嘘つきたちの輪舞曲【Lier's world】
重い瞼が、ゆっくりと幕を上げる。
目が、覚める。
「............」
繰り返されるアナウンス、電車の緩やかに減速する、機械の生命が尽きる瞬間のような機械音、
いつの間にか寂れた赤色をした電車に揺られる私たち。
乗客は、私たち2人以外には誰もいない。
寂れた電車と寂れた駅と私の隣、彼も次第に身体を起こす。
佐々木「.........レモンさん.........」
レモン「.........分かってる」
レモン「分かってはいたけど、やっぱりこうして見ると怖いって感情はあるよ」
佐々木「.........行くん、ですか......?」
レモン「.........ここまで来て食い下がるような根性なしがいるなら、見たいくらいですけどね」
レモン「ほら、着いてくる勇気のあるくらいなんですから。佐々木も行くんすよ。」
レモン「可愛らしい寝ぼけ顔したって無駄ですからね」
佐々木「.........えっ今なんて」
レモン「はい立って、!」
佐々木「あっはい!?」
寝ても電車に乗った後のふわふわする感覚は消えないんだなと、変なことを考えながら電車に降りて、カメラを取り出した。
正直、ただ気を紛らわすためだけの考え事だったかもしれない。
[水平線]
〜 佐々木side 〜
『 戻界駅 』
ご丁寧にそう書かれた駅名標が私たちを出迎える。
巡ってきた前の駅も、次の駅の行き先も書かれていない、そんな駅名標。
「 .........あなたも、 」
人、......?
聞こえた声に振り返る。
[太字]「 .........あなたも、あなた達も、迷い込んで来たんですか 」[/太字]
寂れたこの駅によく似合う。
そんな言葉が最初に浮かぶ。
そんな、不確かな疲れ切ったような灰色の髪色をした青年がそこにいた。
レモン「.........あなた、が。あなたが、うちらの[太字]『案内人役』[/太字]って事でいいんすね?」
「.........はい。多分、そうです」
「俺も、ついさっきに『問い』を解いたばかりですから。きっと、そうなんでしょう」
[小文字]「.........というか、複数人来る事とかもあるんだ」[/小文字]
[小文字]レモン「............まぁ、君も君で『悩んでた』って事すかね、」[/小文字]
佐々木「............」
彼女はただ、手元のメモ帳に目線を落とすばかり。
気づけば振り返った先、赤く寂れた電車はそこから消えていた。
案内人役「あ、伝言板はこっちです。.........行きますか?」
佐々木「.........どう......します?」
レモン「.........行く以外の選択肢はないと思うんすけどね」
レモン「行かないで困るのはうちらの方っすよ」
佐々木「.........それもそうですね。行きましょうか。」
ふと時間を気にして駅の時計を見る。
時刻は六時五十九分、ただ集合したのは昼前。
そんなに時間が過ぎてたのかとスマホを見るが、時刻はまだ3時半である。
その時で初めて、『あぁ、この時計は止まっているんだ』と理解した。
それが午前なのか午後なのかは、知る由もない。
[水平線]
レモン「.........ところで、君はどんな問題出されたんすか?」
案内人役「俺ですか?」
レモン「君しかいないっすよ。」
案内人役「......結構、[漢字]曖昧[/漢字][ふりがな]アバウト[/ふりがな]な感じでした。」
案内人役「『一番嫌いなものはなんですか』って、俺は伝言板に聞かれました」
佐々木「私たちが思っていたより、問題の範囲は広いみたいですね」
案内人役「.........正直、最初ここに来た時は嘘だとしか思えなかったです」
案内人役「ただ、頬をつねっても痛いものは痛かったです」
[小文字]佐々木「.........間違いなく、『ここ』は嘘ではない.........」[/小文字]
その証明のための一証言。
案内人役「.........あと、一つ。」
レモン「、? どうしたんすか?」
案内人役「.........確かにクイズには "問題" が出されますけど、こっちの場合は [太字]"問い" に限りなく近い[/太字]です。」
案内人役「そしてその答えが、[太字]自分の奥底にある深層心理。自分でも気づきたくない想いを掘り返す事になるかもしれない[/太字]、と言う事だけ。」
[小文字]レモン「自分でも、気づきたくない想い...........」[/小文字]
案内人役「......俺も実際、自分の問題の答えは最後まで気付けませんでしたから」
佐々木「............ちょっと、......覚悟する必要はありそうですね」
自分でも顔が険しくなるのを感じる。
案内人役「あ、着きましたよ。ここが『伝言板』、そしてあなた達の"問題"の居場所です。」
昭和にはあったであろう、そんな伝言板。
学校よりは一回り小さめな黒板が壁にあり、
[太字]そこには私たちの " 問い " が待っている。[/太字]
[太字]______『 貴方にとって、一番辛い事とはなんですか? 』[/太字]