嘘つきたちの輪舞曲【Lier's world】
[中央寄せ]〜 佐々木side 〜[/中央寄せ]
彼女はボタン前、私の隣に並ぶ。
ご丁寧にボタンは二つ置かれているのだから。
少し遠くの方で男の子は何も言わずこちらを見て立ち尽くしている。
まるで時が止まったように、言葉を失っているのか知らないが、その場に立ち尽くしている。
瞳にはただ何か深い感情だけが宿って、私たちを包む沈黙と静寂の中で [太字]"人としての存在感"[/太字] だけが確かにそこに存在していた。
レモン「佐々木さん」
佐々木「............」
レモン「私、やっと気づきました」
レモン「[太字]一番怖いもの[/太字]」
レモン「私は、私にとっての大事なものを失うのが一番怖いって、[太字]やっと気づきました[/太字]」
レモン「すごく心が空っぽになるんですよ、こんなにも」
それぞれに友だちがいる。
それぞれの時間がある。
それぞれの世界があって、それぞれの思考が複雑に飛び交い合っては絡まる。
[太字]............ヒトとは実に愚かな生き物だ。
でも、愚かさ故に愛おしいのだろう。[/太字]
それに比べて世界とは残酷で。
この残酷な世界を人間の存在で目を逸らし続けて私たちが生きている。
[太字]______私は苦しさを背負う覚悟を決めたように、静かにそっと目を伏せた。[/太字]
今は彼女と目を合わせたくなかった。
[太字]貴方にはその重さは分からないだろうと、そう考えた。[/太字]
カチリ、とボタンを押すとポーンと点灯する音が二つ重なって響く。
ランプの音は光ってそれを知らせる。
佐々木「........」
私の答えは、元から頭の中で決まってた。
[小文字]佐々木「[太字]...........この世に、生きている事[/太字]」[/小文字]
[太字]この世はこれでもかと言うほどそこに壁があってぶつかって、それを壊さなければそこに『未来』はない。
これからも、そんな苦しみの中で、足掻かなければ。
生き苦しくても、私は生きなければいけないんだ。[/太字]
[水平線]
[中央寄せ]〜 レモンside 〜[/中央寄せ]
信じたところで変わっていくものだから傷つくと言うのは分かっているのに、
どうして手放せないんだろう。
まだどこかで、期待以上の見返りを求めてるのだろうか。
[太字]______こんなに遅効性の毒って、あったんだな。[/太字]
今になって毒が回ってきたよ。
佐々木「............」
ボタンの前で彼は佇んでいて、『案内人役』と自ら名乗っていた青年は少し遠く離れたところでこちらを気まずそうに眺めていた。
[小文字]レモン「.........もう、早く帰ろう」[/小文字]
[太字]私はもう帰る準備、できてるから。
答えはもう......決まってるから。[/太字]
そう言いたかったけれど、この耐えられないほどの沈黙の圧にそれは押しつぶされた。
ごめんね佐々木、もうメモなんて取ってられるような様態じゃないんだ。
こんなのに巻き込んでごめんね。
早く帰りたい、私の心はこれでもかと言うほど早くに寝返った。
カチッとボタンの鳴る小さな音を容易くかき消してしまうほど、押されたことを示す音が鳴る。
私の答えは今決まったばかり。
[小文字]レモン「[太字]............大切な何かが変わっていく事。[/太字]」[/小文字]
[太字]大好きなものがいつかは廃れていくように、消えていくように、はたまた、忘れ去られるように。
私の信じたものが変わっていくのが、私の中の何よりの苦しみだから。
______例えそれが息苦しいものなら、私は耐えられる自信なんてないよ。[/太字]