嘘つきたちの輪舞曲【Lier's world】
〜 夕凪side 〜
ガラガラガラ......
夕凪「荷物........持ってきたぞ」
[小文字]朱肉「............先生」[/小文字]
弱々しく、胃酸に焼かれ掠れた声で目も合わせずに、それは独り言のように呟いていて。
夕凪「............」
夕凪「......どうした?」
朱肉「.........」
それは一言、小さく、虫の声のよう呟く。
[小文字]朱肉「.........繧ゅ≧蜒輔∵カ医∴縺溘>繧�」[/小文字]
霧のかかったように、ノイズ音のように聞こえてそれは聞き取れなかった。
夕凪「......えっと、?」
夕凪「ちょ、もう一回言ってくれるか?聞こえなくて......」
朱肉「[太字].........なんでもないよ[/太字]」
...........まるで、さっきのそれは何もなかったかと言うように、彼女は独りでに話し始めた。
その感情が、俺にはさっぱり分からない。
[太字]人の悩みが、痛みが、感情が、ある人には分からないまま他人事のよう触れられるとの一緒だ。[/太字]
夕凪「.........は、はぁ......? それってどういう......」
さっきから、目も合わせてくれない。
こちらに振り向いてすらくれない。
朱肉「.........」
朱肉「[太字]..........どうせ先生には、分かんないよ[/太字]」
分かりきってるみたいな、最初から決めつけてるみたいな、
.........それが俺には、許せなかった。
夕凪「っ......」
夕凪「[太字]勝手にそんなの......決めつけんな........![/太字]」
朱肉「........うるさい」
朱肉「[太字]........先生に、僕の気持ちなんて分かるわけない[/太字]」
朱肉「[太字]だって、[漢字]見た目[/漢字][ふりがな]身体[/ふりがな]が同じでも、[漢字]中身[/漢字][ふりがな]性別[/ふりがな]は違うんだから当然でしょ。[/太字]」
夕凪「ッ.........」
さっきから聞こえる彼女の声が、驚くほどに冷たい。
雨の音に感化されて突き刺さる。心臓までも冷えるような、それくらい冷たい声。
夕凪「......ッ、どうして、どうして頼ってくれないんだよお前は.........」
朱肉「.........先生にだけは、言われたくない」
夕凪「.........それでも、!
朱肉「[太字].......うるッさい!![/太字]」
二人きりの保健室に声が響く。
彼女がここまで声を荒げた事に、自分の身体が凍結した。
朱肉「[太字]もう......放っておいてよ!![/太字]」
夕凪「..........。」
朱肉「[太字]希望があるかもなんてずっと思うくらいなら、最初から絶望に叩き落されてる方がずっと楽だった!![/太字]」
朱肉「なのに、いつまでも夢を見させてくるような先生が、狂いそうになるくらい憎くておかしくなりそう!!」
朱肉「[太字]もう、救われたいなんて甘ったれた事考えたくないの!![/太字]」
夕凪「........あ、っ......」
........まず、一つ。
[太字]目の前の彼女は泣いていたこと。
瞳から出ていく透明な涙は、顎の辺りで大渋滞起こして布団を濡らしていたこと。[/太字]
______そして驚くほど虚ろな、人形の瞳のような、
地面さえも写さないほど、黒く、黒く、深く。
[太字]深淵を通り越すほどの真っ暗な瞳で泣いていたこと。[/太字]
.........二つ。
[太字]きっとそれは、俺のせいだということ。
............俺の、今までに振るった、自分勝手がすぎるエゴのせいであること。[/太字]
朱肉「.........ッッ」
夕凪「.........」
もう彼女の荷物の重さなど気にすることもできなかった。
もう、呆然としていた俺の肩からはとっくに滑り落ちていたから。
俯いた彼女は小さく呟く。
[小文字]朱肉「[太字]........ご、めん[/太字]」[/小文字]
それだけ言って音もなくゆっくりと立ち上がると、俺の横にあった荷物を取って、呆然とする俺を置いて、
保健室登校のためにあった保健室の帰り口から、帰ってしまった。
[太字]______傘も差さずに。[/太字]