嘘つきたちの輪舞曲【Lier's world】
梅雨の時期にしては珍しく、今日は晴天。
天気予報は正直者で嬉しかった。
と言っても、昨日までも雨だったから外の世界に暖かさなど微塵もあるわけなかったのだが。
それでもただ雨が降らないことへの嬉しさは何処かにあるはず、
[太字]でもどうしてか、今日はその晴天がどうも憎たらしく見えてしまう。[/太字]
実際あれから数日経ったが、僕はいつも通りでいられてるし、周りもほとんど触れなかった。
現実から目を逸らす。
[太字]みんなそうなんだ。 [/太字]
あれからは瑠偉くんや翼くんもどこかよそよそしいと言った様子で日々を過ごしている。
[太字]これで良かったんだ。[/太字]
きっとこれが、これだけが、このどうしようもなく重くて苦しい世界を楽にする処世術なんだから。
友達の前で笑う自分、
お母さんが大好きな自分、
自分を拒絶する自分、
国語がどっちかと言うと苦手な自分、
全部ぜんぶ自分で、これが[太字][漢字]生階[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな] [漢字]朱肉[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな][/太字]で。
これが、僕の、[漢字]生階[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな] [漢字]朱肉[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]の、世間体からする[太字]『あるべき姿』[/太字]なんだから。
今までが異常だっただけなんだ。
朱肉「............」
[太字]______それでも案外、思い込みというものは強い魔法なのかもしれない。[/太字]
[水平線]
夕凪side
放課後。
職員室の出欠黒板に不登校の一人を除き何も無いのを確認して、
「 あぁ、今日は来てくれたんだよな 」
と改めて安堵する。
あいつも、友達できたもんなんだな。
[太字]お前のこと助けた、最高の友達がね。[/太字]
俺が来るまで、ずっと隣でいてくれたよ。
[太字]瑠偉も、翼も、雅人も。[/太字]
............それを知ったらあいつは、なんて言うかな。
泣いたりは.......流石にしないかな、もう俺みたいな感じのコドモってわけでもないんだし。
[太字]______置いてかれてんなぁ。[/太字]
浮かんだ涙を欠伸のせいにした。
コンコン
夕凪「、はーい」
『 失礼します 』
夕凪「.........どうした、[太字]朱肉[/太字]」
知ってるけど敢えてそう聞いた。
朱肉「知ってるくせに、てか呼んだの僕だし」
夕凪「......まぁ、そう言われるわな。」
夕凪「教室か保健室......どっちにするよ。どっちでもいいんだけどさ」
朱肉「.......保健室かな、何となくだけど。」
朱肉「てか選んで意味あるの?」
夕凪「いーや、何の意味もないね」
保健室.........。
学生の頃は薬品の匂いが嫌いだったな。
でも最近じゃ心地よく感じてしまう、そうなったのは煙草を吸ってたからなのかな。
分かんねぇや。
[水平線]
夕凪「.........でまぁ、"呼ばれた側" だから言わせてもらうけど、勝手に二者面談希望してどうしたんだよ」
朱肉「.........いろいろ、かな」
朱肉「まず先生、前はひどい事言っちゃってごめんなさい」
夕凪「あぁ、あれか........俺はそんなに気にしてないから。朱肉だってムキになっちゃっただけだし、大丈夫」
朱肉「......先生が気にしてないなら、良かったです。」
[小文字]朱肉「.........やっぱウソつきだな、先生は」[/小文字]
夕凪「..........」
朱肉「.......それで、本題なんですけど」
朱肉「[太字]自分らしくいたいってワガママに思うのは罪なんですかね、先生[/太字]」
夕凪「.........と、言うと?」
朱肉「.........」
あの日『自分らしく』を掲げた事は、合理的で生きてきた自分が初めてした不合理な判断だった。
能力もなけりゃ努力もできない。
それに挑戦もしないような自分にとっては勇気のいる、一歩皆が進む道へと足を出そうとする瞬間だった。
朱肉「僕を見つけてくれたあの日、あの時、確かに[漢字]生階[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな] [漢字]朱肉[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]は[太字]死にました。[/太字]」
[太字]あの "生階 朱肉" は、もういない。[/太字]