嘘つきたちの輪舞曲【Lier's world】
ガタリ
「.........」
ポツポツ、と髪から雨の滴が落ちて、薄暗いだけの部屋の床に透明な星を描いていく。
それには何も感じなかった。
ただ、そう言えば傘を忘れたな、と思うくらいしか僕にはなかった。
ただ暑さがうざったらしいのと同じ理由で、接着剤となった雨で肌に貼りついた制服に行き場もない苛立ちだけ覚えていた。
[水平線]
[太字]「もう......放っておいてよ!!」
「希望があるかもなんてずっと思うくらいなら、最初から絶望に叩き落されてる方がずっと楽だった!!」
「もう、救われたいなんて甘ったれた事考えたくないの!!」
「いつまでも夢を見させてくるような先生が、狂いそうになるくらい憎くておかしくなりそう!!」[/太字]
[水平線]
朱肉「..........ッ」
先生は心配そうな目で、真面目な[漢字]表情[/漢字][ふりがな]カオ[/ふりがな]で僕を救けようとしてくれた。
先生は優しいから、きっと僕の事を心の底から心配してくれてる。
[太字][漢字]こんな事程度[/漢字][ふりがな]自業自得[/ふりがな]なんかで囚われてる僕にでも、手を伸ばしてくれてるんだ。[/太字]
.........でも
.........でも僕は、先生の手を振り払ってしまったから。
貴方には分からないだろうと、手を掴むのを止めたから。
僕は言っちゃいけないことを言ってしまったと思うから。
心配してくれている相手に向かって、それを無碍にするようなことを。
先生だって見ててつらいのにそれを隠していつも通り振る舞ってくれてるのに。
僕だけ、僕だけ自分勝手な。
[水平線]
「 ........ご、めん 」
[水平線]
早く謝らないといけないと分かっていても、その言葉すら出ないくらいに憔悴しきっていた。
...........それを振り絞って言えただけ、まだ後悔はない。
「[太字].........っ!?[/太字]」
[小文字]「[太字]........っ、なんッ、で、なんでッ[/太字]」[/小文字]
あー。ヤバいな、これ。
ふらふらと壁を伝ってトイレに向かう。
[水平線]
[小文字]「はぁっ......はぁっ......」[/小文字]
嫌な音を立てながらついさっき口にしたものがずるずると流れていく。
と言ってもほとんどは昼間に吐き出されていて、出てきたのは気を紛らわすために食べたスティックパン程度だが。
それでも喉を過ぎ去る瞬間が一番気持ち悪い。
「ゲホッ、ゲホッ.........」
しんどかった。
煮え切ったまま行き場を失くした苛立ち、チリツモを繰り返して腐れきったストレス。
身体から引きずり出されていくソレが、限界を超えて出ていったそういうモノたちの具現化なのかと思うと、とてもじゃないが怖かった。
[小文字]「........はぁ、はぁ、......ッ」
「.........なんで、なんでこんな、ッ......」[/小文字]
震える声でそう呟けば、制御できないくらいたくさんの涙が肌をなぞった。
現実を見せつけられたみたいな気分だった。
[太字]............いくらでもこれがいつも通りだと言い聞かせても、なぜか誤魔化しは効かなかった。[/太字]
笑っても見ないふりをしても取り返しがつかないくらいに『いつも通り』の中に混ざっていたはずなのに。
............なんで。なんで、僕は言えなくなったんだろう。
朝露さんにも、夕凪先生にも、瑠偉くんにだって、言えたはずなのに。
.........。
[水平線]
何でだろう。
図書室前に呼ばれるってだけなのに、なぜか胸騒ぎがする。
[水平線]
「あ、いや、それは別にいいんだけど.........」
「伝えられてた要件、さっきから何も聞いてないなって」
[水平線]
夕凪「......ッ、どうして、どうして頼ってくれないんだよお前は.........」
[水平線]
[太字]______皆のことを、信じてたから........?[/太字]
[小文字]朱肉「..........今さら、今さら、そんなの......」[/小文字]
そう呟けばまた涙が溢れてきて、もう殆ど枯れてしまった涙を絞り出すように懸命に泣いた。
割り切らないといけないっていうのは分かっていて、でもぐちゃぐちゃの心では何も考えられない。
これ以上先にも行けなくて、後にも引けない。
傷だらけで刺す場所も残ってないような心臓を誤魔化すためだけに、ただひたすらに僕は泣いた。
[太字]窓の外の曇り空と、窓の内側でずり落ちる結露と、僕とで。[/太字]