嘘つきたちの輪舞曲【Lier's world】
Prrrr、Prrrr。
気分が悪い中で右手に握ったスマホが震える。
薄暗い部屋の中で光る画面を見ると『夕凪』の文字。
Prrrr、Prrrr.........
.........いつまで経っても電話のコールが鳴り止むという気配がせず、諦めて電話の応答ボタンを押して耳元にかけた。
レモン「もしもし」
.........。
レモン「.........夕凪さん?」
夕凪『 っ、レモン?もしもし? 』
レモン「あー、もしもし夕凪さん。」
レモン「あの、生憎今こっちは気分悪いんすよ。一旦後回しにしてもらっていいっすかね?」
夕凪『 [太字]それだけは無理だ![/太字] 』
その言葉だけは許せないと、すぐに遮られる。
あんたはRPGの王様じゃなかろうに。
レモン「.........なんで」
夕凪『 後でゆっくり話すから! 』
微かに階段を駆け上がる音がする。
階段を駆け上がる音が二つの方向で聞こえ始めた頃で、私は全てを察した。
玄関先で鍵を開けると勝手に扉が開いて、
夕凪「........こっち来て、とにかく早く」
かなり思い詰めたのか、随分と走って息を切らした夕凪さんの姿が私の開けた扉の取っ手を握っている。
[太字]センター分けにされた前髪は風に煽られてひどく乱れ、その姿は一瞬だけだが官能美を連想させるくらいだった。[/太字]
[水平線]
レモン「.........つーか、なんでわざわざ私なんですか」
下から自分の事をゴミを見るような目で見つめる、睨む彼女。
夕凪「今とにかく戦えるっていうか能力持ちの人が必要ってだけ、レモンならできるだろ?」
レモン「そんなの.......そんなの、他の人でもいいじゃないですか」
夕凪「.......今、俺が頼れるのはレモンだけだから。........お願い」
今俺にできるのはお前を呼ぶことだけだから。
レモン「はぁ。.........分かりましたよ」
夕凪「.........!」
レモン「[太字]でもですよ?[/太字]」
レモン「[太字]今だけでいいので、私の事は橘って呼んでくれません?[/太字]」
夕凪「.........は? どゆこと?」
橘って探せばいっぱいいるんだろうけど、[太字]今だけはネットで騒ぎの種になり始めていた『橘』の名前が真っ先に浮かんできた。[/太字]
レモン「早く行かないとダメなんでしょ?」
夕凪「そう、だけど.........」
レモン「______私の名前っすか?」
レモン「[太字]..........橘 礼夏っすよ。.......それ以上でもそれ以下でもないっす。[/太字]」
夕凪「.......!」
レモン「........この事はいずれ皆にも言いますけど。[太字]それまでは二人の秘密でお願いしますね?[/太字]」
.........なんでこうもこいつは、俺たちの事を狂わせるのだろうか。
レモン「ほら、私の名前呼んでみてくださいよ。」
夕凪「........」
夕凪「........橘、」
レモン「______それでいいんすよ」
レモン「[太字]...........行きましょ。[/太字]」
夕凪「っ、そうだった、!」
レモン「何忘れて........[太字]どわぁっ!?[/太字]」
夕凪「早く行くぞ!」
そうだった。呆気にとられて忘れていた。
行かないと。
[太字]行かないと、待たせてる皆が耐えきれなくなるから。[/太字]
そうやって飛び出した先で俺は何も知らないレモンの手を引いて、[太字]天高く目に映る緑の元に走った。[/太字]
レモン「........何なんすかあれ、朱肉ちゃんの世界樹.......?」
レモン「どういう事か説明してもらいますからね!?」
夕凪「言われなくてもそうするつもりだよ馬鹿」
夕凪「..........言っとくが、今から言う事は全部本当の事だからな?」
レモン「........分かってますよ、あなたがこんな真面目なとこで嘘つくような人じゃないって事くらい」
夕凪「..........。」
夕凪「じゃあ質問だけどな、捨て飯の弟くんについては知ってるか?」
レモン「.........柊翔くん、ですよね?」
夕凪「.........まぁそうだな。ぐだぐだ話してても何にもならねー、結論から言わせてもらうわ」
夕凪「[太字]柊翔が事変に近い状態って言っときゃとりあえずは伝わるか?[/太字]」