嘘つきたちの輪舞曲【Lier's world】
夕凪「........っ」
[太字]俺は、朝露の腕を強く掴み直した。[/太字]
朝露「.........夕凪。[太字]その手、離して?[/太字]」
夕凪「[太字].........嫌だね。絶対離さない。[/太字]」
今までシャットアウトされていた波の音が一斉に動き出す。
朝露は月を背中に俺が嫌いな笑顔を浮かべる。
[太字]その取り繕ったみたいな、嘘くさいみたいな、そんな笑顔が気に入らない。[/太字]
[太字]月の光に当たって逆光となったその後ろ姿は、何も言えないくらい胸糞の悪い美しさだった。[/太字]
この黒い海に、真っ暗な世界に、溶け込んでは跡形もなく、本当に消えていってしまいそうな笑顔で。
そのゆらゆらと、海面のように安定せずに濁り続ける瞳が、
ふわふわ浮いてどこかへ飛んでいってしまいそうな心が、[太字]俺を不安にさせてくる。[/太字]
[太字]それでも、この手を離そうと血迷ったことは思わなかった。[/太字]
夕凪「この手を離すつもりは正直ないよ」
夕凪「.........でもね、」
腕を掴んでから何秒くらい経過したか。
腕の次に、海風に煽られ冷たくなった彼の手を取って、絶対離さないって言葉を本物にするみたいに[太字]恋人繋ぎをして言ってやった。[/太字]
夕凪「[太字]一緒にいれるってお前が言うんだったら、[/太字]」
朝露「........え?」
夕凪「[太字]死んだ後も一緒にいれるってお前が言うんだったら、ここで心中してやってもいいけど?[/太字]」
我ながら頭のおかしい提案。
朝露は少し驚いたような顔をしてすぐに「 保証はできないなぁ 」と小さく笑って呟いた。
[太字]もちろん、俺の嫌いな笑顔で。[/太字]
夕凪「じゃあ無理だね、........絶対離さない」
夕凪「[太字]..........自分が心から幸せだって思えるまで、絶対死ぬんじゃねーぞ[/太字]」
朝露「.........!」
[太字]『 生きろ 』なんて、『 死ぬな 』なんて、本当はそんなに言いたくない。
『 先生 』という立場にいる以上、本当は仕方なく引き戻しているってだけ。
別にいつか二人で地獄を見てみたって構わないと思ってる。[/太字]
.........だって、死にたいやつに生きろって言うことって、
本気で生きたいやつに死ねって言ってるようなもの。
[太字]そうやって見たら残酷だと思わない?[/太字]
朝露「.........。」
夕凪「........すぐそばでお前の事大切にしてるのに消えようっていうのは、流石に許せねーんだわ。」
朝露「.........ごめん」
朝露「[太字]あの、めっちゃ寒い。無理凍え死ぬ[/太字]」
夕凪「は?」
朝露「冷えてて足の感覚ほとんどない」
夕凪「え、いや、はぁ!? ちょっ早く出るぞ!?」
朝露「無理.........夕凪引っ張って」
夕凪「あー.........おら行くぞ!」
朝露「うひゃぁ夜の海って寒い〜〜」
夕凪「分かりきってたことだろーがよ!何今さらそんな事........!」
ズリズリを砂を引きずる音と感覚で朝露を引き上げていく。
朝露「最初心地よかったんだよ、でも徐々にさぁ......」
夕凪「体温調節くらい自分でできんだろ!」
朝露「怒んないでよ夕凪さぁ〜」
夕凪「前も軽く熱中症なってただろ!お前いっつもそうなんだからよ!」
朝露「俺がそういうのできなくてもお前が気づいてくれるからさぁ.....」
夕凪「人任せかよ......」
朝露「いや、だってやってそうじゃん?」
夕凪「はぁ、お前なぁ......」
朝露「[太字]...........だからさぁ夕凪。ずっと隣にいてよね[/太字]」
夕凪「、!」
朝露「[太字]お前がいないと俺壊れちゃうから。ちゃんと俺の面倒見てよね[/太字]」
夕凪「.........当たり前だろ、任しとけって」
俺より頭一つくらいに背丈の高い彼を担いで。
それでずぶ濡れの足元のまま車に乗り込んで、日が昇る頃に家に戻った。
他人は自分を映す鏡だと言う。
[太字]俺はきっとあの時、自分に向かって言葉をぶつけていたんだろう。
きっと自分で自分に、呪いをかけた。[/太字]
お前がどうしようもなく死にたくなるのと同じくらい、
[太字]俺も生きたいなんて贅沢が言えない天邪鬼だったから。[/太字]
夕凪「朝露。」
朝露「.........なーに」
夕凪「俺がもし壊れたら.........[太字]そん時はお前が世話して。[/太字]」
夕凪「[太字]きっとどっかで、どうしようもなく壊れたくなる日が来るからさ。[/太字]」
朝露「.........もちろん、喜んでするよ?」
相変わらずな俺のお隣さんは優しい笑顔でそう言った。
[太字]俺の好きな笑顔で。[/太字]
.........なぁ、朝露。お前が隣にいてって言ってくれたの、嬉しかったよ。
大丈夫、お前が嫌がっても隣にいるし、死ぬまで......いや、死んだ後でも面倒見てやるからさ。
だからさ、
[太字][中央寄せ]第3小節『 夜の海に溺れないで 』End[/中央寄せ][/太字]