獣魔のあなたへ
カーテンの隙間から朝日が差し込んできた。
「んん…」
ゆっくりと身を起こす。隣に巫女がいて一瞬驚いたが、昨日泊めたんだったと思いなおす。
巫女の桃色の髪の毛は、今日も透き通っていてきれいだ。寝ているときは髪を下ろしていて、なんだかいつもと違う雰囲気。そっと触れたくなって、指を通したのがまずかった。
「あっ。おはよう隊長」
もう少し寝顔を見ていたかったが、起きてしまったものは仕方がない。
「おはよう。良く寝れた?」
「うん。抱き枕最高」
抱き枕というのはきっと私のことなのだろう。二日酔いで頭が痛い。
「ねぇ」
「何」
時々巫女は遠い目をしている。
私に辛いことがあったように、巫女にも辛い過去がある。幼い言動は彼女がまだ17歳だからで、本当は家族といる年ごろなのだから。
「ううん。何でもない。今じゃないから」
「そっか」
巫女はたまに何かを言いかけて、やめる。
私といる時だけだ。何かを伝えたくて、だけど言葉にできない。そんな感じだろう。
昨日の空き缶はちゃんと処分されていた。
お礼に朝食を振る舞い、巫女を送り返す。
「またね」
「うん、また」
なぜ私は巫女に入室権限を与えているのだろう。
なぜ帰るなとひきとめたのだろう。
わからない。巫女への接し方を、私はいまだつかめていない。
次に巫女と会ったのは、雨の降るある夜のことだった。
「たいちょー、怪我した」
桃色の髪は結ばれておらず、ところどころに血がついていた。
血は巫女の足から出ている。
「寝てたら痛くなって、血が出てた」
仕方がないので止血をし、傷を見た。
あわてて口に手を当てる。そうしないと悲鳴を上げるところだった。
「瘴気が…」
「ん?ああ。イロハの森の時の奴だぁ」
「病院行かないと!とりあえずギルドの診療所にコールして…」
「隊長。もういいよ」
「え?」
巫女は瘴気がまとわりつく足に触れた。
瘴気の勢いは止まらず、彼女の指まで腐らそうとした。
「手遅れだよ。獣魔になる前に暴いて」
「でもそんなことをしたら…」
「うん。私は死ぬ」
巫女の手が、私の頬に触れた。
「た、助けないと」
「助ける?どうやって?」
助ける。巫女を助けるにはどうすればいい?
「このままだと私は醜い怪物になる。そして隊長を襲っちゃうよ」
「だけど…」
「ギルドは私を治してはくれない。他の奴に暴かれるより、隊長に暴かれた方がいい」
巫女の両手が私の頬に触れる。私はその上から手を添えた。
震えが伝わってくる。巫女も怖いのだ。
「は、やく。おね…がい…。じゅうま…になっちゃう…」
巫女の面影を残したまま、あの日と同じように怪物になっていく。
考える前に刀を抜いた。
「それで…いい。あとは、はやく…」
巫女が残る力をすべて使って獣魔化を食い止めようとしている。
巫女の手が、滑り落ちる。
今度は私が巫女の頬へ触れた。涙が伝う。
巫女の白い喉元へ、切っ先を当てた。
「隊長、いままでずっと…」
巫女の瞳が暗く陰った。
本当に獣魔へ堕ちてしまったのだ。
「好きだったよ、巫女」
血が伝う。真一文字に切り裂いた。
そして、自分の腹に、剣をまっすぐ突き立てる。
痛みと怒りと悲しみが、私の中で渦を巻く。
私は巫女だったモノへ手を伸ばす。
巫女だったモノも、私へ手を伸ばした。
重なり合うように倒れる刹那、姉の笑顔が垣間見えた気がした。
「んん…」
ゆっくりと身を起こす。隣に巫女がいて一瞬驚いたが、昨日泊めたんだったと思いなおす。
巫女の桃色の髪の毛は、今日も透き通っていてきれいだ。寝ているときは髪を下ろしていて、なんだかいつもと違う雰囲気。そっと触れたくなって、指を通したのがまずかった。
「あっ。おはよう隊長」
もう少し寝顔を見ていたかったが、起きてしまったものは仕方がない。
「おはよう。良く寝れた?」
「うん。抱き枕最高」
抱き枕というのはきっと私のことなのだろう。二日酔いで頭が痛い。
「ねぇ」
「何」
時々巫女は遠い目をしている。
私に辛いことがあったように、巫女にも辛い過去がある。幼い言動は彼女がまだ17歳だからで、本当は家族といる年ごろなのだから。
「ううん。何でもない。今じゃないから」
「そっか」
巫女はたまに何かを言いかけて、やめる。
私といる時だけだ。何かを伝えたくて、だけど言葉にできない。そんな感じだろう。
昨日の空き缶はちゃんと処分されていた。
お礼に朝食を振る舞い、巫女を送り返す。
「またね」
「うん、また」
なぜ私は巫女に入室権限を与えているのだろう。
なぜ帰るなとひきとめたのだろう。
わからない。巫女への接し方を、私はいまだつかめていない。
次に巫女と会ったのは、雨の降るある夜のことだった。
「たいちょー、怪我した」
桃色の髪は結ばれておらず、ところどころに血がついていた。
血は巫女の足から出ている。
「寝てたら痛くなって、血が出てた」
仕方がないので止血をし、傷を見た。
あわてて口に手を当てる。そうしないと悲鳴を上げるところだった。
「瘴気が…」
「ん?ああ。イロハの森の時の奴だぁ」
「病院行かないと!とりあえずギルドの診療所にコールして…」
「隊長。もういいよ」
「え?」
巫女は瘴気がまとわりつく足に触れた。
瘴気の勢いは止まらず、彼女の指まで腐らそうとした。
「手遅れだよ。獣魔になる前に暴いて」
「でもそんなことをしたら…」
「うん。私は死ぬ」
巫女の手が、私の頬に触れた。
「た、助けないと」
「助ける?どうやって?」
助ける。巫女を助けるにはどうすればいい?
「このままだと私は醜い怪物になる。そして隊長を襲っちゃうよ」
「だけど…」
「ギルドは私を治してはくれない。他の奴に暴かれるより、隊長に暴かれた方がいい」
巫女の両手が私の頬に触れる。私はその上から手を添えた。
震えが伝わってくる。巫女も怖いのだ。
「は、やく。おね…がい…。じゅうま…になっちゃう…」
巫女の面影を残したまま、あの日と同じように怪物になっていく。
考える前に刀を抜いた。
「それで…いい。あとは、はやく…」
巫女が残る力をすべて使って獣魔化を食い止めようとしている。
巫女の手が、滑り落ちる。
今度は私が巫女の頬へ触れた。涙が伝う。
巫女の白い喉元へ、切っ先を当てた。
「隊長、いままでずっと…」
巫女の瞳が暗く陰った。
本当に獣魔へ堕ちてしまったのだ。
「好きだったよ、巫女」
血が伝う。真一文字に切り裂いた。
そして、自分の腹に、剣をまっすぐ突き立てる。
痛みと怒りと悲しみが、私の中で渦を巻く。
私は巫女だったモノへ手を伸ばす。
巫女だったモノも、私へ手を伸ばした。
重なり合うように倒れる刹那、姉の笑顔が垣間見えた気がした。
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