嘘つきたちの輪舞曲【Lier's world】
「...........海?」
「..........そう、海。」
すっかり日が暮れ、月明かりに照らされ始めた街中でヤケクソに有害物質を取り入れる。
そんな隣のお前に言った。
夏風がアスファルトを蹴り飛ばして、僕たちの頬を煽る。
[太字]どうしても、こいつを一人にさせたくなかった。
何となくさせたらダメだと思った。[/太字]
そんな中で頭を回して隣にいるための口実として思いついたのは、本当にそれくらいしかなかった。
一緒に一泊するとかでも別に良かったけど、あいつが何を言うかって感じでもあったから。
朝露は嫌っているはずの煙草の煙を不慣れに吸い、咳き込みながらこちらを見て口を開く。
「いいよ」
優しい笑顔で彼は応えた。
.........生憎、俺の車のエンジン音が静かとは言えない。
真夜中に二人でダメなことをする。
まるでそれは小学生みたいでいて、その背徳感をエンジン音は増幅させ、それを勝手に楽しんでいる自分がいた。
[水平線]
「てか、何で急に海行こうとか言い出したの」
「..........夏だから?」
「..........何だそれ」
「..........お前は?」
「誘われたからだけど」
「え、それだけ?」
「それ以外で答えろと? ........え、気分とか?」
「........ははっ、何だそれw」
[水平線]
「ピパコのレモン味美味かったなぁ」
「........そうだな、あれ買ってよかったよ」
「夏もちょっとは悪くないかもな」
「夏は嫌いでもアイスは好きなんだな」
「いや、でも..........」
「..........でも?」
「........夏に食うより冬に食うアイスの方が好き........」
「はぁ!?」
[水平線]
「この辺暗いな........」
「え何、怖いの?w」
「そんなわけねーだろ」
「でもあれだな、動物とか急に出たら流石にビビる」
「え、動物?こういう都会に動物って出るもんなの?」
「........知らないけどいるんじゃねーの?」
「........結局は安全運転が一番って事かぁ。」
「........それフリじゃねぇよな?」
「違う違うやめろ、w」
「www」
[水平線]
「そう言えば夕凪ってたまにメガネかけてるけど目悪いの?」
「急だな........ただ裸眼で全然日常生活送れるぞ?」
「じゃあなんでメガネ持ってんの」
「寝起きとかで小さい文字見る時はたまに使ってたりするなぁ。字が霞んだりでぼやけて見えるし」
「それって老眼とかじゃないの?w」
「ちげーしまだ早いだろ!w」
「早めの老眼、早めの老眼w」
「だからちげーってw」
「.........あ」
「お?」
「「海じゃん」」
[水平線]
朝露「夕凪!めっちゃ冷たい!!」
夕凪「おー.........転ぶなよー?」
30分ほど車に揺られて、やっと着いた夜の海に彼は気分が高まっているらしい。
ほんと、こいつ子どもみたいにはしゃぎまくるからいつか転ぶんじゃねーか?
まるで初めて海を見た子どものように楽しそうに笑う。
朝露「夕凪、クラゲとかいたりしないかな?」
名前は呼んでもこっちに視線は一切くれず靴を脱ぐ。
夕凪「知るかよ........ってお前、着替えもタオルも今ないぞ?」
朝露「ちょっとだけだし」
夕凪「おい、」
朝露「うわっ冷たーい!」
朝露はズボンを少し捲って海に入った。
........こいつホントに子どもみたいだな。
夕凪「あーあー、もう知らねーぞ?」
朝露「すごいぞ夕凪、なんか体温が段々奪われてく感じする。新しい感覚する」
そうは言ったって俺は海に浸かる気なんて一切ないけどな。
夕凪「あーそうかよ.........危ないからあんま奥行くなよ」
朝露「夕凪お前、今何考えてんの?」
夕凪「ん、.........お前が馬鹿だなーって。」
朝露「んは.........じゃあ夕凪こっち来て」
夕凪「ん、なんだよ.........って、うおっ!?」
朝露「これでお前も共犯な」
夕凪「っ、お前なぁ.........!」
朝露がいきなり俺の腕を引っ張ったせいで靴までずぶ濡れになった。
夜の海だし、すげー冷たい。
それでも、朝露の言っていた体温の奪われる新しい感覚というのは......[太字]ちょっと分かるかもしれない。[/太字]
俺の反応が面白かったのかヘラヘラと笑っている。
あぁ、お前はやっぱそういう笑顔が似合うなぁ。
[太字]作ったみたいな、貼り付けたみたいな笑顔じゃなくて。[/太字]
朝露は海面を揺らしながら、一人、海の奥に歩いていく。
[太字].........夜の海は綺麗かと言われると微妙だ。[/太字]
ゴミが多いとか汚れてるって訳でもないけど、夜をそのまま映した海には、どうにも透明感がない。
失礼だけど、昼間の綺麗な海を見てしまったからにはそう感じてしまう。何かごめん。
水が腰下辺りになった頃、そろそろ心配で朝露の元へと向かって腕を掴む。
もう濡れたからには海に浸かりたくないなんて感情は捨てた。
何だよお前、ちょっとだけとか言ってめちゃくちゃ浸かりやがって。
.........何も聞こえなくなる。二人分の音が消える。
何、急にめっちゃ黙るじゃん。どうしたんだよ。
夕凪「........朝露、それ以上はやめとこ。溺れたら大変だぞ」
朝露「お前よりかは俺泳げるっての」
夕凪「波にはお前でも勝てないんだよ、分かってんだろ」
朝露「[太字]........ねぇ、いっそ溺れてみるのもありじゃない?[/太字]」
夕凪「何言ってんだよ、洒落になんない事.......」
朝露「[太字]あのね夕凪。これでも結構本気だよ、俺は[/太字]」
何もかもを遮るように放った朝露の言葉。
「.........」
「[太字].........死ぬ、けど[/太字]」
[太字]俺はそう言い返すことしかできなかった。[/太字]
目も合わせられなかった。
.........いつもの口喧嘩になったら、俺がいっつも言いくるめてるんだけどな。
朝露「まぁ、........そうだね。知ってる。」
夕凪「.........そんな事言うなよ」
朝露「[太字].........だって、難しいじゃん。もう分かんないんだよ。[/太字]」
ダメだって。そんな顔しないでよ。
[太字]そう言おうとしたけど、言えなかった。[/太字]
彼はぼんやりと、暗く黒い水平線を見つめてこう言ったんだ。
朝露「[太字]なりたいものもやりたいことも、分かんなくなっちゃったんだもん。[/太字]」
..........ってさ。