放浪の水魔法使い
薄雲が広がる空の下、俺たちより10mほど前に立ちはだかるゴーレムはじーっと動かず、俺たちの隙を窺う。そんなものは見せまいと身構えるが、既に手負いの俺は隙だらけだ。特に生命活動に影響を与えるほどの傷ではない。しかしそれは治療をすぐに受ければの話であり、そんな悠長なことを言っていられないのが現状だ。
様子を見て動かない両者の間に風が吹き、それに巻き込まれるようにして右へ左へ翻弄される砂がちらつく。その風が凪ぐと同時に、ゴーレムは砂を蹴った。地面に派手に掘られた跡を残したゴーレムは、地を揺らしながら突進する。
雄叫びを上げながら砂を散らし続ける巨大な土塊を前に、サーシャは動じず杖を横にして両手に構えた。いつにも増して真剣な表情は、その視線だけでゴーレムを射抜かんとしている。解呪は済んで気力は戻っている筈なのに詠唱を始めたのは、その威力を上げるためだろう。念には念を、サーシャの慎重な性格が表れているようだ。詠唱は翻訳不可なのか、俺にはサーシャが何を言っているか分からなかった。
目を瞑り口を動かすサーシャに数秒で辿り着いたゴーレムが、握った拳を振り下ろした。辺りの空気を縦に切り分けながら地に着く拳。その拳が立てたボゴッという音が砂に吸収される。しかしそのエネルギーは留まることなく、巨大な噴水のように砂が舞い上がった。
「っ、サーシャ!」
名前を呼ぶには遅すぎる反応。それは俺の反射神経の無さを物語っており、戦闘に於いて致命的だ。そんな俺の言葉など聞く必要もないだろうサーシャは、最低限の動きで美しく打撃を交わす。敢えて魅せながら戦っているようにも見える紙一重の回避をするサーシャ。俺とウスハは今何かしたところで足を引っ張ることになると感じ、固唾を呑んで見守ることしかできない。
不甲斐なさに唇を噛む二人の眼前で、サーシャは目を閉じながら、水を使うことによるサーフィングのような軽やかさでスライディングして、真下への殴打という単調な攻撃に当たらないよう、ゴーレムの股の間を通る。ゴーレムによってできる影に、閉じた視界がより暗くなる。それを感じ取ったサーシャは目を開き、太陽が見えたところで体を捻った。背後に回り込むことに成功したサーシャは、大粒の水を己を囲うように展開した。サーシャの周りをまるで雷神の太鼓のように広がる複数の球、それらがゴーレムを次々に襲った。
土砂は水を浴びると脆くなることから、サーシャの水魔法は相性としてはこちらに有利に働く筈である。実際自然界では河辺の石は丸く削られており、そこから水の力が計り知れる。鋭い音を立てて真っ直ぐ伸びていく線は日光を反射し、俺は眩しさに目を細める。ドドドドドッと岩を削る音がする。それだけで閉じた瞼の奥では、魔法がゴーレムに炸裂する光景が広がっていることが分かる。
「あっ、サーシャ!このままいけば!」
ウスハには勝ちが見えたのか、柔らかな表情を取り戻しながら言った。そんなウスハの言葉を聞いて、俺もゴーレムの方に向き直る。すると、ゴーレムの大きな背が浅く削られていた。この分ならいつかはコアに届くだろう。涓滴岩を穿つ、その言葉を今は信じるのみだ。
ゴーレムが振り向くよりも速く、サーシャは次の攻撃に向けて水を生成した。そしてまずは攻撃することが先決と踏んだか、サーシャは詠唱なしで杖を構える。すると、その目が大きく見開かれた。...何だ?俺がサーシャの様子を訝しく思っていると、次はウスハが口を開く。
「み、見て...。傷が、傷が再生してる...!」
「あ⋯ あいつ、たった1秒で傷が再生しやがった!!」
ウスハの言う通り、ゴーレムの削れた筈の背は修復されていた。その回復スピードは、サーシャが次の魔法を撃つよりも早い。嗚呼、なんてことだ。一瞬勝ち筋が見えたというのに、それは直ぐに塞がれる。何度も同じ技を放つサーシャに、負った傷を瞬時に再生するゴーレム。サーシャの魔力量と気力量がいくら膨大でも、それは有限である。つまりずっとこれを続けるならば、俺たちの敗北は確定しているということでもある。即座に治癒されることを理解しながらも抵抗を続けるサーシャ。それは大雪が降る中で雪かきをするようなもので、キリがない。
サーシャの魔力と気力はまだ有り余っているようだ。しかし、逃げ惑いながら戦闘する彼女は、肩で息をしている。体力の限界だろうか。ゴーレムは一瞬止まったサーシャの隙を無情にも見逃す事はなかった。直線を描く岩の拳。それはサーシャの顔面を捉えて、寸前で止まった。
「ボ、ボクたちが、なんとかしなきゃ...!」
ゴーレムの足元から力強く伸びた砂の手が、その手首をガシッと掴んで攻撃を阻止した。己の役に立てるところを漸く見つけ、考えるよりも早く行動するウスハに、俺は強い劣等感を抱いた。見ているだけで何もできず、突っ立っているだけの俺。それが無性に腹が立つ。足手纏いになるだとか何だとか、言い訳だけを見つける俺は卑怯者だ。ギリッと音が鳴るほどに歯を噛み締めた。直接的なダメージでなくていい、先ほどやった足元を泥濘ませる程度でもいい。例え微力であろうとも助けは助けだ。微力であることを理由に手を拱くのは許されない。何より俺が許さない。
俺は手近にあった小石を掴むと、思いっきり投げた。その石は明後日の方向に飛んでいく。ウスハはそんな俺を見て、怪訝な表情を浮かべる。
「カイ様っ!?こんな状況で何してるのさ!」
俺はそれに答えず意識を集中させる。上手く水を纏わせた石は、曲線を描きスピードを上げていく。加速した石は上昇して、ゴーレムの顔まで届いた。コツンと弱々しい音が響く。操作は大成功で、ゴーレムの目に当たったというのにまるで効果がない。その事実に意欲を削がれそうになるが、そのくらい予想していたことである。本命はここからだ。
ゴーレムに当たって跳ね返った石には、まだ水を纏わせてある。飛沫を上げながら宙を舞う石を注視して、最良のタイミングを探る。そして石はゴーレムの目線と直線で結べる高さにまで落ちた。俺はそれを逃さぬように魔法を発動させた。
「穿てっ!」
俺の言葉を受け、石からは今俺にできる最高の鋭さの水が射出された。その銃はゴーレムの視界を片方奪い、その石は水を失ったことでポトリと砂へ落ちた。ゴーレムは怒り心頭に発するという様子で乱暴にこちらを睨んだ。目を貫かれたゴーレムに、残った方の目をギラギラ光らせて睨め付けられる。怖いというのに、否、怖いからこそ口の端を吊り上げて、笑みが溢れる。この後どうするか考えていなかった自分への嘲笑だ。もう気力は残っていない。流石俺、伊達にサーシャから気力量ワースト一位の称号を頂いていない。なんて無理矢理にでもふざけていないと体が恐怖で動かなくなりそうだ。ゴーレムは先程までと比べて、より一層走りを速くしてこちらへ向かってくる。
俺は屈んで震える手をなんとか地につけ、気持ちを落ち着ける。大きく深呼吸した後、真正面から巨人を捉えた。そして思いっきり叫んだ。
「そこで一生もがいてろっ!クソボケが────っ」
俺の両手から滔々と溢れ出す大量の水が、砂漠の地を広範囲に湿らせていく。ゴーレムの知能が高くなくて良かった。同じ手に引っ掛かってくれて助かる。突然足元が泥濘み始めたことに気が付かず、ゴーレムは間抜けにも足を取られて再度すっ転んだ。体の表面が泥と同じ色になったゴーレムは何とか身を起こす。その顔にはやはり、目が二つ付いていた。治りは遅いようだが結局回復するのか。
何の策も思い浮かばないというのに、ゴーレムは無理矢理にも泥の中を大きく進む。ウスハも砂の手を生成してゴーレムの腕を掴ませるが、それも瞬時に破壊されてしまう。そうこうしている内にゴーレムは目前まで迫っていた。数十秒の時間稼ぎ、それは結果的に意味を成さず、俺は泥から脱出しようとするゴーレムから距離を取った。
万策尽きたか。半ば諦めの境地に入っていると、途端辺りが暗くなった。空を見上げると分厚い雲が広がり、忌々しい太陽を覆い隠していた。そのどんよりとした暗さは、俺たちの行く末でも表しているようで、俺は深く溜息を吐いた。吐いた息は湿った空気に吸い込まれる。すると間もなく、どこからとは正確に分からないものの、ポツポツ、と不規則なリズムが奏でられ始める。鼻先に何かが落ち、瞬時に冷たい感覚がそこから染み渡る。
「...雨だ」
そう言ったことが合図にでもなったように、途切れ途切れの雨音は一続きに変わった。ザーザーと降り注ぐ雫はここに来て初めてのもので、全てを冷やして行く。雨というのは羽を重たくするのか、ウスハは少しばかり顔を顰めている。しかしサーシャはそれとは対照的に、口元を緩めて空を見上げていた。その体勢のまま首だけをこちらに巡らせたサーシャは、勝気な笑みを浮かべる。降り頻る雨に全てを洗い流されたかのように。乾き渇いた心が潤ったかのように。空からは光が漏れていないのに、サーシャの目には一筋の光が映っているようだった。手を天に掲げながら呟くサーシャの声は、何故か雨の音に掻き消されることなく、はっきりと耳に届いた。
「さあ、反撃開始です」
[中央寄せ]ー続ー[/中央寄せ]
[水平線]
〈世界観memo〉
「禁忌術式」
誰が扱えるのか不明なため、詳細は明らかでない。ただ確実なのは危険の一言である。どう危険なのかも誰も知らない。世界を震撼させた大災害の中には、禁忌術式によるものもあるのではないかと噂される。それぞれの属性に一つ存在することが古い文献に残されている。
様子を見て動かない両者の間に風が吹き、それに巻き込まれるようにして右へ左へ翻弄される砂がちらつく。その風が凪ぐと同時に、ゴーレムは砂を蹴った。地面に派手に掘られた跡を残したゴーレムは、地を揺らしながら突進する。
雄叫びを上げながら砂を散らし続ける巨大な土塊を前に、サーシャは動じず杖を横にして両手に構えた。いつにも増して真剣な表情は、その視線だけでゴーレムを射抜かんとしている。解呪は済んで気力は戻っている筈なのに詠唱を始めたのは、その威力を上げるためだろう。念には念を、サーシャの慎重な性格が表れているようだ。詠唱は翻訳不可なのか、俺にはサーシャが何を言っているか分からなかった。
目を瞑り口を動かすサーシャに数秒で辿り着いたゴーレムが、握った拳を振り下ろした。辺りの空気を縦に切り分けながら地に着く拳。その拳が立てたボゴッという音が砂に吸収される。しかしそのエネルギーは留まることなく、巨大な噴水のように砂が舞い上がった。
「っ、サーシャ!」
名前を呼ぶには遅すぎる反応。それは俺の反射神経の無さを物語っており、戦闘に於いて致命的だ。そんな俺の言葉など聞く必要もないだろうサーシャは、最低限の動きで美しく打撃を交わす。敢えて魅せながら戦っているようにも見える紙一重の回避をするサーシャ。俺とウスハは今何かしたところで足を引っ張ることになると感じ、固唾を呑んで見守ることしかできない。
不甲斐なさに唇を噛む二人の眼前で、サーシャは目を閉じながら、水を使うことによるサーフィングのような軽やかさでスライディングして、真下への殴打という単調な攻撃に当たらないよう、ゴーレムの股の間を通る。ゴーレムによってできる影に、閉じた視界がより暗くなる。それを感じ取ったサーシャは目を開き、太陽が見えたところで体を捻った。背後に回り込むことに成功したサーシャは、大粒の水を己を囲うように展開した。サーシャの周りをまるで雷神の太鼓のように広がる複数の球、それらがゴーレムを次々に襲った。
土砂は水を浴びると脆くなることから、サーシャの水魔法は相性としてはこちらに有利に働く筈である。実際自然界では河辺の石は丸く削られており、そこから水の力が計り知れる。鋭い音を立てて真っ直ぐ伸びていく線は日光を反射し、俺は眩しさに目を細める。ドドドドドッと岩を削る音がする。それだけで閉じた瞼の奥では、魔法がゴーレムに炸裂する光景が広がっていることが分かる。
「あっ、サーシャ!このままいけば!」
ウスハには勝ちが見えたのか、柔らかな表情を取り戻しながら言った。そんなウスハの言葉を聞いて、俺もゴーレムの方に向き直る。すると、ゴーレムの大きな背が浅く削られていた。この分ならいつかはコアに届くだろう。涓滴岩を穿つ、その言葉を今は信じるのみだ。
ゴーレムが振り向くよりも速く、サーシャは次の攻撃に向けて水を生成した。そしてまずは攻撃することが先決と踏んだか、サーシャは詠唱なしで杖を構える。すると、その目が大きく見開かれた。...何だ?俺がサーシャの様子を訝しく思っていると、次はウスハが口を開く。
「み、見て...。傷が、傷が再生してる...!」
「あ⋯ あいつ、たった1秒で傷が再生しやがった!!」
ウスハの言う通り、ゴーレムの削れた筈の背は修復されていた。その回復スピードは、サーシャが次の魔法を撃つよりも早い。嗚呼、なんてことだ。一瞬勝ち筋が見えたというのに、それは直ぐに塞がれる。何度も同じ技を放つサーシャに、負った傷を瞬時に再生するゴーレム。サーシャの魔力量と気力量がいくら膨大でも、それは有限である。つまりずっとこれを続けるならば、俺たちの敗北は確定しているということでもある。即座に治癒されることを理解しながらも抵抗を続けるサーシャ。それは大雪が降る中で雪かきをするようなもので、キリがない。
サーシャの魔力と気力はまだ有り余っているようだ。しかし、逃げ惑いながら戦闘する彼女は、肩で息をしている。体力の限界だろうか。ゴーレムは一瞬止まったサーシャの隙を無情にも見逃す事はなかった。直線を描く岩の拳。それはサーシャの顔面を捉えて、寸前で止まった。
「ボ、ボクたちが、なんとかしなきゃ...!」
ゴーレムの足元から力強く伸びた砂の手が、その手首をガシッと掴んで攻撃を阻止した。己の役に立てるところを漸く見つけ、考えるよりも早く行動するウスハに、俺は強い劣等感を抱いた。見ているだけで何もできず、突っ立っているだけの俺。それが無性に腹が立つ。足手纏いになるだとか何だとか、言い訳だけを見つける俺は卑怯者だ。ギリッと音が鳴るほどに歯を噛み締めた。直接的なダメージでなくていい、先ほどやった足元を泥濘ませる程度でもいい。例え微力であろうとも助けは助けだ。微力であることを理由に手を拱くのは許されない。何より俺が許さない。
俺は手近にあった小石を掴むと、思いっきり投げた。その石は明後日の方向に飛んでいく。ウスハはそんな俺を見て、怪訝な表情を浮かべる。
「カイ様っ!?こんな状況で何してるのさ!」
俺はそれに答えず意識を集中させる。上手く水を纏わせた石は、曲線を描きスピードを上げていく。加速した石は上昇して、ゴーレムの顔まで届いた。コツンと弱々しい音が響く。操作は大成功で、ゴーレムの目に当たったというのにまるで効果がない。その事実に意欲を削がれそうになるが、そのくらい予想していたことである。本命はここからだ。
ゴーレムに当たって跳ね返った石には、まだ水を纏わせてある。飛沫を上げながら宙を舞う石を注視して、最良のタイミングを探る。そして石はゴーレムの目線と直線で結べる高さにまで落ちた。俺はそれを逃さぬように魔法を発動させた。
「穿てっ!」
俺の言葉を受け、石からは今俺にできる最高の鋭さの水が射出された。その銃はゴーレムの視界を片方奪い、その石は水を失ったことでポトリと砂へ落ちた。ゴーレムは怒り心頭に発するという様子で乱暴にこちらを睨んだ。目を貫かれたゴーレムに、残った方の目をギラギラ光らせて睨め付けられる。怖いというのに、否、怖いからこそ口の端を吊り上げて、笑みが溢れる。この後どうするか考えていなかった自分への嘲笑だ。もう気力は残っていない。流石俺、伊達にサーシャから気力量ワースト一位の称号を頂いていない。なんて無理矢理にでもふざけていないと体が恐怖で動かなくなりそうだ。ゴーレムは先程までと比べて、より一層走りを速くしてこちらへ向かってくる。
俺は屈んで震える手をなんとか地につけ、気持ちを落ち着ける。大きく深呼吸した後、真正面から巨人を捉えた。そして思いっきり叫んだ。
「そこで一生もがいてろっ!クソボケが────っ」
俺の両手から滔々と溢れ出す大量の水が、砂漠の地を広範囲に湿らせていく。ゴーレムの知能が高くなくて良かった。同じ手に引っ掛かってくれて助かる。突然足元が泥濘み始めたことに気が付かず、ゴーレムは間抜けにも足を取られて再度すっ転んだ。体の表面が泥と同じ色になったゴーレムは何とか身を起こす。その顔にはやはり、目が二つ付いていた。治りは遅いようだが結局回復するのか。
何の策も思い浮かばないというのに、ゴーレムは無理矢理にも泥の中を大きく進む。ウスハも砂の手を生成してゴーレムの腕を掴ませるが、それも瞬時に破壊されてしまう。そうこうしている内にゴーレムは目前まで迫っていた。数十秒の時間稼ぎ、それは結果的に意味を成さず、俺は泥から脱出しようとするゴーレムから距離を取った。
万策尽きたか。半ば諦めの境地に入っていると、途端辺りが暗くなった。空を見上げると分厚い雲が広がり、忌々しい太陽を覆い隠していた。そのどんよりとした暗さは、俺たちの行く末でも表しているようで、俺は深く溜息を吐いた。吐いた息は湿った空気に吸い込まれる。すると間もなく、どこからとは正確に分からないものの、ポツポツ、と不規則なリズムが奏でられ始める。鼻先に何かが落ち、瞬時に冷たい感覚がそこから染み渡る。
「...雨だ」
そう言ったことが合図にでもなったように、途切れ途切れの雨音は一続きに変わった。ザーザーと降り注ぐ雫はここに来て初めてのもので、全てを冷やして行く。雨というのは羽を重たくするのか、ウスハは少しばかり顔を顰めている。しかしサーシャはそれとは対照的に、口元を緩めて空を見上げていた。その体勢のまま首だけをこちらに巡らせたサーシャは、勝気な笑みを浮かべる。降り頻る雨に全てを洗い流されたかのように。乾き渇いた心が潤ったかのように。空からは光が漏れていないのに、サーシャの目には一筋の光が映っているようだった。手を天に掲げながら呟くサーシャの声は、何故か雨の音に掻き消されることなく、はっきりと耳に届いた。
「さあ、反撃開始です」
[中央寄せ]ー続ー[/中央寄せ]
[水平線]
〈世界観memo〉
「禁忌術式」
誰が扱えるのか不明なため、詳細は明らかでない。ただ確実なのは危険の一言である。どう危険なのかも誰も知らない。世界を震撼させた大災害の中には、禁忌術式によるものもあるのではないかと噂される。それぞれの属性に一つ存在することが古い文献に残されている。