嘘つきたちの輪舞曲【Lier's world】
夕凪「...........。」
あれから月日も経ったが、未だに現実味がどこにもない。
...........暑い。
いっその事この暑さに、記憶が溶けてくれないだろうか。
もっと言うなら、焼き払ってほしいくらい。
夕凪「はぁ..........。」
あの声に心当たりがあるかと言われると、全くもってそんなものはない。
神様くらいにしか思い当たりがないというか、それ以外の可能性を考えられない。
神様。
能力を授けてくれる存在としての神様、信仰する宗教的なもんも世界では少なくない。
能力。
[太字]俺は自分のこの能力が嫌いだ。[/太字]
能力の本質は『術者の強い意志や願い』に現れるという。
[太字]だからこそ嫌いだった。[/太字]
.........本当に最初は、ふとした時に5秒先くらいが分かるってくらいの単純な未来視でしかないと思っていたのに。
なのに、それは本当に突然の事だった。
俺はある時に、人を殺めた。
その時に、初めて気づいた。
[太字]未来視じゃないって。
俺のお願いは、そんなものじゃなかったって。[/太字]
[太字]俺のお願いは、『やり直すこと』なんだって。[/太字]
[太字]俺の能力は『「過去」を「未来」に連れていく』もの。[/太字]
「過去」の物や事を「現在」に飛ばすことで空間に突然とありとあらゆるものの召喚ができる。
未来視ができるのは、「自分の意識」を「未来」に連れていくことで擬似的にそうなっていた。
いつしか、罪から逃げて、背の伸び切っただけの大人になったのに。
[太字]全部なかった事にしてしまったこの力が、大嫌いなんだ。[/太字]
能力の起源は、[太字]今から何十万年というほどに昔からあるものではないらしい。[/太字]
歴史全体で見てしまえばさほどその時間に差はないのかもしれないが、意外にも能力というのは、何千年前とか、
案外めちゃくちゃ前からあるって話でもないと言う。
能力のない世界に生まれたら。
[太字]そうしたら、世界はもうちょっとだけ生きやすかったのかな。[/太字]
「[太字]........せんせー?[/太字]」
夕凪「えっ」
聞き馴染んだ声に顔を上げる。
偶然にも、そこには神威の姿があった。
神威「どうしたのせんせー、そんな悩んでる顔して」
夕凪「........いや、何でも」
神威「嘘だ〜、だってせんせー[太字]嘘ついてる顔してる[/太字]もん」
夕凪「何だよ嘘ついてる顔って.......」
神威は俺の事をよく見てる。
[太字]よく見てるからこそ、俺は神威にいつか知られる事になるかもしれないのが怖くなる。[/太字]
[太字]背中を押したら羽ばたけるような彼が、いつしかかけがえのできないくらいに大切なものになったから。[/太字]
神威「で、何考えてたのせんせー。」
夕凪「..........」
夕凪「.......神威はさ、」
夕凪「[太字]ここみたいな能力のある世界と違って能力のない世界に生まれてたら良かったなって、思う?[/太字]」
神威「........うーん。」
神威「[太字]...........わかんないや[/太字]」
神威「だって、俺がいじめられたのは能力のせいでしょ?........でも、全部がそうじゃないしさ........」
神威「いじめられたことで能力だけ疎むのもちょっと違うかなって。」
神威「........それに俺、この能力で人を助けたことだってあるからさ!」
神威「[太字].......だから、まだ俺にはどっちがいいとかない。[/太字]」
夕凪「そうか。」
夕凪「........俺が言いたかったのは、それだけだから。」
神威「........。」
どこか心配そうに俺を見つめているが、それも束の間。
後ろを、見覚えのある若草色が通った。
夕凪「........?」
神威「........あの人、せんせーの知り合い?」
夕凪「あぁ、そうだけど.........」
.........胸のざわめきが少しだけ増えた気がした。