嘘つきたちの輪舞曲【Lier's world】
捨て飯「..........。」
何が起こっているかなど自分でも理解することは難しい。
[太字]ただ私はあの時、勝手に体が動いたようなものだった。[/太字]
そしてその魔法は、今も続く。
[太字]魔法は本能に語りかけるようで、どこか理性に語りかけるようで。[/太字]
足元がゆっくりと稼働していって、[漢字]徐[/漢字][ふりがな]おもむ[/ふりがな]ろに速さを帯びて、私が動く。
走ること自体好きじゃないのに、足は[漢字]加熱された地面[/漢字][ふりがな]アスファルト[/ふりがな]を強く蹴っていく。
『 [太字]来るな!!!![/太字] 』
向かい風のように、拒絶で生まれた槍が私に向かう。
服が槍に裂かれて赤く染まる。
[太字]太腿が裂ける。二の腕が裂ける。頬が裂ける。[/太字]
もちろんそれが痛くないわけなどない。
[太字]それでも、走る事はやめない。[/太字]
君に今必要なものは、[太字][漢字]小さじ2杯程度[/漢字][ふりがな]ちょっとだけ[/ふりがな]の厳しさだから。[/太字]
捨て飯「[太字]柊翔!![/太字]」
名前を呼んで、ぴたりと止まった柊翔を私は、
捨て飯「[太字]______柊翔のバカ!![/太字]」
[太字]______私は、黒くどろどろになる柊翔の身体を、胸ぐらを思いっきり掴んでそう叫んだ。[/太字]
正直、君が嫌なら殴ってこいというくらいの覚悟だった。
でも君は私のことを殴らなかった。
[太字]黒い飛沫が、彼の[漢字]創痕[/漢字][ふりがな]そうこん[/ふりがな]が飛び散る。[/太字]
[太字]...........思えば今まで私たち、兄弟喧嘩なんてして来なかったね。[/太字]
『 [太字]!![/太字] 』
胸ぐらを掴んだ彼の雪解け色の右目が期待で潤んだのを、私はただただ見つめた。
[水平線]
元々、兄弟仲は悪いわけではなかった。
むしろ、最初の頃は仲良しだったまである。
[太字]クリスマスの日からの、[漢字]神様からの授かりもの[/漢字][ふりがな]親の鋭い期待[/ふりがな]が私たちを引き裂いた。[/太字]
私は求められすぎるがあまりに、いつしか全てを遠ざけていた。
否、遠ざける事を強いられたというのが正しいか。
[太字]______だからこそ、求められることのなかった自由な君を憎んだ。[/太字]
心底憎んだ。
私はされたくもない期待を常にかけられて死にたいと思うほどだったのに。
母さんの言う事以外は許されなかったのに。
それでいて私は触れる事も許されなかった、[漢字]夏嵐[/漢字][ふりがな]たいふう[/ふりがな]の過ぎた日の嫌味な暑さに当てられて。
輝く滴を流して、虫取り網を持って、雨上がりだからと靴先を泥だらけにして帰ってきて。
お母さんに『柊翔、また少し日焼けした?』って笑顔で聞かれてて、笑顔で『そうかな?』って君は答えてて。
[太字]...........そうやって君の横顔を二階の階段から眺めていた時、本当に心がぐちゃぐちゃになった。[/太字]
私は首筋に凍えきった眼のような[漢字]冷風[/漢字][ふりがな]クーラー[/ふりがな]を当てられて。
綺麗でもない滴を静かに垂らして、鉛筆をもう痛くなるほど握って、黒鉛で手の尺骨側の側面を鉄に染めて。
[太字]お母さんに『お兄ちゃんは勉強しなさい』って冷たい笑顔で言われて、ゲシュタルト崩壊した[漢字]紙束[/漢字][ふりがな]しゅくだい[/ふりがな]に目線を固定されて。[/太字]
待遇が真逆だったらとは言わないが、そうだったらどれほど良かったのだろうか。
私は刻まれた傷に今更気づいた。
君は自由すぎるがあまりに、手放しに育てられたあまりに、
[太字]何者になればいいのか一つも分からなかった事を。[/太字]