嘘つきたちの輪舞曲【Lier's world】
[中央寄せ]〜 レモンside 〜[/中央寄せ]
荒々しい口調、適量と言うべきながなり声。
ジトッともたついたその重苦しい瞼の裏の瞳は、確かに佐々木のものだ。
でも本質は違う。
[太字]『あれ』は、もう一人の佐々木だ。[/太字]
[太字][漢字]あの日の私を殺した[/漢字][ふりがな]私を変えてしまった[/ふりがな]、不幸者なもう一人。[/太字]
レモン「誰かと思えば、......[太字]鈴木さんじゃないですか[/太字]」
レモン「私の方からはお久しぶり.........そう、言えばいいんですかね」
[小文字]レモン「.........貴方はずっとその身体の裏側から見てきたんでしょうけど。」[/小文字]
鈴木「............」
レモン「.........んで?[漢字]コウサイラクカ[/漢字][ふりがな]幸災楽禍[/ふりがな]?と言い偉そうになったといい、まー好き勝手言ってくれたじゃないですか。」
レモン「............どういう意味なのか、教えてもらいますからね。」
[太字]______そう私が捉えた彼の瞳には白も黒もなかった。[/太字]
ただ死んだ魚のように獣のように、見開かれた灰色の瞳孔がこちらに迫る。
目を合わせ互い見ている深淵、
何もない駅には大きく聞こえる、手袋を被った拳を握りしめる音、
右足を前に出され、
恐怖の味を無意識的な内に感じて、
いくら反応が遅かろうと反射的に身構え目を瞑る、
[太字]殴られる。[/太字]
レモン「っ、.........?」
鈴木「............」
[太字]______上げられてた手袋は止まったままだった。[/太字]
[水平線]
〜 鈴木 / 佐々木 side 〜
俺から何の攻撃も来ない事、喋らない事、その両方に目の前のコイツは驚き不思議がっていた。
息を震わせ、恐る恐る湿っぽくなっていた目を開け、少し震えた目で此方を見つめていた。
「............少し、感情が[漢字]昂[/漢字][ふりがな]たかぶ[/ふりがな]っただけだ」
ごめんと、そう謝罪できたのは冷静に戻れたと言っていい事なのか?
そうであれば、俺の役目は一旦お終いになる。
[漢字]彼女[/漢字][ふりがな]コイツ [/ふりがな]は俺に対して返答はせず、ただ息を凝らし、身体を突き刺してしまうほどの鋭い瞳で此方を捉えていた。
プツリと俺の、"俺として" の意識は、シャットダウンする。
______ "私" が帰ってくる。
「、............」
変わってないとか、腐った精神だとか。
ぐるぐるとその言葉が頭を廻る。
実際、私の去り際聞こえたそれは、私にも向けられていたような気がするから。
佐々木「............レモンさんは弱いんです」
佐々木「それなのに語るのは、......やめてください」
[小文字]佐々木「[太字]............苦しむのは私だけでいい[/太字]」[/小文字]
ようやく出せた声は苛立ちと、哀しみが混じっているのが自分でも分かる。
自分の胸の奥から絞り出されたように呟く。
私の瞳に怒りだけでなく、酷い疲れと諦めが滲む。
彼女が変わったことを嘆きながらも、[太字]その弱さを責める自分自身にも嫌気が差していた。[/太字]
過去と[漢字]現在[/漢字][ふりがな]イマ[/ふりがな]の断層を抉るようなこの奇妙な都市伝説の中で、私はどうしていられようか。
きっと私は、彼女が変わっていなければ、
レモンさんが取り繕うとしていなければ、[太字]私は............[/太字]
[水平線]
............気持ち悪い。
立っているのが精一杯なんだ。
______こんなに苦しいなんて、知らなかったな。
[太字]信じてたのに裏切られるような気分一つなんかで、こうなるなんてさ。[/太字]
これだから私の信じたものを変えたくはなかったんだ。
進むべき道を、間違えたくなかったんだ。
[太字]............もう少しくらい、愉悦に浸らせてほしかったよ。[/太字]
もう私、疲れちゃったよ。
疲れた時こそ甘いものは欲しくなる。
私の精神安定剤は、そういうので手に入るんだから。
周りに置いていかれないようにして生きてきたのを、[太字]『置いてかれてもいいや』にしたのが、私の一番の間違いだった。[/太字]
周りが目まぐるしく変わっていくのを見るのは、もう嫌だ。
______あぁ、そうか
人の幸せを潰すことが愉悦だったんじゃなかった。
[太字]人が『変わっていかない』、そんな安心感だけ覚えたかったんだ。[/太字]
それだけだったんだ。