嘘つきたちの輪舞曲【Lier's world】
『 [漢字]縁火病院[/漢字][ふりがな]えにしびびょういん[/ふりがな] 』
107号室の扉を横に開ける。
今日も静かに、柔らかな笑顔で、その人は眠っている。
顔を覆い尽くすほどに焦げついた、赤い、赤い、仮面。
ザラリと、感触の悪い仮面。
『 あら、こんにちは。いらしていたんですね。 』
声の宿る方を見ると、いつも容体を見てくれている看護師さんが優しい笑顔でこちらに微笑んでいた。
「...........あぁ、こんにちは。..........母さんは、元気でしょうか」
『 えぇ、容体に変化は見られません。 』
『 お母様、それに、お父様と弟様も。 』
抑揚のない、それでも優しいとどこかで考えるような声。
もう何回も聞いた。
『 [太字]______早くお目覚めになられるといいですね。[/太字] 』
...........あぁ、何だ?
それは皮肉か?
早く目が覚めろと? [太字]そんなの応じないね。[/太字]
「.............そうですね。」
結局それが正しいかも分からぬまま、私はロケットペンダントを抱えた。
カラスが飛んでいる。
「 私はやめないからな 」
「______神に逆らうことを」
飛んでいたカラスは夕焼けの黒い電線に止まり、煽り、笑い、囃し立てるように、カァカァと鳴き声を上げた。
[水平線]
柊翔「...........。」
笹淵「あ、柊翔さん。こっちです。」
公園のベンチに控えめに座る彼は手招きをする。
柊翔「えーっと、笹淵さんで合ってましたっけ。」
笹淵「はい。改めて、俺は笹淵 界斗です。」
柊翔「あ、下の名前界斗って言うんだ..........[太字]いい名前。[/太字]」
柊翔「それで..........僕に何の用?」
笹淵「...........単刀直入に聞きます。」
柊翔「...........?」
笹淵「[太字]______柊翔さんは、どうして神を殺すなんて誓ったんですか[/太字]」
柊翔「え?」
笹淵「あなたは[太字]『何になるべきかわからない』[/太字]と言ったはずです。」
笹淵「ならば尚更、それが神を殺す道理とは考えられない。」
笹淵「..............言ってください。」
笹淵「[太字]あなたはどうして、罪に手を染めた...........?[/太字]」
柊翔「.............。」
柊翔「[太字]............ただの復讐だよ。[/太字]僕をこんな事にした神様への、ね。」
笹淵「...............」
柊翔「............って言っても、笹淵さんには分かんないでしょ。」
柊翔「[太字]僕の想いが、記憶が、痛みが、君なんかに。[/太字]」
笹淵「.............。」
[小文字]笹淵「[太字]..............俺は分かるのに、どうして俺だけ[/太字]」[/小文字]
柊翔「、何か言った?」
笹淵「.............いや、何でもないです」
風が吹く。
マゼンタの札の耳飾りが揺れる。
電線から、優雅にカラスが見つめていた。