嘘つきたちの輪舞曲【Lier's world】
「っ、はぁ........」
俺は今、家の前に立っています。
何か不審者とか思われてたら心外だけど........
「.........」
ピーンポーン
..............。
.........流石に、出てくれないよな
[太字][斜体]ガチャッ[/斜体][/太字]
「、!」
目の前の扉が開く。
『 ........はい? 』
目の前で入学式から顔を出さなかった青年、[太字]神威柳太[/太字]くん。
彼はどこか不安げな表情をして、俺のことを下から見つめていた。
[水平線]
神威「えーと......なんの用ですか?」
「.......あ、君が神威くんで合ってるかな」
神威「は、はい.......」
.........いや、合ってるんだろうけど。
合ってるんだろうけど。念のためで聞きたくなっちゃうだけなんだ。
「急にごめんな、びっくりした?」
こういったデリケートな話をする分、先んじてできる限り『話しやすい環境』を作ることは大事だ。
警戒が解けていないいないようでは、聞きたいことなんていつまで経っても話してくれやしない。
神威「まぁ.......はい」
「......まぁ、まずは......挨拶と言ってはなんだが、入学おめでとう。」
神威「…あ、ありがとう、ございます?」
「んで俺は、君のクラスの担任になった......夕凪 璃透。」
「まぁ........好きに呼んで。」
神威「........夕凪先生、........。」
神威「........それで?[太字].......連れ出すんですか?[/太字]」
連れ出す.......?
「連れ出す......いや、そんなわけないだろ......連れ出したところで俺に意味ないし」
「普通に、お話しに来たんだよ」
とりあえずちょっと笑って飛ばしたけれど。
連れ出す、って.........逆に、[太字]今までで連れ出されたことがあるって言うのかよ、この子は?[/太字]
神威「........」
「......ちなみに今、親はいたりする?」
神威「.........いないと思います。この時間帯は二人とも仕事なので」
「......そう、か。......じゃあなおさら話しやすいか」
親に迷惑かけたくないのは誰だってそうだ。
荒れていた俺の環境じゃ少なくともその感情は分かりそうにもないが、高校の頃に朝露も、
[太字]『 こんなグレちゃって両親には迷惑かけちゃってるな〜 』[/太字]
とか、当時にしても結構珍しいことを言っていた。
咳払いを一つしてから、話し始める。
「......単刀直入に言うと、君が......神威が、不登校になってる事について、[太字]俺の方でサポートしていこうと思ってる[/太字]」
神威「......」
できる事なら、学校が『一つの居場所』となってほしいという[太字]俺の身勝手な願い。[/太字]
「......ただ、詳しいことについては、俺もよく知ってない。」
神威「......」
「でも、流石に最初から学校に行けとか無理なことは言わないよ」
無意味にきょろきょろと周りを見て、話し始める。
「......まぁこれは俺の後悔とか持論含めての話になるけど.........やっぱ、学校に行って友達作って、高校生活を楽しんでほしいんだよな」
神威「......」
「......だって、せっかくの高校生なんだぞ?楽しまないのはもったいないって少しは思わないか?」
楽しまなければもったいない。
[太字]それは、当時出会ったばかりの朝露に言われたことだった。[/太字]
........当時の俺は、否定したけれど。
[太字]君はどうなんだ?[/太字]
否定したって、俺は同じだとしか思わないが______
神威「[太字]______........よく、わからない[/太字]」
神威「[太字]学校って楽しいもの......なのかな?[/太字]」
神威「[太字]........おそらく、多分そうなんだろうけど......俺にはよくわかんない。[/太字]」
わかんない、か........。
「......俺にとっては、少なくとも楽しかったよ。3年だけだけど、本当に記憶に残る思い出ばっかりだった。」
「もちろん高校生活送ってて、俺にもつらいこととかたくさんあった。けど......それ以上に楽しかったよ。俺にとってはな。」
神威「..........そう」
否定され続けた。
弟が死んだ。
頼れなかった。
神威「俺.......小学校と中学校の合わせて9年間以上、[太字]ずっとクラスメイトにいじめられてて[/太字]」
「.......!」
神威「[太字]だから、普通の学校生活がわからない。[/太字]」
「.........」
神威「中3のとき、俺はいじめをやめてほしくて、本やマンガで読んだ学校生活によくいる[太字]『元気な人気者』[/太字]を演じてみた。」
神威「それでいじめは止められなかったよ。......でも勉強だけははかどってたから......中3はひたすら勉強してた。」
神威「[太字]......だから、演じてた1年間の学校生活もほとんど記憶にない[/太字]」
つらいこと。
[太字]あの日それを全部一気にかき消すかのように現れた[漢字]彼[/漢字][ふりがな]朝露[/ふりがな]は、俺にとってはヒーローのようだった。[/太字]
彼は今、すべてを吐き出してくれている。
俺は、彼のヒーローになれるだろうか。
[太字]アイツみたいなヒーローに、なれるんだろうか。[/太字]
[太字]『 勇気をだして言ってごらん、"クラージュヒーロー"。きっと君も、君のヒーローになれる 』[/太字]
その言葉を思い出した時、どれだけ息を呑んだだろうか。
[太字]俺は思い出したのだ。[/太字]
[水平線]
「なぁ幸唄、お母さんが買ってきてくれたこれ読もうよ!」
幸唄『 え......?お兄ちゃんのものなのに、いいの? 』
「もちろん! 兄ちゃんと一緒に読もう?」
幸唄『 ........うん! 』
表紙には、夜空に包まれて笑うヒーローの姿。
題名は、[太字]"クラージュヒーロー"。[/太字]
[水平線]
[太字][明朝体]あるところに、[漢字]星[/漢字][ふりがな]ほし[/ふりがな]にあこがれる[漢字]少年[/漢字][ふりがな]しょうねん[/ふりがな]がいました。
[漢字]少年[/漢字][ふりがな]しょうねん[/ふりがな]は、いつかかならず[漢字]星[/漢字][ふりがな]ほし[/ふりがな]に[漢字]行[/漢字][ふりがな]い[/ふりがな]くんだ!と[漢字]心[/漢字][ふりがな]こころ[/ふりがな]にきめていました。
しかし、[漢字]世界[/漢字][ふりがな]せかい[/ふりがな]は[漢字]少年[/漢字][ふりがな]しょうねん[/ふりがな]を[漢字]否定[/漢字][ふりがな]ひてい[/ふりがな]します。
お[漢字]父[/漢字][ふりがな]とう[/ふりがな]さんも、お[漢字]母[/漢字][ふりがな]かあ[/ふりがな]さんも、ともだちも、[漢字]先生[/漢字][ふりがな]せんせい[/ふりがな]も、みんな[漢字]口[/漢字][ふりがな]くち[/ふりがな]をそろえて
「 そんなの、できるわけがない 」というのです。
それでも[漢字]少年[/漢字][ふりがな]しょうねん[/ふりがな]は、[漢字]何回[/漢字][ふりがな]なんかい[/ふりがな]も、[漢字]何回[/漢字][ふりがな]なんかい[/ふりがな]も、めげずに[漢字]夢[/漢字][ふりがな]ゆめ[/ふりがな]をかたりつづけました。
それでもいつしか[漢字]否定[/漢字][ふりがな]ひてい[/ふりがな]されつづけるうちに、[漢字]心[/漢字][ふりがな]こころ[/ふりがな]がぽっきり[漢字]折[/漢字][ふりがな]お[/ふりがな]れてしまったのです。
ベッドのうえで[漢字]少年[/漢字][ふりがな]しょうねん[/ふりがな]は、かなしくてかなしくて[漢字]泣[/漢字][ふりがな]な[/ふりがな]いてしまいます。
そんなとき。
カランコロン......
きれいな[漢字]音[/漢字][ふりがな]おと[/ふりがな]が、[漢字]耳元[/漢字][ふりがな]みみもと[/ふりがな]でなりひびきました。
「 どうしたの? 」
ふと[漢字]顔[/漢字][ふりがな]かお[/ふりがな]をあげると、そこには[漢字]夜空[/漢字][ふりがな]よぞら[/ふりがな]の[漢字]目[/漢字][ふりがな]め[/ふりがな]をもった、きれいな[漢字]青年[/漢字][ふりがな]せいねん[/ふりがな]が[漢字]立[/漢字][ふりがな]た[/ふりがな]っていました。
「 あなたはだあれ? 」
そう[漢字]少年[/漢字][ふりがな]しょうねん[/ふりがな]が[漢字]聞[/漢字][ふりがな]き[/ふりがな]くと、[漢字]青年[/漢字][ふりがな]せいねん[/ふりがな]はいいました。
「 ボクは、クラージュだよ 」
そう[漢字]名乗[/漢字][ふりがな]なの[/ふりがな]った[漢字]青年[/漢字][ふりがな]せいねん[/ふりがな]は、[漢字]少年[/漢字][ふりがな]しょうねん[/ふりがな]の[漢字]涙[/漢字][ふりがな]なみだ[/ふりがな]をすくいあげて、[漢字]自分[/漢字][ふりがな]じぶん[/ふりがな]の[漢字]手[/漢字][ふりがな]て[/ふりがな]のうえにそれをおとしました。
たちまち[漢字]少年[/漢字][ふりがな]しょうねん[/ふりがな]の[漢字]涙[/漢字][ふりがな]なみだ[/ふりがな]は[漢字]夜空[/漢字][ふりがな]よぞら[/ふりがな]にうかぶ[漢字]星[/漢字][ふりがな]ほし[/ふりがな]のように、きれいにかがやきはじめました。
そしてくらいへやの[漢字]中[/漢字][ふりがな]なか[/ふりがな]、[漢字]青年[/漢字][ふりがな]せいねん[/ふりがな]の[漢字]手[/漢字][ふりがな]て[/ふりがな]のうえで[漢字]小[/漢字][ふりがな]ちい[/ふりがな]さく[漢字]光[/漢字][ふりがな]ひか[/ふりがな]った[漢字]少年[/漢字][ふりがな]しょうねん[/ふりがな]の[漢字]涙[/漢字][ふりがな]なみだ[/ふりがな]は[漢字]おお[/漢字][ふりがな][/ふりがな]きくなり、まるで[漢字]水晶玉[/漢字][ふりがな]すいしょうだま[/ふりがな]のようにキラキラと[漢字]光[/漢字][ふりがな]ひか[/ふりがな]ります。
それをのぞくと、[漢字]星[/漢字][ふりがな]ほし[/ふりがな]のうえに[漢字]立[/漢字][ふりがな]た[/ふりがな]っている[漢字]自分[/漢字][ふりがな]じぶん[/ふりがな]のすがたがありました。
「[漢字]君[/漢字][ふりがな]きみ[/ふりがな]は、[漢字]星[/漢字][ふりがな]ほし[/ふりがな]に[漢字]行[/漢字][ふりがな]い[/ふりがな]きたいんだよね」
「うん!なくなった[漢字]人[/漢字][ふりがな]ひと[/ふりがな]がお[漢字]空[/漢字][ふりがな]そら[/ふりがな]にのぼるから、[漢字]星[/漢字][ふりがな]ほし[/ふりがな]に[漢字]行[/漢字][ふりがな]い[/ふりがな]くことができればみんなが[漢字]会[/漢字][ふりがな]あ[/ふりがな]いたい[漢字]人[/漢字][ふりがな]ひと[/ふりがな]に[漢字]会[/漢字][ふりがな]あ[/ふりがな]えるんだよ、すてきでしょ!」
[漢字]青年[/漢字][ふりがな]せいねん[/ふりがな]は、[漢字]少年[/漢字][ふりがな]しょうねん[/ふりがな]の[漢字]夢[/漢字][ふりがな]ゆめ[/ふりがな]を[漢字]聞[/漢字][ふりがな]き[/ふりがな]くとぽろぽろと[漢字]涙[/漢字][ふりがな]なみだ[/ふりがな]をながします。
「[漢字]君[/漢字][ふりがな]きみ[/ふりがな]は、やさしい[漢字]子[/漢字][ふりがな]こ[/ふりがな]なんだね」
[漢字]少年[/漢字][ふりがな]しょうねん[/ふりがな]は、[漢字]青年[/漢字][ふりがな]せいねん[/ふりがな]が[漢字]自分[/漢字][ふりがな]じぶん[/ふりがな]の[漢字]夢[/漢字][ふりがな]夢[/ふりがな]を[漢字]否定[/漢字][ふりがな]ひてい[/ふりがな]しないことにうれしく[漢字]思[/漢字][ふりがな]おも[/ふりがな]いました。
「[漢字]君[/漢字][ふりがな]きみ[/ふりがな]なら、きっとできるよ」
そう[漢字]言[/漢字][ふりがな]い[/ふりがな]うと、[漢字]青年[/漢字][ふりがな]せいねん[/ふりがな]は[漢字]少年[/漢字][ふりがな]しょうねん[/ふりがな]の[漢字]手[/漢字][ふりがな]て[/ふりがな]をにぎります。
「[漢字]勇気[/漢字][ふりがな]ゆうき[/ふりがな]をだして[漢字]言[/漢字][ふりがな]い[/ふりがな]ってごらん、"クラージュヒーロー"。きっと[漢字]君[/漢字][ふりがな]きみ[/ふりがな]も、[漢字]君[/漢字][ふりがな]きみ[/ふりがな]のヒーローになれる」
そう[漢字]言[/漢字][ふりがな]い[/ふりがな]った[漢字]青年[/漢字][ふりがな]せいねん[/ふりがな]は、いつのまにか[漢字]消[/漢字][ふりがな]き[/ふりがな]えていました。
すこしさびしいけれど、[漢字]少年[/漢字][ふりがな]しょうねん[/ふりがな]の[漢字]心[/漢字][ふりがな]こころ[/ふりがな]には、[漢字]暖[/漢字][ふりがな]あたた[/ふりがな]かい[漢字]光[/漢字][ふりがな]ひかり[/ふりがな]がともっていました。
それから[漢字]朝[/漢字][ふりがな]あさ[/ふりがな]になって、いつものように[漢字]少年[/漢字][ふりがな]しょうねん[/ふりがな]は、
お[漢字]母[/漢字][ふりがな]かあ[/ふりがな]さんやともだち、[漢字]通[/漢字][ふりがな]とお[/ふりがな]りすがりのおばあちゃんにまで
「ぼくはかならず、[漢字]星[/漢字][ふりがな]ほし[/ふりがな]にいくんだ!」
といってまわりました。
もうどれだけ[漢字]否定[/漢字][ふりがな]ひてい[/ふりがな]されても、[漢字]少年[/漢字][ふりがな]しょうねん[/ふりがな]はめげません。
だってもう[漢字]彼[/漢字][ふりがな]かれ[/ふりがな]の[漢字]心[/漢字][ふりがな]こころ[/ふりがな]には、
"クラージュヒーロー"がいるのですから。[/明朝体][/太字]
[水平線]
「.........そっか、それはつらかったな」
その物語を思い出した時に俺はとっさに、
神威「[太字]わっ!?[/太字]」
[太字]神威のことを、抱きしめていた。[/太字]
7秒間の抱擁は心身のリラックス効果をもたらすから........
なんてのは当然、建前であって。
[太字]本当は、分からないんだ。
俺の中のヒーローは、勝手に動いていたみたいで。[/太字]
俺の髪とはある意味で真逆な、赤くもふもふとした彼の髪が横で喋った。
神威「........俺、学校、行きたいんだよ。本当は。」
神威「[太字]でも、疲れてるんだ[/太字]」
神威「[太字]........『甘え』だよ。大人が一番嫌いなやつ。[/太字]」
[太字]甘え。[/太字]
それを俺は嫌ってるんじゃなくて、[太字]できないだけだって、自分の中で何となく分かってる。[/太字]
「.........大人が『甘え』ってのを嫌ってるのはな、それに依存してばっかりだからだよ」
迷惑かけてられない、かけたくない。
依存してばっかじゃ、いつか嫌われる。
このくらい、この人なら一人でできる。
そうやって、一つ一つは小さくても、私たち人間は教え込まれて、蓄積された。
でもそれは今となっては、ただ頭の固くなった人間が持ち合わせ続けた偏見の一つに過ぎない。
「別に逃げてもいい、甘えてもいい。」
「[太字]......ただ、いつかは絶対に自分と向き合わないといけないから[/太字]」
そう思い続けてきた俺だ。
いい加減、俺も向き合わなきゃいけない。
「.........大人の言ってる「甘え」ってのは、ずっと逃げてばっかりの臆病者ってことだよ」
「......いつでもいいよ、向き合えるようになるってのは。その辺は自分のペースでいい。」
神威「……ありがとう、ございます」
「......両親でもいいし、別に俺とか頼ってもいいんだよ、どんな事でもいいから」
「だからそれまで、ゆっくりでいいから向き合えるようになってこう、な?」
神威「........ッく、う゛......っ......」
大粒の涙をこぼす彼をもう一度強く抱きしめて思う。
[太字]______俺は初めて、誰かのヒーローになれたんだなと。[/太字]