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 これは、とある掲示板が発祥の「不遇水魔法使いの禁忌術式」という物語であり、他にも複数の似た小説が存在します。
 以前私が書いたものを誤って消してしまったので、タイトルを変えて復活させることにしました。

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放浪の水魔法使い

#10

依代破壊作戦

 俺はようやく一息をつける時間を手にしたと感じ、ぼーっと虚空を見つめながらこれまでを思い返す。

 目を覚ますと砂漠へ転移したと思えば水分不足と魔物によって殺されかけ、サーシャに助けられたと思ったらゾンビに出くわす。サーシャの過去についても俺には分からない。しかしそれに思考を全て回すには俺には余裕なんてある筈がなく、アリジゴクにも殺されかけて。...やはり俺の異世界転移はまちがっている。

 と言いたいところだったが一つだけ、お約束が守られた。それは今俺の周りを飛んでいるウスハのことである。魔物が仲間になって女体化するお約束だけは守られていて安心である。寧ろ今までお約束が破られすぎて何人に針千本飲ませなきゃならんのかと考えると頭を抱えたくなる。そんなことをぐるぐる考えていると、サーシャが俺の顔を覗き込んだ。

 「仲間が増えたはいいものの、結局どうすればいいのでしょうか」
 「ああ、それなんだが...」

 言われたことで思い出した。ゾンビを浄化した際の魔法陣、あれで砂の上でも発動することが分かった。そのことについて俺は二人に話す。

 「ああ、そういえば」
 「ふーん、じゃあ探知できたら飛んで行こう!」

 口々にそういう二人を見るとやる気は十分なようで、特に心配すべきこともなさそうだ。真剣な顔付きで空に水の円を描くサーシャは腹が決まったか、瞳は生気に満ちていた。直接考えを聞いたわけではない。しかしその様子を見ていると心に蟠っていた何かはひとまず晴れたように感じる。

 それに安堵した俺は今度はウスハの方へ目を向ける。するとウスハは俺とサーシャそれぞれが座れそうなサイズの岩を用意し、自分は小さめの岩に跨っていた。彼女の目は遠くを見据えていて、それは砂漠よりもずっと奥、自分の生まれた世界の外を見てみたいという好奇心からくるものなのだろうか。期待と不安を半々に湛えた顔は、俺の魔物へのイメージを簡単に変えてしまいそうだ。

 「準備ができました」

 サーシャは目を閉じて胸に手を当て、小さく深呼吸する。そうして空気と共に迷いも吐き出したサーシャは完成した魔法陣に杖を向ける。老木から作ったのだろうか。その杖に刻まれた模様は、ある場所で様々な景色を見てきた、そんな歴史を感じさせる。鉤状に曲がっている長い杖の中心には青い菱形の宝石がくるくると回っている。どういう原理で浮いているのかは分からないが、それがサーシャの魔力を受けて光る。それと呼応するように魔法陣も淡く光り出した。

 「う...遠いです。とにかく西に進みましょう」
 「大丈夫、飛べばすぐだよ!」
 「その岩に乗るんだよな、怖くない?」

 俺は小さく文句を言いながら平たい岩の先端を掴み、馬に乗るように跨る。岩なので乗り心地は良いはずがない。サーシャは着ているローブを整えて横向きに座る。なるほど、優雅に箒に乗る魔女スタイル。俺は跨るよりそうやって横に座る方が好きなタイプです。サーシャ、分かってるじゃないか。

 「ん、二人とも乗れたー?じゃ、いっくよーっ」
 
 岩の高度がふわあっと上がっていく。高所恐怖症ではないが怖いものは怖い。めっちゃ怖い。上昇が止まる。うわ高っ!俺は下を向かないことを決めると前を見る。一度見た景色が脳裏に焼きつく。この高度で見渡す砂漠はやはりどこまでも広がっていて、遅まきながらも俺は終わりがないことに実感を持ったのだった。地上に吹く空っ風を上から見下ろす。小さな生物がそれに翻弄されているのが見える。きっと俺もこんな感じだったのだろう。

 そしてサーシャはなんでもない風に辺りを見回している。知ってたけど、俺が一番頼りないな。男としての矜持がそれを許すはずがない。ウスハが遊園地のアトラクションのガイドさながらのテンションで拳を前に突き出したのを見て、俺は岩を握る力を強める。

 「出発、進行〜!」
 「う あ あ あ あ あ あ あ」
 「ははー、すごいスピードですね。...ちょっと水城さん、うるさいです。落としますよ」

 急加速したことによる恐怖に、俺の矜持は容易く打ち砕かれた。落とさないでくれよ、マジで。

[中央寄せ] ✕  ✕  ✕[/中央寄せ]

 「ウスハ、ここで止まってください」
 「おっけー」

 サーシャの指示に従うウスハは少し進んでしまった分の距離を戻ると、俺たちの乗る岩の高度を下げていく。足が着く前に俺はよっと飛び降りる。エレベーターにある程度の時間乗った後のようなふわふわした感じが残る。するとサーシャはしっかり足がついてからゆっくりと地上へ降りた。妖精が不毛の土地に舞い降りたようで、この砂漠にも水が沸いて自然豊かになるんじゃないかとさえ思う。やっぱり可愛いというか綺麗なんだよなぁ、コイツ。

 俺たちが降りたことを確認したウスハは岩をパンと手を叩いて砂に変える。パラパラと落ちていく砂を見ていると、それは砂時計のようにも見えて、タイムリミットなんてないのに俺を急かす。俺は必要ない焦燥感に駆られてキョロキョロと視線を動かすと、一点でそれを止めた。砂の上に他の岩と違って、人による手入れがされていそうな綺麗な岩がある。

 「何だあれ」
 「あ、あれが依代です。多分」
 「ふうん、あれを壊せばいいということか」
 「よしサーシャ、ボクが撃ち抜いちゃうよ?」
 「ええ、お願いします」
 「そういやウスハ、お前は魔力切れたりしないのか?」
 「ないない、魔法生物が魔力切れる時なんてそれは死んだ時だよ」

 言いながら胸の前へ伸ばされた小さな小さな両手の前に、俺たちを襲った砂のドリルを作る。自分よりも大きくなったそれを力を入れるようにして弾き出した。何度も聞いた空を切り裂きながら回る音。あれだけ恐ろしかったものも仲間になると頼もしいものだ。

 「っ‼︎」
 
 ウスハは何かを見て驚きの声を上げる。俺もそれに釣られて振り返ると、そこには小さめの一軒家くらいはありそうなゴーレムが屈んでドリルを受け止めている姿があった。一体どこから現れた?真っ茶色の土塊のブロックが不規則にくっつけられた姿は、何で動けるのん?と俺に疑念を生じさせる。自分の考えで動いているのかは分からないが、頭部についた緑色の目が俺たちを映すと、ドリルを指で軽く粉々にしてから拳と拳をぶつけた。そうして生まれた風圧がサーシャのローブをバタバタバタとはためかせる。気を抜いたらこれだけでも飛ばされそうだ。しっかりと砂を踏み締めた足に熱を感じる。

 「マジやばくね」
 「水城さん、語彙力が死んでいます。死にすぎててやばいです」
 「いや、サーシャも十分やばいよ」

 揃って語彙を失った俺たちは、つまり大きく動揺しているということだった。さっきのゴーレムの威嚇でまだビリビリと空気が震えている。あんな攻撃、掠ってただけでも死ぬのではないのか。助ケテクレーッと逃げ出したい気持ちをぐっと堪える。何しろ勝った時のことが想像できない。

 ウスハの攻撃はきっと強い。人間の顔なんて軽く吹き飛ばせるくらいには。けれどそのドリルさえもいとも容易く潰してしまうあの膂力、頑丈さ。傷をつけられる気がしない。唯一の救いといえば、あの依代を守る為にこちらへ向かうのを躊躇っていることだろう。

 そう油断していたのがいけなかった。俺がどう動こうか考えている間にゴーレムは手近にあった石を掴み、こちらへ投げつけた。

 「水城さんッ‼︎」

 巨体を身軽に動かすゴーレムの投擲はその速さによって、ただの石がまるで大気圏に突入した隕石のように火を纏う。咄嗟にウスハが作った壁はほとんど効果を成さず、貫かれた。そう認識した時には俺の横腹にも小さく穴が空いていた。熱を帯びた石が貫通した傷跡は蒸気を上げる。そのまま勢いを失わない石は地へと着弾し、砂が激しく爆ぜた。

 幸い臓器の損傷は無い。高音で溶けながら飛んだ石が初めより更に小さくなったのが理由だろうか。だからといって痛くない筈がなく、その場で俺は蹲った。せめて声は出すまいと食いしばる歯がギリギリと音を立て、ポタポタと傷口を抑える手から零れ落ちる血が砂に彩りを加える。

 まともな思考も回らないまま、効果が絶大だったことに味を占めたゴーレムは次の石を手に取る。動かない俺はいつでも殺せると踏んだのか、次に的が大きいサーシャへと向き直る。上体を逸らし、大きく振りかぶるゴーレム。

 「そんな...!」
 
 サーシャは何の対策も思いつかないのか視線を激しく動かし、ひどく怯えている。ウスハもずっとドリルを撃ち続けるが、依代を覆うようにしているゴーレムに阻まれる。その防御力たるや最早手で防ぐこともしておらず、ゴーレムにドリルが当たると同時に弾の方が砕け散る。暖簾に腕押しと言った感じであり、ウスハのいつもの笑顔など疾うに消え去っている。ウスハの連撃を気にも留めず、二度目の投擲を行った。しかしその石はサーシャに当たる事はなく、翻るローブを貫いた。

 「へっ、ざまあみやがれ」

 ゴーレムは水を含んで泥と化した地に足を取られ、バランスを崩した。そうして外れた石は遠くの方で爆発する。良かった...。咄嗟にゴーレムの足元に水を流したのが上手くいったようだ。気力は無くても魔力が残っていれば俺だって役に立つことくらいはできる。何せ俺は今、魔法使いなんだからな。

 その隙を好機と捉えたウスハは瞬時にゴーレムの背後に回り込んだ。ウスハは今までのどれよりも大きいドリルを自分の周りを囲むようにずらっと生成する。ゴーレムが立ち上がるよりも前に射出した弾がゴーレム、ではなく依代へと次々に撃ち込まれた。それから急いでこちらへと戻ってきたウスハは心配そうに呟く。

 「壊せたかな...」

 立ち上る砂煙。ゴーレムの姿さえ曖昧に見えて依代がどうだなんてますます分からない。視界が少しずつ晴れる。俺は目を凝らしその奥の景色を確認した。

 「依代が破壊されてるぞ!」
 「やりましたよ、ウスハ!」
 「うん、でも、砂漠もそのままだしゴーレムもまだいるよ...」
 
 そう、依代が破壊されたこと以外には何も変化がない。これはつまり...。サーシャも同じことを考えたようだった。

 「なあサーシャ、これ...」
 「ええ、恐らく無限の砂漠の依代は」

 バランスの戻ったゴーレムは守る物を失ったからか、のそっと起き上がった。その全長は思っていたより数割増しで大きい。サーシャは一度途切れた言葉をはっきりと言った。

 「ゴーレムです」

 やっぱりか。コイツを倒さないと結局は出られない訳だ。光る目で無感情に俺たちを見下ろす様子からは威圧感をひしひしと感じる。その筈なのにサーシャの中に少しだけ、灯りが灯った。

 「しかし、代わりに呪いが解けましたよ」

 彼女に掛けられていた呪いとは、確か気力の回復を大幅に遅らせるものだったよな。つまり出し惜しみをしなくて良くなったということか。心なしかゴーレムが先ほどよりも小さく見えるのは俺の心情によるものなのだろうか。

 さあ、依代破壊作戦を始めるぞ。

[中央寄せ]ー続ー[/中央寄せ]
[水平線]
 〈世界観memo〉
 「[漢字]人工生物[/漢字][ふりがな]チルドレン[/ふりがな]」
 文字通り人間によって造られた生物のことである。基本魔力を纏うものが殆どを占めており、魔物に近い。人工生物は使い魔と違い、完全なる忠実な[漢字]僕[/漢字][ふりがな]しもべ[/ふりがな]として生み出される。
 その用途は戦力の増強、ボディーガード、守りなど多岐に亘る。今回のゴーレムも人工生物の一種である。
 
 〜人工生物の造り方〜
 1.枠組みを作る。
 2.他の魔物からコアを摘出する。
 3.先ほど作った枠組みの中にコアを入れる。
 4.外側を作っていく。
 5.最後にコアに魔力を流すと完成!

 ※魔物は全てコアで動いており、これがほぼ無際限に魔力を生成するため魔力が尽きる事はない。

作者メッセージ

 10話投稿!なみなです。
 10話という話数に何か感慨深さを覚えますが、内容的には別にキリは良くありませんでしたね。次回かその次くらいで砂漠編を終了できると思います。
 そして何となく一話目の初めに目次を作っておきました。使うかどうか、使ったところで意味はあるのか分かりませんが、念の為作りました。
 前回文字数の計算の話で多めに文字を書いたので今回は短めに。
 それではっ

2025/02/06 18:53

なみな ID:≫6tXvJECw1ojHQ
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