嘘つきたちの輪舞曲【Lier's world】
僕の瞳に映るのは、ただ一つ。
............お兄ちゃんの、暖かくて綺麗な瞳。
たった、それだけ。
柊翔「 ........、........ 」
ふと映る景色が変わって、僕はただ呆然とアスファルトを見つめる。
数秒経ってから、兄の顔が横にズレた事に、
同時に、抱きしめられている事に今更自覚した。
お兄ちゃんはただ、あやすように僕の背中を[漢字]擦[/漢字][ふりがな]さす[/ふりがな]る。
そして、こう言った。
[太字]あの時と変わらない、優しい声色で。
途端に記憶が蘇る。[/太字]
捨て飯「 .............[太字]『 痛いの痛いの飛んでいけ 』[/太字] 」
捨て飯「 [太字]______痛くなくなる魔法だよ。[/太字] 」
あぁ、そうだ。
[太字]転んで帰って来る度、兄さんはそう言ってくれたんだった。[/太字]
[水平線]
柊翔「ただいま...........」
その日もカンカン照りの夏の日で。
帰ってきた時、人の声はほとんどしなかった。
柊翔「.............お父さん? お母さん?」
呼びかけても、二人は返事をしてくれなかった。
蓮翔『 あ、おかえり柊翔。 』
蓮翔『 えっと、..........お父さんとお母さんは、確か買い物に行っちゃったよ。 』
代わりで全部応えてくれたのが、眠たそうな目をしたお兄ちゃんだった。
でもやっぱりお母さんが良かったかもしれないなんて、馬鹿な事を少しあの時考えた。
柊翔「..........そっか」
柊翔「あのね、転んでひざ擦りむいちゃったから.........それでいたくて帰ってきたんだけど..........」
うつむいた先で赤い傷がよく見える。
ほんの少し黒く、血が滴っていた。
それを見るなり、
蓮翔『 !? 』
蓮翔『 だ、大丈夫.........じゃないよね!?今なおすから........! 』
って、お兄ちゃんは慌てた。
お母さんはいつも消毒液を塗って、その後絆創膏を僕に貼ってくれてた。
たまーに、毎週テレビでやってるヒーロー戦隊の絆創膏を貼ってくれる。
[太字]______でもそれが、お兄ちゃんにできるとは考えてなくて。[/太字]
だって、救急箱が高いとこにあるから、お兄ちゃんじゃ取れないんだもん。
[太字]だから聞いてみたの。[/太字]
柊翔「..........? [太字]なにするの........?[/太字]」
そしたらお兄ちゃんは、
蓮翔『 [太字]...........まほう。柊翔に、まほうかけるの[/太字] 』
[太字]って、変なことを言ったんだよね。[/太字]
柊翔「...........お兄ちゃん、まほう使えるの?」
当時の僕は『能力』なんて無知だったものだ。知らなくて当然。
[太字]そりゃ、お兄ちゃんが魔法を使えるなんてわけないって、思ってた。[/太字]
蓮翔『 うん。.........どっちかと言うと、[太字]〝 おまじない 〟[/太字]かもしれないけどね。 』
蓮翔『 [太字]ほら、いくよ?[/太字] 』
蓮翔『 [太字]______いたいのいたいの、飛んでけ![/太字] 』
[太字]幻覚だったかもしれない。
いや、現実だったかな。
..........それとも、どっちでもいいのかな。[/太字]
鮮やかな光が、僕の足とお兄ちゃんの手を、それぞれ少しずつ包んで。
それは微熱みたいな暖かさで、冷房みたいに素敵な冷たさで。
[太字]光がお兄ちゃんの手を離した時、僕の赤くなっていた膝は綺麗になってたんだ。[/太字]
柊翔「わぁ.........!!」
蓮翔『 ね、言ったでしょ? [太字]痛くなくなるおまじない![/太字] 』
柊翔「お兄ちゃんすごい..........![太字]ねぇもう一回!もう一回やって!![/太字]」
蓮翔『 え、もう一回!? え〜、そうだなぁ......... 』
蓮翔『 [太字]______じゃあ、柊翔がまたお外で転んだらね?[/太字] 』
柊翔「...........! [太字]うん、分かった!![/太字]」
[水平線]
柊翔「............おにい、ちゃ、........っ」
捨て飯「............柊翔、もういいよ」
痛いの痛いの飛んでいけ。
昔に使ったおまじない。
[太字]______別に、その痛みを全部私に飛ばして、とか、私が痛いのを請け負うから、とか、そういうのを言いたいんじゃない。[/太字]
...........とっても、無責任だけれど。
[太字]痛いなら、知らない[漢字]誰[/漢字][ふりがな]どこ[/ふりがな]かに飛ばしてしまえばいいんだ。[/太字]
柊翔「...........やっぱり、お兄ちゃんの魔法はすごいね」
捨て飯「[太字]...........どっちかと言えば〝 おまじない 〟でしょ、バカ。[/太字]」
柊翔「.........そっか」
捨て飯「[太字]..........ねぇ柊翔、お兄ちゃんにちょっとは頼ってよ。[/太字]」
柊翔「..........え?」
捨て飯「私ね、柊翔からの『期待』、欲しいの。」
捨て飯「[太字]今度はちゃんとした形で『期待』、されたいからさ。[/太字]」
捨て飯「だから、分かんなかったらお兄ちゃんに聞いて?」
柊翔「............。うん.......。」
[太字]私の肩に顔を埋めて涙を流す柊翔の笑顔は、幸せそうだった。[/太字]
『 [太字]______おい捨て飯ー、俺らの事置いてくんじゃねーぞー[/太字] 』
捨て飯「へ? あ、すいません..........」
夕凪「ったく........すぐ謝る癖あんのは良くねーから直せっての........」
捨て飯「あ、ごめんなさい.........善処します..........」
夕凪「...........そーゆーとこ」
捨て飯「..........うぐ((」
[太字]............兄弟喧嘩はもうおしまい。[/太字]
朝露「捨て飯、..........何かすごかったな」
レモン「確かに。すごかったけど、あれ結局何だったんでしょうね?」
レモン「捨て飯さん教えてくれます? てか分かります?」
捨て飯「え.........いや、それがその、[太字]自分でも分かんなくて.........[/太字]」
[太字]きっとこれからも喧嘩は...........まぁ、しないはず。[/太字]
捨て飯「[太字]............てかレモンさん、まだ子どもの姿のままなんですね[/太字]」
レモン「あ〜これ? 何か、思ってたより効果時間長いっぽいんだよね〜.........[小文字]あはは[/小文字]」
[小文字]レモン「てか、.......聞かれても『わかんない』、か[/小文字]
捨て飯「あ、そうなんですか..........お気の毒様.........」
レモン「あ? なんすか、馬鹿にしてます?」
捨て飯「違います違います!!ちょちょちょっと待ってやめて!? 人体解剖シナイデ!?」
朝露「www」
[太字]でもまだ、終わりきったわけじゃない。[/太字]
笹淵「..............。」
[小文字]笹淵「[太字].............前進、してるのか[/太字]」[/小文字]
朱肉「..........笹淵さん、でしたっけ。」
笹淵「えっ、!? あ、あぁ、うん.........君は、........確か朱肉さんだっけ。」
朱肉「...........そうです」
朱肉「さっきから何か難しい顔してますけど、どうしたんですか?」
笹淵「え、? あぁ、いや____ 」
笹淵「[太字]............ちょっと昔の事、思い出しちゃっただけだから。[/太字]」
朱肉「...........。」
[太字]まだこれは、演奏プログラムの半分に過ぎないのだから。[/太字]