を出しながら聞いた。
「で、どうやんの」
「その、水城さんがしていたのはよく理解できませんでしたが『エレメント』といえば確認できますよ」
「エ、エレメントだな?」
「はい、『エレメント』です。胸に手をやり、目を瞑りながら」
「こ、こうか?」
「そうですね。まあそんなことしなくてもいいんですけど」
「おいふざけんな」
コイツ、俺が恥ずかしがってるのを分かって挑発してやがる...。だが一度そう言う気分になった俺は、雰囲気を味わうために胸に手をやり目を閉じた。そして
「エレメント」
体の中を血液以外の何かが巡るような感覚。この世界に来ると同時に俺の体は適応したのだろうか。こんなもの、きっと元の世界にはない。俺は今、何色に光っているのだろう。サーシャはどんな表情を見せているだろう。目を開く前にそんなことを考えてみる。そして俺が瞼を開けて初めに見たのは、サーシャの絶望した顔だった。
「な、んで?」
どういうことだ、俺は何魔法使いなのだろう。手を額の前に出すと、それはぼんやりと青く。しかし確かに青く光っていた。
「こんなの、おかしいよ。イー...シャ、イーシャは?そんなの、有り得ない。あり、えない。ありえないありえない…」
今朝サーシャの寝言で聞いた名前。その後も「ありえない」「いやだ」と幼い子供のように繰り返すサーシャは悲痛だった。見ているだけで辛かった。
先ほどまでの明るい雰囲気とは打って変わって、胸が潰れそうな、そんな感じがした。昇り行く月はやはり俺たちを嘲るように、サーシャの金眼から零れ落ちる涙を照らす。キラキラ輝いていたはずの美しい金眼はその光を失っているようにさえ見えた。
サーシャが目を虚にして言葉を繰り返す時間は、まるでこの砂漠と同じように
永遠に終わらないような気がした。
[中央寄せ]ー続ー[/中央寄せ]
[水平線]
〈世界観memo〉
「サンドワーム」
体長30m〜80m(成体)
水城 海を襲ったのは60m級である。そして基本40m〜50m級が多い。
普段は砂地に潜っており、同じく地中にいる生物を捕食する。地中に獲物が減ると地上に出ることもある。無数に生えた小さな歯で獲物を引っ掛け、口の幅を狭めていくことですりつぶして食べる。最悪の場合、共喰いを始めることもある。
色は砂と似ている。しかしその巨大さから擬態はできないので、あまり意味はないと思われる。
幼体でも10m〜25mはある。
前回までのあらすじ。突然砂漠に転移して死にかけてサーシャと出会って二人で歩いてたらゾンビに足掴まれました。わお、波瀾万丈!
などとふざけている場合ではない。こうしている間にも足を握る力はどんどんと強くなっている。痛い。しかしこうも痛いと現実逃避をしても仕方がないのではなかろうか。と、一つサーシャが魔力について説明してくれた時に教わったことを思い出した。
「いや、気力がなくても詠唱すればいいって言ってたじゃん!」
「なるほどその手がありましたか」
ポンと手を打つサーシャ。おいおい勘弁してくれ。こっちは痛いんだぞ。本当に痛っ痛い痛い。あまり悠長にしてられなくなった。するとサーシャは流石にこの状況の危うさというものに気がついたか、俺を心配そうに見つめて言った。
「あの、この手を切り落とすには二十秒以上の詠唱を要しますが、いいのですか?」
「今の言うのに使った五秒くらいは詠唱に回せたよな⁉︎」
俺のツッコミを聞き流すとサーシャは杖を砂地に刺して長い詠唱を始めた。さて、たった二十秒の辛抱だ。サーシャがなんとかしてくれるまで俺も気を強く持って、精神力においてこのゾンビに勝ってやろう。力が入ることによって、元から骨張っていた手が余計にその骨の形を露わにする。キモいし汚いし痛いし痛いし痛い。でも負けない。あれだけ暑い砂漠を歩き続けた[漢字]頑丈[/漢字][ふりがな]タフ[/ふりがな]な俺だ。この程度で負けてたまるものか。...い、痛いっ待って痛い無理だこれ!ちょっあっ痛い。すみません負けまし…
「刻め」
それと同時に俺の足を水のカッターが横切った。その音と足に伝わった風だけで速さと切れ味が分かったような気がした。今のが俺の足にも当たっていたなら、なんて考えると背筋がゾッとした。
「いやー、本当に助かった。ありがとな、サーシャ」
もう全然負けてないッス。今回もよく耐え切った、俺。そもそも耐えるも何も初めからそこまで痛いとは思ってなかったけどな。痛みが心地いいと感じるレベル。俺が解放感に浸っていると、サーシャがあわあわと口をぱくぱくさせて俺の背後を指差した。
「ゾンビが、後ろに、いますよ」
「えぇ...しぶとくない?」
「まあ、ゾンビですし」
頭に何か振り下ろされる予感がした俺は地を蹴って間一髪、切れていない方の左腕の攻撃を躱した。しかしこの風を切る音。当たったらひとたまりもない、というか最悪死ぬ。死体にはストッパーなんて存在しないのか、一般の人間の膂力など優に超えているように思えた。サーシャは詠唱すれば攻撃できるが、きっとこのゾンビは素早さも持ち合わせている。俺が時間を稼ぐことなど不可能だろう。
ならばどうする。現役、いや元と言った方がいいか。高校三年生の若々しくも柔軟な脳を見せてやるよ!知らないうちに無情にも割と遠くまで離れているサーシャ。少し文句を言いたいが今は好都合。俺はすぐに思いついたことを伝えるべく喉の調子を整える。
ちなみに死体は待ってくれないので追いかけっこをしながらのことである。くねくね曲がったりして上手く逃げているがそのうち限界が来るのは明白だ。この世界についてまだ深く知らない俺が思いつく策というのは少々不安ではあるが、迷っていてもどの道死ぬ。俺は声を張り上げ、砂漠の空気を震わせた。
「サーシャ、今からコイツをお前の方へ連れて行く!何か有効な魔法陣を水で土に描けっ!」
「へ? ...あっ、はい!」
俺は方向をくるっと変えてサーシャの方へ全力で走る。この一直線を全力疾走するのに失敗すれば、この作戦が上手くいかなければ俺の体力は尽きて、命もここで尽きる。サーシャは眉をキリッとあげて自身の前に水を丁寧に生成すると、それを砂の上へと落とした。背後で呻き声が聞こえたかと思うとまた手を伸ばしてくる気配がする。
「っ⁉︎」
Tシャツの襟に指が引っかかった。だが無理やりに走る俺とゾンビの強すぎる力にシャツが少し破れるだけで済んだ。もう何も考えずに足を前へ前へと繰り出す。そして砂に滲む水が熱で乾いていないことに安堵し、そして同時に大きく跳躍した。できる限り高く、できる限り遠くに。絶対に魔法陣は踏まないように。
「サーシャっ!今だ‼︎」
「了解です!」
サーシャの体が青く光る。今までよく見ていなかったが、魔法を使う際はその属性を表す色に発光するらしい。そして魔法陣も白く、イルミネーションのように光を発する。綺麗だな、なんて場違いな感想を抱く。勢いに任せて跳んだ俺はまともな受け身も取れずに転げた。回る世界の中で俺は、死体が魔法陣に触れた部分から砂になって崩れ落ちていくのを目撃した。
戦いを終えた俺はそれまでまともにできていなかった呼吸を再開しようと、大きく息を吐き出した。
「ぶぁあ~~~っ」
「やりましたね、水城さん!」
突然呼ばれた名前に、俺は仰向けに寝転びながら目を丸くする。今まで「あなた」だとか「あの」なんかで呼ばれていた俺がやっとサーシャに少し認めてもらえたような、そんな瞬間だった。俺はその喜びをどうすればいいのか分からず、手を空へ上げてから振り下ろして、砂を殴った。ごめんな、砂。今日は役に立ってくれたのにな。
しかし本当に疲れた。立ち上がって身体中あちこちについた砂を払う。サーシャもそれを手伝ってくれ、あらかたの砂は落ちたように感じる。砂と一緒に俺にまとわりついていたサーシャへの軽い不信感のようなものがパラパラと落ちていった。
まあアイデアを出したとはいえ、九割九分サーシャのお陰だろう。そもそも俺が立ち止まらなければ、ゾンビに目をつけられることもなかったわけだし。
「なんか俺、助けられてばっかりだな」
「そうですね。あっでは、後でご飯を食べた後に属性確認をしましょう!」
「ぞくせいかくにん?」
「はい、その名の通り自分が何魔法使いかを判断するものです」
「へえ...!楽しみだな」
ゾンビを消した魔法陣があった場所は、もうただの砂しか残っていない。どれが元あった砂で、どれが元ゾンビの砂なのかは判別がつかなかった。赤く染まった夕陽が、俺たちを讃えるように輝いていた。
[中央寄せ]✕ ✕ ✕[/中央寄せ]
もはや定番になっていたワームの肉もこの夕食で終わりだ。初めは気色悪かったが、いざなくなるとなると少し惜しく感じた。サーシャ手ずから作る水を飲むと、それが合図となったかのように二人して立ち上がる。
「では始めるとしようか...属性確認とやらを」
「ええ、そうですね。私が見届けてあげますよ」
ドキドキワクワクする胸を押さえつける。...えーと、あれか。これはあれをするのか。い、いざやるとなると恥ずかしいなー。世の主人公たちがなんの羞恥心も抱かずにあれをやってのけたのだとすると、俺はそれを無条件に尊敬したいと思う。
「ス」
「?」
「ス、ステータス、オープンッ!」
...? おかしいな、何も起こらない。滑らかに言えなかったのが悪かったんだな、きっと。一度言えば何も恥ずかしがることなんてない。大きく深呼吸して心を落ち着ける。サーシャは何やら戸惑った顔でこちらを見ているが、心配からくる表情だろう。その不安感、よく分かるぞ。当事者であるところの俺なんてもうバクバク言ってるからな。サーシャから自分の子が初めて歩こうとするのを見守る親のような視線を受けながら、もう一度丁寧に、そして大きな声ではっきりと言った。
「ステータスオープン!」
「あの、さっきから何をやってるんですか?」
「え、違うの?」
途端俺の体内の温度が急激に上昇する。え、何?俺ってば早とちりした挙句意味もなく「ステータスオープン!」とか叫んでたの?こんなの一生物の黒歴史だよ...。少しずつ昇っている巨大な月が、嘲るように俺の赤くなった頬を強調するがごとく照らす。俺は恥ずかしさを紛らわすように声に棘を出しながら聞いた。
「で、どうやんの」
「その、水城さんがしていたのはよく理解できませんでしたが『エレメント』といえば確認できますよ」
「エ、エレメントだな?」
「はい、『エレメント』です。胸に手をやり、目を瞑りながら」
「こ、こうか?」
「そうですね。まあそんなことしなくてもいいんですけど」
「おいふざけんな」
コイツ、俺が恥ずかしがってるのを分かって挑発してやがる...。だが一度そう言う気分になった俺は、雰囲気を味わうために胸に手をやり目を閉じた。そして
「エレメント」
体の中を血液以外の何かが巡るような感覚。この世界に来ると同時に俺の体は適応したのだろうか。こんなもの、きっと元の世界にはない。俺は今、何色に光っているのだろう。サーシャはどんな表情を見せているだろう。目を開く前にそんなことを考えてみる。そして俺が瞼を開けて初めに見たのは、サーシャの絶望した顔だった。
「な、んで?」
どういうことだ、俺は何魔法使いなのだろう。手を額の前に出すと、それはぼんやりと青く。しかし確かに青く光っていた。
「こんなの、おかしいよ。イー...シャ、イーシャは?そんなの、有り得ない。あり、えない。ありえないありえない…」
今朝サーシャの寝言で聞いた名前。その後も「ありえない」「いやだ」と幼い子供のように繰り返すサーシャは悲痛だった。見ているだけで辛かった。
先ほどまでの明るい雰囲気とは打って変わって、胸が潰れそうな、そんな感じがした。昇り行く月はやはり俺たちを嘲るように、サーシャの金眼から零れ落ちる涙を照らす。キラキラ輝いていたはずの美しい金眼はその光を失っているようにさえ見えた。
サーシャが目を虚にして言葉を繰り返す時間は、まるでこの砂漠と同じように
永遠に終わらないような気がした。
[中央寄せ]ー続ー[/中央寄せ]
[水平線]
〈世界観memo〉
「サンドワーム」
体長30m〜80m(成体)
水城 海を襲ったのは60m級である。そして基本40m〜50m級が多い。
普段は砂地に潜っており、同じく地中にいる生物を捕食する。地中に獲物が減ると地上に出ることもある。無数に生えた小さな歯で獲物を引っ掛け、口の幅を狭めていくことですりつぶして食べる。最悪の場合、共喰いを始めることもある。
色は砂と似ている。しかしその巨大さから擬態はできないので、あまり意味はないと思われる。
幼体でも10m〜25mはある。