嘘つきたちの輪舞曲【Lier's world】
夕凪「[太字].........そんな事言うんだったら生きてやるわ、バーカ。[/太字]」
あの日のヒーローを見て自然と自分と目を合わせた。
過去の自分を見つめるように。
あの時考えた頃とは意味がだいぶ違ってくるが、今俺は確かに俺と向き合っている。
夕凪「生きてるだけで丸儲け。」
夕凪「誰かのヒーローに生きてるだけでなれんだったら、[太字].......それ以上に良い事なんてねーだろ。[/太字]」
夕凪「何度だって言うけどな、俺は生きるよ。」
夕凪「誰に何と言われようと、例え自分自身だったとしても。」
一息吸って唱える
夕凪「[太字]【 [漢字]可逆時計[/漢字][ふりがな]かぎゃくどけい[/ふりがな] 】[/太字]」
食事用のナイフを右手に添えて。
金属から来る銀色の光沢なんてものない、黒く雑に塗られた絵の具のような色でオレンジに縁取られたそれを握りしめて。
夕凪「[太字]お前とはさよならするんだよ、クソッタレが[/太字]」
[太字]鏡に思いっきり、片目に向かって突き立てた。
がしゃん。[/太字]
乱雑にジェンガを壊した時のような音がして、鏡の破片が散らばる。
夕凪「.........。」
鏡の破片が頬をかする。痛みはなかったが、血が出ているかまでは分からない。
[太字]人を殺した時の一瞬の虚無感が延々と俺を覆っている。[/太字]
『 .........ははっ 』
夕凪「.......何だよ」
夕凪『 [太字]........お前みたいなキラッキラしたやつ、俺には食えねぇ[/太字] 』
夕凪『 お家に返してやるよ 』
夕凪「.........。」
夕凪『 ........何だ、その顔? 俺が憎たらしいって顔か? 』
夕凪「........いや、......。」
夕凪『 お前は誰かのヒーローになるんだろ 』
夕凪『 [太字]だったら、早くお家に帰れよ[/太字] 』
夕凪「え........」
鏡を見ると、映っていたのでは自分ではなく、いつしか朝露の姿に切り替わっていた。
髪はほどかれボサボサになっていて、自分をぼうっと眺めているように見える。
夕凪「........」
夕凪『 ........行かねぇの? 』
夕凪「.........」
夕凪「........行くに決まってんだろ、そんなの」
夕凪『 ん、いいお返事だぜ 』
夕凪『 そんじゃ、あの子のこと、助けてやれよ 』
夕凪『 応援してるから 』
夕凪『 [太字]........その気持ち、大事にしろよな[/太字] 』
そう言われた瞬間。
[太字]誰もいないはずなのに後ろから、とんっ、と背中を押される感覚がして。[/太字]
夕凪「え?」
もちろん、振り返っても誰もいない。
[太字]また入った鏡の世界の中は、最初入った時より遥かに暖かくて、心地良かった。[/太字]
[水平線]
朝露「...........。」
朝露『 いいでしょ、もう。 』
朝露『 やりたいことはやれたんでしょ? 』
朝露「そうだけど......」
そうだ。
ずっとそうだった。
[太字]全部言えたあの日から、全部歪んで見えていたんだ。[/太字]
[太字]すべてが言えたあの日から、あれは『友情』なんて簡単に呼べるものではなくなった。
それは、『友情』ではない何か。[/太字]
例えようもない、言い換えようもない、歪なもの。
[太字]そんな感情を抱えて、どうやったら『これ』を『友情』って言えるのか。[/太字]
ずっとそればかり考えてきた。
いらないんだけどなぁ。
......神様からもらった、こんなものも
そんな事考えちゃう俺も。
朝露「.........ねぇ、教えて......」
朝露「なんで『死にたくない』って、思っちゃうのかな......?」
朝露『 ........... 』
朝露『 さぁ? しーらない。 』
朝露『 [太字]自分で考えれば?[/太字] 』
朝露「.........。」
朝露「......もう別に、何でもいいんだよ。もう、演ることは全部やっちゃったんだからさ」
朝露「キャンディーもマセてるガキってだけだし、この髪の毛も何となくで伸ばしてたし」
朝露「でも、死にたくないんだ......」
朝露『 .........めんどくさ。 』
朝露『 あー、もういいや。ずっと不純物が混ざってるくらいなら君は食べたくない。 』
朝露『 [太字]もう勝手に出てけよ。[/太字] 』
朝露「え......?」
朝露『 ......チッ、マジこいつめんどくせー........ 』
朝露『 [太字]出てけっつっってんだよ!![/太字] 』
朝露「うわっ!?」
すると鏡から突然と引っ張られて、鏡が割れる音がした。
鏡の中は不安定な精神のようで、それに撫でられる度にふわっと意識が身体の外に落ちていく。
[太字]俺は、いつしか孕まれた赤子のように眠っていった。[/太字]