放浪の水魔法使い
〜目次〜
〈砂漠編〉 〈新生活編〉
1.砂、砂、砂。 13.城下町ビビエス
2.生の実感 14.目覚め
3.暑き一日 15.冒険者ギルド
4.属性確認 16.採取の前に
5.ウォーテル家の双子 17.発見者
6.不変
7.砂の悪魔
8.討伐完了?
9.妖精さんといっしょ
10.依代破壊作戦
11.一筋の光
12.砂漠の終わり
[水平線]
午前七時。自慢であるかなり正確な体内時計は、俺が高校へ遅れぬように機能した。やはり自分で起きる朝というのは気持ちが良い。目を開けると、元気な太陽が燦燦と、まるで夜の間に溜めていたエネルギーを発散するかのように俺を照らしていた。それにしても本当に気持ちの良い朝だ。
「ん...太陽?」
その瞬間、とてつもない違和感が俺を襲った。細かな粒が背を撫でる。ベッドではおよそ味わう事のないその感触に俺は驚いて飛び起きた。そうして起き上がった俺の眼前にはテレビでしか見たことのない景色、砂漠が広がっていた。辺り一面砂、砂、砂。ポカンと間抜けにも口を大きく開けた俺はさぞ滑稽に見えただろう。しかし皆も一度起きたら一人で砂漠にいた、なんて状況を体験すれば俺の気持ちも分かるかもしれない。
しかし、どうしてこんなところにいるのだろう。昨夜はいつもと何も変わらなかった。明日の高校の準備をして、スマホをポチポチと弄り、ベッドへ入る。何もおかしくないのが寧ろ奇妙だと思えるぐらいだ。やはり何度思い返せど、それらしき予兆が見つかることは無かった。
それにしてもこれが夏でよかった。冬の朝にこうなっていたら、あまりの暑さですぐにバテるのではないだろうか。しかし半袖半パンという服装とはいえど、暑いものは暑い。先ほど俺が気持ち良いなどと評した太陽は、既に俺の生命維持活動を妨げ始めていた。これは夢じゃないのだろうか。夢でないのならこの気温、死ぬこと請け合いだ。頬をつねってみる。痛い。しかし、果たしてこの行為は夢か否かを確認する方法として有効なのだろうかと疑問に思っていた俺にとっては、無意味という他なかった。やはり何もしなくても死にそうだし、どうせ死ぬならとにかく歩こう。運が良ければ何かあるかもしれない。しかしこの暑さだ。今日を生き延びられたら幸運だろう。
砂漠、俺の知る砂漠と言えばサハラ砂漠だ。しかし俺は寝ている人間をそんなところに転送する技術など全く知らない。そうなると異世界転移、だろうか。一体誰が何のために?分からないことが多すぎる。これがもし神の仕業だとするのならば、一つだけ世界に言いたいことがある。神はクソだ、と。
そうして俺はどこを目指せばいいのかも分からぬまま、この広大な砂漠を練り歩くこととした。
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それから何時間歩いただろう。ようやく太陽が水平線に重なる。体中を滴り落ちる汗が、どんどんと水分を失っている事を物語っている。そろそろ限界だろうか。体が鉛のように重たく感じる。砂を踏みしめる音が次第に大きくなっていく。一歩一歩にかける体重が変わったのだろう。辛い。何故俺がこんな目に。体は心情とリンクするように衰弱していく。
脚が幼いころに見た祖父のように震える。目に映る景色は、都会だったらさもエモーショナルになると言った風に霞む。脳も色々考えられるほどの余裕がなくなる。そして、一気にうつ伏せに倒れ込んだ。それは、ここに来て二度目の感触だった。しかし日中に陽の光を存分に浴びた砂は、倒れ込んだ俺の皮膚を止めを刺すかのように焼いた。
それでも。それでも俺は完全に枯渇していたはずの力を無理に絞り、無様に這って進む。火事場の馬鹿力、だろうか。右腕を前に出し、進めば左腕を。それを何分間、いや実際にはまだ一分も経っていないかもしれない。今や自慢の体内時計は何の役割もはたしていない。しかしそんな事はどうでもよかった。這って這って這い続けた先で伸ばした右腕が何か柔らかい物にぶつかった。ようやく真っ暗な世界に一筋の光が差した気がした。
俺は何にぶつかったのかを確認するべく、顔を上に向ける。そして焦点の合わない目のピントを必死に合わせる。そこで俺が見たものは―――
サンドワームだった。
もう何も怖い物は無かった、筈だった。とっくに死ぬ覚悟はできている、そう思っていた。しかし数十メートル先まで伸びるその巨体に、こちらに気づいて遠くから俺の方へ向くその大きな口に、否応なく凄惨な死を連想させるそれらに、俺はどうしようもなく恐怖した。
魔物は遠目にも分かるほどのサイズの口から涎を垂らし、その体躯に似合わぬ俊敏さで向こうからやって来た。近づいて分かって来る口の内部。何重にも生える歯は捕らえた獲物を逃がすことなくすり潰していくのだろう。俺の悲惨な未来は確定していた。きっとコイツは俺を食っても他の食糧を探して彷徨うのだろう。この魔物にとっての俺は、人間でいえば箸で掴んだ少量の米程度になるかどうか。
こんなに怖いのに涙も出ない。それはすごい勢いで砂煙をあげて蛇のように這い寄って来る。俺はこの理不尽を超えた理不尽を嘆いた。
「なんでッ!なんで俺がこんな目に...」
サンドワームは俺が言い終わるのを待つことすらせず襲い掛かって来た。その鋭い歯が[漢字]俺[/漢字][ふりがな]エサ[/ふりがな]に届くまであと数センチ。
「貫け」
女性の声と同時に左へ吹っ飛んだサンドワームを見届けたところで、俺の意識はプツリと途絶えた。
[中央寄せ]✕ ✕ ✕[/中央寄せ]
俺は死んだのだろうか。知らない誰かのお陰で、あのクソみたいな魔物に食われて死ぬことは無かったようだ。ならば単に水分不足で死亡、か。
走馬灯のように頭を過ぎっていく記憶が、俺に家族のことを想起させる。妹は高校の受験勉強を頑張るだろうか。俺も出来る限り手伝うなんて言ったのに、その約束は守れそうにない。ごめんな。高校生活はちゃんと終えたかったな。これからの景色を想像する。でも、その中には俺の姿だけが無くて。死んだはずなのに頬を涙が伝う感覚がした。
「...起きて下さい!」
声が聞こえる。
「...大丈夫ですか!」
少女の声。この声の主が俺を魔物から救ってくれたのだろうか。
「目を覚まして、下さい!」
ぱっと目が開いた。しかし月の眩しさに一度開いた瞼がまた閉じてしまう。そしてもう一度空を見て確信した。ここは地球ではない。月が。月が俺の知る物より一回り、二回り、それ以上に大きい。今この景色を撮れるものを持っていたらな。そう思うほどの美しさである。そしてその大きさは、双眼鏡で見ても表面が良く分かるのではなかろうか。
月に目を奪われている所を見て、俺と同じくらいの少女がほっと息をつく。そちらに目を向けたところ、月の次は少女の容姿に見惚れた。青くサラサラの髪に、吸い込まれるほど綺麗な金眼。...学校にこんな娘がいたら間違いなく一目惚れしていただろう。しかし、死にかけたこの状況でそんな呑気な感情が生まれることはなかった。
「良かった...。本当に良かったです。生きていてくれて。私のとっておきが無駄にならないで...!」
は?とっておき?何を言っているんだ?そう疑問に思ったのも束の間、少女は丁寧に正座するとニコッと微笑んだ。
「私はサーシャ・ウォーテルと申します。サーシャとお呼び下さい。あなたは?」
「あ、ああ。水城 海だ。好きに呼んでいい」
「分かりました!ではこれからよろしくお願いしますね!」
こうして俺とサーシャは出会い、共に時を過ごす事と相成った。
[中央寄せ]ー続ー[/中央寄せ]
[水平線]
〈世界観memo〉
「魔法」
この世界には魔法が存在する。基本の「火」、「地」、「風」、「生」の四属性に加えて、世界に二人しか存在しない「水」、勇者のみが扱う「光」、魔族のみが扱う「闇」の計七属性存在する。それぞれの魔法使いは順に「[漢字]火魔法使い[/漢字][ふりがな]イグニス[/ふりがな]」、「[漢字]地魔法使い[/漢字][ふりがな]テラ[/ふりがな]」、「[漢字]風魔法使い[/漢字][ふりがな]ウェントス[/ふりがな]」、「[漢字]生魔法使い[/漢字][ふりがな]アニマ[/ふりがな]」、「[漢字]水魔法使い[/漢字][ふりがな]アクア[/ふりがな]」と呼ぶ。光と闇は、勇者と魔族しか使わないので別称はない。ちなみに生魔法とは主に植物などの生命を操る魔法である。
「魔術」
魔法技術の略。魔法と違い、無属性のものがある。例えば大昔の偉大な魔術師は、翻訳魔術を施した結界を張る事により世界中の人々の意思疎通を可能にしたという。小さい物から大きい物まで種類に富んでいる。
〈砂漠編〉 〈新生活編〉
1.砂、砂、砂。 13.城下町ビビエス
2.生の実感 14.目覚め
3.暑き一日 15.冒険者ギルド
4.属性確認 16.採取の前に
5.ウォーテル家の双子 17.発見者
6.不変
7.砂の悪魔
8.討伐完了?
9.妖精さんといっしょ
10.依代破壊作戦
11.一筋の光
12.砂漠の終わり
[水平線]
午前七時。自慢であるかなり正確な体内時計は、俺が高校へ遅れぬように機能した。やはり自分で起きる朝というのは気持ちが良い。目を開けると、元気な太陽が燦燦と、まるで夜の間に溜めていたエネルギーを発散するかのように俺を照らしていた。それにしても本当に気持ちの良い朝だ。
「ん...太陽?」
その瞬間、とてつもない違和感が俺を襲った。細かな粒が背を撫でる。ベッドではおよそ味わう事のないその感触に俺は驚いて飛び起きた。そうして起き上がった俺の眼前にはテレビでしか見たことのない景色、砂漠が広がっていた。辺り一面砂、砂、砂。ポカンと間抜けにも口を大きく開けた俺はさぞ滑稽に見えただろう。しかし皆も一度起きたら一人で砂漠にいた、なんて状況を体験すれば俺の気持ちも分かるかもしれない。
しかし、どうしてこんなところにいるのだろう。昨夜はいつもと何も変わらなかった。明日の高校の準備をして、スマホをポチポチと弄り、ベッドへ入る。何もおかしくないのが寧ろ奇妙だと思えるぐらいだ。やはり何度思い返せど、それらしき予兆が見つかることは無かった。
それにしてもこれが夏でよかった。冬の朝にこうなっていたら、あまりの暑さですぐにバテるのではないだろうか。しかし半袖半パンという服装とはいえど、暑いものは暑い。先ほど俺が気持ち良いなどと評した太陽は、既に俺の生命維持活動を妨げ始めていた。これは夢じゃないのだろうか。夢でないのならこの気温、死ぬこと請け合いだ。頬をつねってみる。痛い。しかし、果たしてこの行為は夢か否かを確認する方法として有効なのだろうかと疑問に思っていた俺にとっては、無意味という他なかった。やはり何もしなくても死にそうだし、どうせ死ぬならとにかく歩こう。運が良ければ何かあるかもしれない。しかしこの暑さだ。今日を生き延びられたら幸運だろう。
砂漠、俺の知る砂漠と言えばサハラ砂漠だ。しかし俺は寝ている人間をそんなところに転送する技術など全く知らない。そうなると異世界転移、だろうか。一体誰が何のために?分からないことが多すぎる。これがもし神の仕業だとするのならば、一つだけ世界に言いたいことがある。神はクソだ、と。
そうして俺はどこを目指せばいいのかも分からぬまま、この広大な砂漠を練り歩くこととした。
[中央寄せ]✕ ✕ ✕[/中央寄せ]
それから何時間歩いただろう。ようやく太陽が水平線に重なる。体中を滴り落ちる汗が、どんどんと水分を失っている事を物語っている。そろそろ限界だろうか。体が鉛のように重たく感じる。砂を踏みしめる音が次第に大きくなっていく。一歩一歩にかける体重が変わったのだろう。辛い。何故俺がこんな目に。体は心情とリンクするように衰弱していく。
脚が幼いころに見た祖父のように震える。目に映る景色は、都会だったらさもエモーショナルになると言った風に霞む。脳も色々考えられるほどの余裕がなくなる。そして、一気にうつ伏せに倒れ込んだ。それは、ここに来て二度目の感触だった。しかし日中に陽の光を存分に浴びた砂は、倒れ込んだ俺の皮膚を止めを刺すかのように焼いた。
それでも。それでも俺は完全に枯渇していたはずの力を無理に絞り、無様に這って進む。火事場の馬鹿力、だろうか。右腕を前に出し、進めば左腕を。それを何分間、いや実際にはまだ一分も経っていないかもしれない。今や自慢の体内時計は何の役割もはたしていない。しかしそんな事はどうでもよかった。這って這って這い続けた先で伸ばした右腕が何か柔らかい物にぶつかった。ようやく真っ暗な世界に一筋の光が差した気がした。
俺は何にぶつかったのかを確認するべく、顔を上に向ける。そして焦点の合わない目のピントを必死に合わせる。そこで俺が見たものは―――
サンドワームだった。
もう何も怖い物は無かった、筈だった。とっくに死ぬ覚悟はできている、そう思っていた。しかし数十メートル先まで伸びるその巨体に、こちらに気づいて遠くから俺の方へ向くその大きな口に、否応なく凄惨な死を連想させるそれらに、俺はどうしようもなく恐怖した。
魔物は遠目にも分かるほどのサイズの口から涎を垂らし、その体躯に似合わぬ俊敏さで向こうからやって来た。近づいて分かって来る口の内部。何重にも生える歯は捕らえた獲物を逃がすことなくすり潰していくのだろう。俺の悲惨な未来は確定していた。きっとコイツは俺を食っても他の食糧を探して彷徨うのだろう。この魔物にとっての俺は、人間でいえば箸で掴んだ少量の米程度になるかどうか。
こんなに怖いのに涙も出ない。それはすごい勢いで砂煙をあげて蛇のように這い寄って来る。俺はこの理不尽を超えた理不尽を嘆いた。
「なんでッ!なんで俺がこんな目に...」
サンドワームは俺が言い終わるのを待つことすらせず襲い掛かって来た。その鋭い歯が[漢字]俺[/漢字][ふりがな]エサ[/ふりがな]に届くまであと数センチ。
「貫け」
女性の声と同時に左へ吹っ飛んだサンドワームを見届けたところで、俺の意識はプツリと途絶えた。
[中央寄せ]✕ ✕ ✕[/中央寄せ]
俺は死んだのだろうか。知らない誰かのお陰で、あのクソみたいな魔物に食われて死ぬことは無かったようだ。ならば単に水分不足で死亡、か。
走馬灯のように頭を過ぎっていく記憶が、俺に家族のことを想起させる。妹は高校の受験勉強を頑張るだろうか。俺も出来る限り手伝うなんて言ったのに、その約束は守れそうにない。ごめんな。高校生活はちゃんと終えたかったな。これからの景色を想像する。でも、その中には俺の姿だけが無くて。死んだはずなのに頬を涙が伝う感覚がした。
「...起きて下さい!」
声が聞こえる。
「...大丈夫ですか!」
少女の声。この声の主が俺を魔物から救ってくれたのだろうか。
「目を覚まして、下さい!」
ぱっと目が開いた。しかし月の眩しさに一度開いた瞼がまた閉じてしまう。そしてもう一度空を見て確信した。ここは地球ではない。月が。月が俺の知る物より一回り、二回り、それ以上に大きい。今この景色を撮れるものを持っていたらな。そう思うほどの美しさである。そしてその大きさは、双眼鏡で見ても表面が良く分かるのではなかろうか。
月に目を奪われている所を見て、俺と同じくらいの少女がほっと息をつく。そちらに目を向けたところ、月の次は少女の容姿に見惚れた。青くサラサラの髪に、吸い込まれるほど綺麗な金眼。...学校にこんな娘がいたら間違いなく一目惚れしていただろう。しかし、死にかけたこの状況でそんな呑気な感情が生まれることはなかった。
「良かった...。本当に良かったです。生きていてくれて。私のとっておきが無駄にならないで...!」
は?とっておき?何を言っているんだ?そう疑問に思ったのも束の間、少女は丁寧に正座するとニコッと微笑んだ。
「私はサーシャ・ウォーテルと申します。サーシャとお呼び下さい。あなたは?」
「あ、ああ。水城 海だ。好きに呼んでいい」
「分かりました!ではこれからよろしくお願いしますね!」
こうして俺とサーシャは出会い、共に時を過ごす事と相成った。
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〈世界観memo〉
「魔法」
この世界には魔法が存在する。基本の「火」、「地」、「風」、「生」の四属性に加えて、世界に二人しか存在しない「水」、勇者のみが扱う「光」、魔族のみが扱う「闇」の計七属性存在する。それぞれの魔法使いは順に「[漢字]火魔法使い[/漢字][ふりがな]イグニス[/ふりがな]」、「[漢字]地魔法使い[/漢字][ふりがな]テラ[/ふりがな]」、「[漢字]風魔法使い[/漢字][ふりがな]ウェントス[/ふりがな]」、「[漢字]生魔法使い[/漢字][ふりがな]アニマ[/ふりがな]」、「[漢字]水魔法使い[/漢字][ふりがな]アクア[/ふりがな]」と呼ぶ。光と闇は、勇者と魔族しか使わないので別称はない。ちなみに生魔法とは主に植物などの生命を操る魔法である。
「魔術」
魔法技術の略。魔法と違い、無属性のものがある。例えば大昔の偉大な魔術師は、翻訳魔術を施した結界を張る事により世界中の人々の意思疎通を可能にしたという。小さい物から大きい物まで種類に富んでいる。