嘘つきたちの輪舞曲【Lier's world】
能力。
人間は、脳をまだ1割しか扱えていないなどと言われているものと同義だ。
能力もまた、私たちが普段から使うであろうもので全てではない。
[太字]その『先』が存在する。[/太字]
端的に言ってしまえば、本当にそれだけの事だ。
能力の開花、[太字]『 [漢字]魂想開鎖[/漢字][ふりがな]こんそうかいさ[/ふりがな] 』[/太字]。
[太字]それは『事変』と呼ばれた脅威と紙一重であった。[/太字]
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事変。
負の感情や情緒の不安定性、縮めて『憎悪エネルギー』と呼ばれるものの影響による一般的な能力の暴走の名称である。
[太字]『魂想開鎖』なるものは、端的に言えばその事変から『憎悪エネルギー』なるものを取り除いた状態のようなものだ。[/太字]
[太字]ある意味、一種の能力の暴走状態と言ってもいいのかもしれない。[/太字]
ただ一つ挙げるとすれば、憎悪エネルギーから来る理性の崩壊がないのは大きな相違点だと言えるだろう。
だがしかし、その『能力の覚醒に至るまで』の過程は事変の起こるシステムと変わりない。
[太字]『魂想開鎖』と『事変』の違いは、『どこまで受け入れられるか』。[/太字]
自身の持つ、少し踏み外せば『憎悪エネルギー』になってしまう。
[太字]そんな水飴のよう重たく冷たくどろついた闇を、どこまで受け入れられるか。[/太字]
[太字]そして、どこまで呪縛の鎖を解き放てるのか。[/太字]
[太字]誰もが一つは奥の内に秘めた感情を、鎖から放した時、双極化する二つの意味のどちらかで『化ける』事となるのだ。[/太字]
私はこれを自分の中で[太字]『感情の卵』[/太字]と呼ぶことにしている。
感情の卵は誰にだって存在していて、それに飲まれれば誰だって事変を起こす。
裏返せば、誰もが魂想開鎖を引き起こす可能性を持っているという事。
魂想開鎖は、一歩間違えてしまえば事変にも成り代わってしまう。
[太字]ここで最初に戻っていくが、それは脅威と紙一重、背中合わせと言ったリスクの中で作られる奇跡なのだ。[/太字]
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夏祭「はぁ〜〜〜、やぁっと読み終えたわぁ〜........」
風に飛ばされたページ分もおそらく含めて、ほとんど本を読み終えた。
何かところどころ「あれ、ここ読んだような........」みたいな記憶を感じ取りながらも全部読んだ。
忘れんうちに伝えとかなとは思うが、流石に身体中バキバキやな。
夏祭「あ゛ぁ.........首痛いなぁ.......」
世界が少しずつ、仄めかす程度秋らしさを持ち寄っているが、夏の明るさにはかき消されてしまう。
夏祭「あぁそうや、外出よかな.........」
そう言えば出すもんがあったっけな。
[太字]昔に誰かがくれた、オウム返しで喋ってくれる犬のぬいぐるみ。[/太字]
ぬいぐるみっつっても詰まってんのは録音機がほとんどで、[太字]綿の柔らかさは欠片もないんやけどな。[/太字]
んで小学校高学年なってからは触れることもなくなったんやけど、掃除してたら出てきてな。
久々にドライバーで電池入れるとこの中身開けたら、そりゃぁもう大変な事になってたもんで。
[太字]何でかって、電池があの頃からそのまま入ってたんよ。[/太字]
一本は錆びついてて使いもんになっとらんくて、それを見るに溢れちゃダメなもんが溢れ出てたみたいで。
[太字]形容しがたいけど、どうにもメルトダウンみたいやった。[/太字]
でもそうなったらゴミに出さなきゃならん。
[太字]寂しいけれど、そういうもんやから。[/太字]
そうやって人間もいつか、いらなくなった記憶をゴミに出して、燃やして消して、
[太字]最後は空っぽの体ごとゴミに出されて燃えていく。[/太字]
喜びも悲しみも、恨みも怒りも。
[太字]果てには望みも。[/太字]
全てがいずれ泡沫となって消えゆくのに、どうにもそれが欲しいと駄々をこねるよう自分の喉から腕が伸びていく。
...........あの[漢字]水晶の子[/漢字][ふりがな]八尋 翠[/ふりがな]も、[漢字]レタスの弟[/漢字][ふりがな]柊翔[/ふりがな]くんも、
[小文字]夏祭「[太字]どーしてそんな望みなんてもん見つけられんねん......。[/太字]」[/小文字]
[太字]ウチにそんなもんはない。[/太字]
結局最後は燃えるゴミに出されて灰になってまうとしても、その想いを大事に生きていきたい。
でも、抱えるべき想いも、何を望むべきかも、覚えていない。
[太字]あぁ、ことごとく空っぽだ。[/太字]
抜かれて転がる、錆びた電池と[漢字]些[/漢字][ふりがな]いささ[/ふりがな]か膨れた電池。
元はそれが入っていた固いぬいぐるみの黒いプラスチックが、ただ自分を映していた。