嘘つきたちの輪舞曲【Lier's world】
[中央寄せ]〜 朝露side 〜[/中央寄せ]
「いらっしゃいませ〜」
今日も、ただ何ら変わりのない日々を送っている。
もうこの景色も日常も慣れてしまった。
「.........あ、いつの間に倒れて......」
写真立てに飾った『思い出』
なぜかよく倒れる。
ただ、その度それを思い出せるのだ、それはそれでいい。
カランカラン......
写真立てが元に戻るのと赤い扉が開くのが同時、
金属が重なり触れ合う音と、舞い込んだ桜風。
その逆光越しにお客様一人が揺れる耳飾りを気にかけながら扉の先にいる。
「いらっしゃいませ〜、カウンター席どうぞ〜」
と言ってもまぁ、本当はどの席も大体空いてるから好きに座ってもらっていいんだけど。
出会いやら始まりの季節、店の中は空白の方が多い。
今も席にいるのは彼を除いて1人だけ。
度々来てくれている、おそらくサークル帰りとかの大学生だ。
でもそんな中でカウンター席選ばせるってのは、[太字]ただ俺が喋りたいだけ[/太字]ってだけなの。
ちょっとくらい誰かさんで心の穴に応急手当してみたっていいでしょ、別に。
???「.........じゃあ、いつもの炒飯かな」
「はいはい、ネギ多めな」
今にも割れそうなほどの、繊細な彼の、ガラス玉の瞳が笑う。
夏場の黄昏と紫陽花を順番に筆で塗り拡げたような色。
「............あぁそうだ、お客さん。」
その髪、灰かぶりな色は壊れそうな目元の嘘を隠すためなのだろうか、そういうべきか。
空気がピリつくをの感じる。
???「......どうしましたか?」
「君、最近よくウチに来てくれてるでしょ?ありがとね。」
???「......いえ、こちらこそですよ。いつも美味しいものをありがとうございます。」
言葉が出るまでの少しの呼吸、視線から視える少しの焦燥。
それはもう、反吐が出るほど見ていた。
「.........あのねお客さん。」
???「どうしましたか?あと別に人いなかったらお客さん呼びなのもうやめていいって言いましたよね、俺......」
「[太字]心に嘘を付くのはやめたらどう、笹淵くん[/太字]」
???「っ、......」
[太字]分かりきっていたけど、ビンゴだな。[/太字]
「............」
まさしくそれは『動揺』でありながら『肯定形』であると悟る。
『無言は肯定』なんて言葉、一度くらいは聞いたことないだろうか。
.......ただ、これ以上何も深堀りする気はない。
[漢字]個人情報[/漢字][ふりがな]プライベート[/ふりがな]なんて、決意あるいは覚悟がそこにない限り開示できるようなものではない。
「ただ俺が言いたいのは、嘘の笑顔貼っ付けんのはやめたらどうだって話だ。」
「愛想笑いだけで世渡りできるとかは、......思わないでほしいんだわ。」
???「.........バレてますか」
そう答えたサンバイザー越しの彼は、顔色も声色も笑っているのに、なぜか冷たかった。
「お前に何があるかは知らないけど、もう俺はそーいうの見たくないわけ」
「ちょっとは分かってくれたらいいんだけどな、[太字]" [漢字]笹淵[/漢字][ふりがな]ささふち[/ふりがな] [漢字]界斗[/漢字][ふりがな]かいと[/ふりがな] "[/太字] くん。」
[太字]笹淵[/太字]「[太字]______分かりません、かね。[/太字]」
[太字]笹淵[/太字]「[太字]あなたと違って俺、心は読めないので。[/太字]」
一度妬みを映した深淵はすぐに帰り、またそこには濁った曇りガラスの瞳が戻る。
ただ、妬みと曇り空だけがそこに残っている。
彼の鋭い眼差しの影響か、彼を見つめた途端自分の眼光すらが鋭くなってしまう。
見抜いていると言うように、また突き刺すように、
俺の視線が彼を捉えていた。
[水平線]
〜 笹淵side 〜
朝露「はい、炒飯ネギ多め。食う時はサンバイザーくらい外せよ」
「.........流石にそんくらい分かってますよ、」
朝露「それでこの前炒飯にサンバイザーのツバ突っ込んでたのはどこの笹淵かな」
「俺、ですね......。((」
苦笑交じり、程々に。
先程までの低い声はどこへやら、彼......店長。いや、ここでは朝露さんと呼ぶべき『存在』。
彼もまた、結局はどこかで嘘は重ねていたのだろう。
______そう、嘘。
[太字]『嘘』という、軽々しいようで誰が背負っても重い、そんな罪。[/太字]
それを吐いた、今までの分が全て償えると言うのなら。
とっくに僕は、救われている。
[太字]______神様はいても、何もしてくれやしない。[/太字]
賽を振って自分で全部動かす。
賽を振っておきながら自分の思い通りに動かしだってする。
[太字]イカサマだってズルだって平気でする。[/太字]
動かすのに飽きられたらその人の一生涯はどん底に落とされるし、
お気に入りはいつまで経ってもお気に入りのままだろうから、それはそれで[漢字]幸せ[/漢字][ふりがな]凄惨[/ふりがな]な人生になる。
[太字]______ただそれは、残酷な現実の『 存在証明 』であった。[/太字]
[太字][中央寄せ]第1小節『 存在証明 』 End[/中央寄せ][/太字]