嘘つきたちの輪舞曲【Lier's world】
[太字]______【 目を覚ませ 】。[/太字]
........どくん。
心臓は、まるで本能からの抗えない衝動に従順なように鼓動する。
朝露「っ、......?」
身体中に響く、その声と心臓の音に意識が遡っていく。
..........ぼやけた視界の中で、まだネオンライトが自分を照らしている。
一瞬ループしたかと幻覚を見たが、それは束の間の勘違いであるとすぐに分かる。
[太字]目の醒めきった虚無の、心配そうな、深刻そうな、そんな顔が目に映ったから。[/太字]
虚無「お前が『危険である』という事実は、こちらに十分伝わった。」
虚無「ドッペルゲンガーは、影からいつもこちらを見ている。」
虚無「[太字]ならば、我のすることは______これしかない[/太字]」
朝露「..........?」
虚無「............青年。」
虚無「[太字]我の無礼を、どうか許してくれ[/太字]」
朝露「え......?」
虚無「______ドッペルゲンガー」
虚無「 [太字]青年を、鏡の次元に送れ[/太字] 」
[水平線]
「............」
眠りから目覚めるのは、これで二回目だ。
光だけが異常に、ぼやけた視界を突き通して目に刺さる。
[太字]俺は、影に引きずり込まれて、それで_____[/太字]
それで.........
それで?
夕凪「っ、!!」
半ば衝動的に自分の首元に触れる。
..........血は流れていないし、なぜか不思議と痛みすらもない。
[太字]あの時確かに、爪が首に刺さっていたはずだったのに。[/太字]
現実という重力に身体が吸い寄せられ、ぺたんと座り込んでいる地面が冷たいことを知る。
気づいてふと辺りを見回すと、周りは全てがコピーされあっているような、迷宮のような空間だった。
.........これは、鏡?
[小文字]夕凪「いや、だとしたら........じゃあ、なんで.........」[/小文字]
「[太字]なんで俺の姿が、映ってないんだよ........[/太字]」
.........そう呟いても。
それでも映されているのは、風景だけだった。
鏡面にぴたりと手をつけてみるが、向こう側から手は伸びてきてくれない。
[小文字]「.........ここ、は......」[/小文字]
夕凪「......え、?」
...........今、朝露の声聞こえた?
[小文字]「........鏡? てかマジでここどこ?」
「俺さっきまで、スケッチブックの子と一緒に......」[/小文字]
あぁ、間違いなく、朝露の声だ。
夕凪「.......。」
今からでも、そっちに行きたい。
.........けど.........
[水平線]
[太字]「お前やっぱドッペルゲンガーじゃねぇか!!」[/太字]
[水平線]
夕凪「.........」
いや、幻聴でも幻覚でもないってことを、祈るしかない。
朝露「........っあ、夕凪!? お前何でここに?」
夕凪「あ、うん、えっと.......」
朝露「........どうしたんだよ、元気ないけど」
夕凪「........」
俯いてみる。
彼の足元に、影は見当たらない。
[太字].........またかよ[/太字]
ため息一つと勝手な注文だけして、右手側で俺を映さない鏡に寄りかかるように触れる。
[太字]その時だった。[/太字]
[太字][斜体]パリンッッ[/斜体][/太字]
夕凪「!?」
[太字]伸ばした右手に拒絶するように、鏡が割れた。[/太字]
朝露「夕凪、危ないから離れろ!」
左手をぐいと引っ張られバランスが崩れ、咄嗟に鏡から離される。
割れた鏡は、風景を歪に映し出す。
相変わらず、俺の姿は映らない。
[太字]朝露の姿もなかった。[/太字]
「 [太字]______来たんだね、俺の食糧[/太字] 」
そうやって呆然とする二人に釘を刺すように、声が引っ張られた方向からした。
振り向くと、
「 ようやく気づいたんだね。 」
「 [太字]______こんばんは、俺のオリジナル[/太字] 」
[太字]鏡の向こう側の風景に、独りでに喋りだした俺が映り込んでいた。[/太字]